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山田順(ジャーナリスト・作家)

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山田順の「週刊:未来地図」No.844:日米協調介入があっても円安基調は変わらない!「帝国循環」とはなにか?
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山田順の「週刊:未来地図」                 

No.844 2026/08/04

日米協調介入があっても円安基調は変わらない!

「帝国循環」とはなにか?

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 7月末の日米協調介入により、ドル円は163円台から一時155円台まで下降。円安が円高に反転した。ただ、この先どうなるかと言えば、円安基調は変わらない。

 今回の介入は、アメリカによる日本救済などではない。アメリカにはアメリカの目算、国益があるうえ、利益相反など気にもしない大統領まで存在する。

 ドルは日本円とはまったく違う「基軸通貨」である。このことで、1度出たドルは再びアメリカに戻るという「帝国循環」が起こり、これがアメリカ財政を支えている。

 *本稿は、「Yahoo!ニュース」に寄稿した記事をベースにして、さらに詳しくしたものです。

[目次]  ─────────────────────

 

■トランプ大統領の「友情の証し」は真っ赤なウソ

■これ以上、円安、日本の債権安を放置できない?

■出て行ったドルが戻ってくる「帝国循環」とは?

■なぜ世界最大級の対外純債権国なのに貧しいのか?

■介入で得た売却益は「円安ホクホク」ではない

■為替の売却益を利益と捉えるのは無理がある

■日本をもう少し生き延びせねばならない

■トランプのインサイダー疑惑も考えられる

■日米の金利差も日本の経済状況も変わらない


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■トランプ大統領の「友情の証し」は真っ赤なウソ

 

 今回日米の協調介入で、円相場は一時155円台まで上昇した。ただ、これで歴史的円安が反転するかと言えば、高市首相の“無責任な放漫財政”が続く限りありえない。

 

 片山財務大臣は、「最近見られた円の過度な変動や無秩序な動きに対処した」と述べ、「われわれは今後さらなる介入も躊躇しない」と付け加えた。

 ベッセント米財務長官も同様の考えを示し、「経済安全保障は国家安全保障そのものだ」と表明した。トランプ大統領にいたっては「友情の証し」とし、「日本とはいい関係。真珠湾という例外はあったが」と述べた。

 

 しかし、アメリカが目算もなしに、日本を助けるだろうか? トランプほど利にさとく、貪欲な大統領はいない。「友情の証し」は真っ赤なウソだ。記者団の質問に、最後は「アメリカ自身も経済的利益を得られる」と答えている。

 

■これ以上、円安、日本の債権安を放置できない?

 

 今回の協調介入は、各種メディアによれば、かつてジョージ・ソロスの部下だった“策士”のベッセントが、今年の1月 から、検討に入り、実行のタイミングをうかがっていたという。その理由は、「日本円売りと日本国債売り(金利上昇)が同時発生した」からだそうだ。これ以上、円安、日本の債権安を放置すると、それが米国金利に及ぶことを懸念したからだという。

 本当だろうか?

 

 メディアやエコノミストは「円安は米国の輸出を不利にする」「為替介入のために米国債が売却されると、米国の金利が上昇する」など、アメリカ側の理由を解説している。 

 

 しかし、根本原因にはドルの「帝国循環」にある。これ以上、日本円が弱くなると、ドルも道連れにされかねないからだろう。

 

■出て行ったドルが戻ってくる「帝国循環」とは?

 

 アメリは世界覇権国であり、それを支えている最大の要因はドルが基軸通貨であり、世界の経済・金融はドルなしではできないことにある。その結果、アメリカから1度出て行ったドルは再びアメリカに戻る。これが「帝国循環」である。

 

 世界史を見れば、覇権国家は常に従属国家群から富を奪うことで成立してきた。古くはローマ帝国がそう。中国の歴代王朝も、従属国の朝貢と恭順によって成り立ってきた。これを「帝国循環」と呼び、世界経済はいまもこのシステムで回っている。

 

 ニクソンショック後の日米関係を見れば、これは明らかだろう。1985年のプラザ合意も、1990年代の日米構造協議も、1990年代後半からの金融ビッグバンも、すべて「帝国循環」をどうするかという日米の話し合いだった。

 

■貿易収支と経常収支の赤字を埋めるのは?

 

 アメリカは世界最大の対外純債務国。一方、私たち日本は、世界最大級の対外純債権国(第1位はドイツ、第2位がインド、そして日本は第3位)。この状況を普通に考えると、債務国(借金国)のアメリカより債権国(貸金国)の日本の方が豊かでなければおかしい。

 しかし、そうならないのは、ストックよりフローの方がはるかに重要だからだ。対外純債権などというのは単なる帳簿上の話。一部の高市応援団の学者が「日本には対外純資産が豊富にあるため財政は問題ない」と言っているが、それはヨタ話。フローが枯渇すれば危ない。

 

 世界覇権国アメリカの経済・金融は、債券や国債によって低金利の資金を大量に調達し、それを対外直接投資に回して利ざやを稼ぐことで回っている。その投資の多くは、世界の株式などの金融市場に投入され、所得収支を稼いでいる。

