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山田順の「週刊:未来地図」 ― 日本は、世界は、今後どうなっていくのでしょうか? 主に経済面から日々の出来事を最新情報を元に的確に分析し、未来を見据えます。

山田順(ジャーナリスト・作家)

山田順

山田順の「週刊:未来地図」No.735:「トランプvs.ハリス」大統領選が暗示するアメリカ白人優位社会の終焉


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            山田順の「週刊:未来地図」                 

                          No.735 2024/08/13

     「トランプvs.ハリス」大統領選が暗示する

              アメリカ白人優位社会の終焉

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 副大統領候補にティム・ワルツ(ミネソタ州知事、60)を指名して態勢が整ったカマラ・ハリス(59)陣営の勢いが増している。「ハリス旋風」に脅威を感じたのか、トランプ前大統領(78)は個人攻撃を繰り返し、墓穴を掘りつつある。

 このままいけば、おそらくハリスが勝つだろう。ただし、もしそうなれば、「分断、分断」と騒がれているアメリカ社会の混迷は深まるのか? それとも落ち着くのか?

 いずれにせよ、アメリカで続いてきた「白人優位社会」は終焉を迎え、アメリカが新しいフェイズに入るのは間違いないだろう。

[目次]  ─────────────────────

■なぜ副大統領候補にワルツを指名したのか?

■「BLM」の理解者であることもポイントに

■州兵、高校教師から下院議員、知事に

■ミネソタは『大草原の小さな家』の舞台

■ハリス陣営の戦略はまだ功を奏していない

■トランプが付けたあだ名は「笑うカマラ」

■「インド人なのか? それとも黒人なのか?」

■「人種差別主義者」と言うより「白人優位主義者」   

■「肥溜(shithole)のような(汚い)国の連中」

■非白人人口の増加に白人が抱く恐怖心

■「WASP」を頂点とする白人社会が崩れる

■「白人57.8%」対「非白人42.2%」という構図

■「DI」が示すアメリカの民族・人種の多様化

■白人がマイノリティになったらどうなるのか?

■インド人と黒人の混血であるという意味

■人種ピラミッドでは混血は黒人側に押しやられる

■9月10の公開討論での直接対決が待たれる 

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■なぜ副大統領候補にワルツを指名したのか?

 

 正式に民主党の大統領候補となったハリスは、副大統領候補(ランニングメイト)を、ミネソタ州知事のティム・ワルツ(60)に決め、本格的な遊説に乗り出した。

(*ワルツより、ウォルツのほうが実際の発音に近いが、日本のメディアがワルツと表記しているので、そのままワルツとする)

 副大統領候補をめぐっては、何人かの名前が挙がったが、民主党は選挙に勝つために、もっとも無難な人間を選んだと言える。

 それは、なんと言ってもワルツがドイツ、スウエーデン系のルーツを持つ白人男性であることだ。これが最大のポイントで、これによりインド人と黒人の混血でカラードであるというハリスに、白人の有権者を引きつけることが可能になる。

 実際、アメリカの人種構成の約6割を占める白人は、政党や政策がどうであろうと、非白人を嫌う傾向がある。

 ワルツが、本命視されたペンシルベニア州知事のジョシュ・シャピロ(51)と違ってユダヤ系でなかったことも大きい。さらに、「中西部おじさん」(Midwestern Dad)「農家のバックヤードでのバーベキューで出会うような男」などと形容されるような庶民派だったこともある。これで、共和党が強い中西部の農村票も獲れると踏んだのだと言われている。

 また、彼がルテアン(ルーテル派教徒)で、自分を常に「ミネソタ・ルテール派教徒」(Minnesota Lutheran)と言ってきたことも指名のポイントとなった。

 

■「BLM」の理解者であることもポイントに

 

 ミネソタ州ミネアポリスは、2021年5月、全米、いや世界中に衝撃を与えた白人警官による黒人男性圧迫死事件(通称「ジョージ・フロイド事件」)の発生地である。

 この事件を契機に、「ブラック・ライブズ・マター運動」(BLM)は一気に広まり、大きな政治問題になった。

 このとき、ワルツは同州の諸宗教の指導者らに協力を呼びかけ、正義・安全のためのコミュニティづくりを提唱した。このことも、副大統領候補に選ばれたことの大きなポイントだ。

 なにしろ、ハリスはビヨンセ(42)の「Freedom(フリーダム)を、選挙運動のキャンペーンソングに使ったからだ。この曲は「BLM」の象徴となった曲である。

 ミネソタはいわゆる「激戦州」(swing state:スイングステート)ではない。ただ、接戦州であり、ウィスコンシン、ミシガン、オハイオといった激戦州の白人に近い層を持つことから、トランプの白人支持層を切り崩す可能性がある。

 

■州兵、高校教師から下院議員、知事に

 

 ちなみに、ワルツ自身は、ミネソタの出身ではない。

 ネブラスカ州の人口3500人ほどの小さな町ウエストポイントの出身で、17歳で陸軍州兵に入隊し、24年間従事した。そうして、退役軍人の教育給付金制度を利用して地元のシャドロン州立カレッジを卒業し、高校教師になった。

 1994年、教員時代に出会って結婚したグウェン夫人がミネソタの出身だったため、ミネソタに移り住んだのである。

 ミネソタ州に移住して教員を続けた後は、2007年に連邦下院選に出馬。それに勝利して下院議員を6期務め、2018年には知事選に立候補して当選した。現在、州知事として2期目を務めている。

 米メディアの紹介記事によると、下院時代は民主党内の中道派だったが、知事に再選された後はリベラル色を強めたという。プロチョイスを保証する州法の成立や、学校給食の無償化などに尽力した。トランプはワルツを、「ウルトラライト」(極左)と批判している。

 

■ミネソタは『大草原の小さな家』の舞台

 

 話はややそれるが、ミネソタには日本でも大ヒットしたテレビドラマ『大草原の小さな家』(Little House on the Prairie)の舞台となったウォルナットグローブと言う村がある。原作者ローラ・インガルス・ワイルダーが少女時代を過ごした小さな村だ。

 私は、この物語を何度も繰り返し読み、テレビドラマを見続けた。この物語には、アメリカ中西部に移住した欧州白人家族の歴史が集約されており、本当のアメリカを知る格好のテキストだからだ。というより、ローラという少女のキャラクターに限りなく惹かれた。

 ローラの一家もそうだが、ミネソタの住民の大半のルーツは、北欧、ドイツである。つまり、白人である。これはいまもあまり変わらず、ミネソタ州の人種構成は、白人 83.1%、黒人.5.2%、ヒスパニック4.7%、アジア系4.0%、インディアン 1.1%.、混血.2.4%(アメリカの国勢調査、2020年)となっている。

… … …(記事全文10,778文字)
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