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山田順の「週刊:未来地図」
No.843 2026/07/28
ただの夢物語?なぜ懲りないのか?
NVIDIAを迎えての
国家フィジカルAIプロジェクト
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“時の人”NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが、なぜわざわざ日本にやって来たのかと思ったら、それは、経産省が華々しく打ち上げた国家プロジェクトのためだった。NVIDIAのGPUを使い、日本のハイテク企業が結集して国産「フィジカルAI」をつくるというのだ。
こうしたプロジェクトを含めて、高市政権は「骨太の方針」をまとめ、2040年度までに17戦略分野へ累計370兆円の官民投資を行うことを閣議決定した。
しかし、ここ30年間、官民一体のプロジェクトが成功した試しはない。
写真:7月21日、首相官邸で開かれた「骨太の方針」会議での高市首相(首相官邸HP)
[目次] ──────────────
■ジェンスン・フアンを迎え赤澤経産相、大ハシャギ
■国内44社と経産省の官民一体「オールジャパン」
■なぜ失敗に学ばない?同じことの繰り返しになる
■部品技術は世界トップクラス。やる気があれば---。
■人材がいないうえ、投資額はあまりにも少ない
■AI開発は「骨太の方針」370兆円投資の目玉
■「骨太の方針」17の分野は本編の物語がない目次
■官が主導して弱者連合が「みんなで渡る」
■中国は官民一体の年次計画成功させている
■旧日本軍が繰り返した失敗をまた繰り返す
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■ジェンスン・フアンを迎え赤澤経産相、大ハシャギ
国産のフィジカルAI開発する「官民一体」のプロジェクトが、7月16日始動した。
そのオープニングイベントに、高市早苗首相は、「フィジカルAIを日本で生み出し、世界に打って出る。プロジェクトを日本再起の旗印にしていきたい」とのビデオメッセージを送った。そして、来日した“時の人”、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが、「フィジカルAIは日本がけん引し、日本でつくられるべきだ」とスピーチすると、赤澤亮正経産相は満面の笑顔を浮かべた。
この日、彼はジェンスン・フアンのトレードマークである革ジャンを着用し、2人揃って“革ジャンツーショット”を撮るという大ハシャギぶり。さらに、自身の公式Xに、この写真をアップし、《開口一番、赤沢から同CEOに「ジェンスン、今日ひょっとして私の格好マネた?」と訊いたらウケました》とコメントした。
このオープニングイベントと、経産相のXを見て、「これはダメだ。どうして懲りないんだ」と思ったのは、私だけではないと思う。
■国内44社と経産省の官民一体「オールジャパン」
今回のプロジェクト「FRONTia(フロンティア)」は、フィジカルAI向けの国産マルチモーダルモデル(視覚言語モデル)を開発する官民一体の日の丸プロジェクト。その顔ぶれは、ソフトバンクやソニーグループ、NEC、ホンダなど国内44社で、まさに「オールジャパン」だ。
この44社が出資するAI開発企業「Noetra(ノエトラ)」と産業技術総合研究所が開発を進め、NVIDIAは次世代GPU「Rubin」約2万7500基を含む大規模計算基盤を提供する。経産省(国)は、とりあえず5年間で、約1兆円を支援する。
2026年度から言語モデル、2028年度からマルチモーダルモデル、2030年度から自律型AIと段階的に開発を進め、日本の産業知識を保護する「主権AI」の実現を目指すという。
オールジャパンだけに、各メディアの報道は華々しく、期待に満ちたものだったが、関係先、現場の声を聞くと、すこぶる評判が悪い。
■なぜ失敗に学ばない?同じことの繰り返しになる
以下は、主だった関係者、現場の声の要点をまとめたもの。
「経産省が音頭をとった日の丸連合、オールジャパン体制で、これまで成功した例はありますか。MRJ、エルピーダ、JDI、クールジャパン、ラピダス、第5世代コンピュータ……挙げればきりがない。なぜ失敗に学ばないのでしょうか。同じことの繰り返しに終わるのは間違いない」
「確かに、日本の現場には培った技術がある。それをデータ化してまとめAIに学ばせれば、独自のフィジカルAIは開発できる可能性がある。
しかし、こんな何十社もの集合体では、各社バラバラのデータをまとめるだけで時間がかかる。開発・実装までのタイムラインはただの願望でしょう」
「計画すること自体はいい。問題は、いかに実現させるかですが、そのプロセスに具体性がない。最大の問題は、組織です。集団合議制で成功したIT企業、AI企業なんてありませんよ」
■部品技術は世界トップクラス。やる気があれば---。
フィジカルAIとは、AIにロボットや自動運転車などの「物理的な身体」を与え、現実世界を自律的に認識・判断して行動させる技術。それをヒト型ロボットにすれば、いわゆるヒューマノイドになる。
このヒューマノイドができれば、製造、物流、介護、災害などの現場でヒトに代わって働かすことができる。
ヒト型ロボットは、公開された動画を見ると、アメリカ、中国が圧倒的に進んでいる。とくに中国のものは目を見張るものがあり、日本は出遅れた感が否めない。かつて、ホンダのアシモやソニーのアイボなどで先行したいたはずが、いまや完全に周回遅れである。
ただ、ある関係者はこう言う。
「日本のロボットの部品技術は、いまも世界トップクラスです。ハーモニックドライブ(波動歯車装置)、RV減速機は、ハーモニックドライブシステムズ、ナブテスコが世界シェアの 60〜80%を持っています。また、サーボモーター(自動制御モーター)は安川電機、三菱電機、パナソニックが高精度・高耐久で世界の工場ロボットに採用されています。高精度センサーもオムロン、キーエンス、村田製作所が製造。中国の人型ロボットにも日本製センサーが多数使われています。ですから、ほかの条件さえそろえばできなくはないと思います」
■人材がいないうえ、投資額はあまりにも少ない
計画に問題ない、技術もあるとなれば、問題は、先に挙げた現場の声にあるように、組織と進め方だろう。官民一体、オールジャパンと言えば聞こえはいいが、その実態が「烏合の衆」なら、投資は無意味。血税の無駄である。
この組織と進め方の問題にさらに加えたいのが、人材と投資額の問題である。人材に関しては常々問題にされてきたが、日本にはハイテク分野を牽引していける人材がいない。さらに、その分野に長けたリーダーもいない。
これでは、開発できるわけがない。
また、たとえ優秀な人材がいたとしても、集合体の各企業が、それぞれの社のトップ人材を提供するだろうか?
投資額に関しては、1兆円と聞いて呆れる人間ばかり。たとえば、米のハイテク4社(アマゾン、アルファベット、メタ、マイクロソフト)の設備投資は、2026年1年間の見通しで計約6500億ドル(約105兆円)。
「政府が1兆円なら、民間はおつきあい程度にしか出さない。これでなにができますか?」と、関係者。