 

 米財務省の資金循環統計を見れば、「帝国循環」は明らかだ。世界各国は常に得たドルをアメリカに戻している。日本はその筆頭で、稼いだドルのほとんどで米国債を購入し、アメリカにドルを戻している。極端化して言えば、貿易において、日本に貿易黒字は存在せず、アメリカに貿易赤字など存在しない。

 

■介入で得た売却益は「円安ホクホク」ではない

 

「Yahoo!ニュース」などのコメント欄を見ると、為替介入の仕組みを知らず、「円安ホクホク」の高市発言を信じ込んでいる“情弱”が多いことに、本当に嘆かわしい思いになる。高市応援団は、とくにそうだ。

「今回の介入で何兆円も得したから、それを次の消費減税の財源に回せる」など言っているから、話にならない。

 

 日本がドルを調達するには、まず、財務省が「政府短期証券」=現在は「国庫短期証券」を発行する。そうして債券市場で円を調達し、その円を今度は為替市場で売却してドルを得るという仕組みになっている。

 

 このとき日本が円で買ったドルは、そのまま日本政府に入ってくるわけでない。そのドルはほとんど米国債購入に充てられるので、結局はアメリカ財務省の懐に入るのである。

 また、「国庫短期証券」というのは国債の一種だから、返済しなければならない。よって売却益は、一定割合(原則30%以上)は積立金(準備金)として残さなければならないことになっている。

 

■為替の売却益を利益と捉えるのは無理がある

 

 たしかに、日本政府は、外国為替資金特別会計(外為特会)で生じた剰余金の一部を、毎年度、一般会計に組み入れている。その額は、為替介入を行った昨年(2025年度)は、なんと3兆円超に上っている。

 だから、一見すると「円安ホクホク」とは言える。

 しかし、それは円より価値のあるドルを円に替えたのだから、価値としてはマイナスである。過去と現在の為替差額(売却益)を、そのまま「利益」と捉えるのには、無理がある。

 

 だいたい、円より価値のあるドルを売却するなど、個人でも企業でもやらない。家計でも企業でも、財政が悪化するだけだ。自分の首を絞めるような行為である。

 

■日本をもう少し生き伸びさせねばならない

 

 話を戻す。さて、円安がさらに進み、日本が米国債を購入する余力がなくなればどうなるだろうか? アメリカは最大の「帝国循環」貢献国を失うのだ。

 つまり、アメリカは日本に代わる「帝国循環」貢献国をつくる必要がある。とすれば、今回の協調介入はそれまでの繋ぎではなかろうか。日本をもう少し生き伸びさせねばならないのだ。

 

 今回の介入も日本に米国債を売らさず、FRBの「FIMAレポ・ファシリティ」により米国債を担保にドルを日本に貸し付けた。売却させたら、金利上昇を招くので、それを防ぎ、「帝国循環」を堅持したと言えるだろう。


 さらに、トランプが関税をふっかけて約束させた「対米投資5500億ドル」(ドル円163円後半なら約90兆円)を、確実に実行させるという目的もある。

 それを考えれば、ベッセントがメモで残した「円買い入れ50億~100億ドル」など安いものではないか。

 すでに第1弾の約360億ドル、 第2弾の最大約730億ドルは開始されている。残りを払わすための「延命措置介入」とも言える。

 

■トランプのインサイダー疑惑も考えられる

 

 もう一つ、この協調介入に対しての、アメリカ側の目算、というよりトランプのインサイダー疑惑が考えられる。

 これまで、トランプはイラン戦争で、発言を二転三転(より十転十一転か)させ、原油の先物トレードで儲けてきたとされている。

 

 なにしろ「完全に破壊する」だの「停戦は間近だ」など、週末に発言しては、原油価格を暴落、急騰させ続けてきた。

 大統領だから、すべてのことは事前に知っている。今回の協調介入も週末であり、ベッセントと組んでいたのは間違いないだろう。「友情の証し」などでは断じてないことだけは確かだ。

 

 ただし、ドル円取引だと問題になる可能性があるので、あえてドル円ではなく、ユーロ円のレートチェックを行って、ユーロで円を買っている。 ドルで円を買ったとは一言も言っていない。

 

■日米の金利差も日本の経済状況も変わらない

 

 以上のことから言えるのは、日米両政府が、自由市場に手を突っ込んで、為替操作を行ったということだ。投機を行っているのは、投機筋ではない。政府自身である。

 したがって、円安基調は今後も続く。円高基調にはならない。

 

 なぜなら、アメリカの政策金利は3.50%~3.75%、日本の政策金利は1.0% この金利差は変わらないままだし、日本経済の状況も変わらないからだ。

 高市首相は「責任ある積極財政」の看板を下ろして政策転換をする気はないだろうし、円を取り巻く状況は悪くなる一方だ。


 イラン戦争によるエネルギー価格の高騰、対中強硬によるレアアースなどによるダメージ、AI乗り遅れによるデジタル赤字の拡大、自動車産業の競争力劣化など、いい材料はない。

  市場は冷静である。介入により、ファンダメンタルが変わったわけではない。円安基調は今後も続く。


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