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渡邉哲也(作家・経済評論家)

渡邉哲也

特集 令和の米騒動とその背景 小泉農水大臣就任
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農水大臣に小泉氏が任命された。また、米の政策は自由化方針から政府管理方針へ変更される見込みとなった。

その根拠法として、食糧法第38条が適用される可能性がある。

江藤氏は農水族の中心的役割を担ってきたはずだが、農水官僚やJAなどの影響を受け、十分な対応ができていなかったとも指摘されている。農水省は、米の先物取引の実験を繰り返してきたが、これは米の適正価格を決定するための試みであった。

第二次世界大戦後、米の価格は食管法の下で管理相場制が採用されていた。米の自由化は政治的な課題の一つであり、市場に適正価格の決定を委ねることが妥当とされてきた。こうした目的を達成するため、農水省は米の商品取引に関する実験を繰り返してきた。


コメ先物が廃止へ 農水省、堂島商取の本上場認めず2021年8月6日 11:01

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF05AKP0V00C21A8000000/

堂島取引所、コメ先物の本上場を申請 市場復活なるか

https://www.nikkinonline.com/article/166780 2024.02.21 21:41

コメの先物取引 大阪の取引所の申請 政府認可 8月新市場開設へ 2024年6月21日

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240621/k10014488511000.html

 また、そこには農水省と経産省の縄張り争いと財務省との対立もあった。

 財務省が中心となって監督するのが、JPXグループ ここは東京証券取引所と大阪証券取引所が一つになったものであり、証券取引から商品取引まで総合的に取引している。東京は証券取引中心であり、子会社となった大阪は商品取引が中心となる。

 商品取引には、ゴムや鉄、金など貴金属などの工業製品(経産省管轄)と大豆や小麦などの農産品(農水省管轄)があり、それぞれ監督官庁が違う。穀物取引所の廃止と大阪への移管と統合には紆余曲折があり、各取引所の取引額の減少などにより、最終的にJPXに統合された経緯がある。

 それに対して、堂島(大阪)は、コメ先物の世界的な先駆けというプライドもあり、独立取引所として、JPXに対抗する存在を示そうとしてきた。その代表格がコメであり、コメを中心とした総合取引所として、再生を図ってきたわけだ。ここは農水省が中心となった取引所でもある。

堂島取引所

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A0%82%E5%B3%B6%E5%8F%96%E5%BC%95%E6%89%80

 そして、今年8月に念願の米穀指数の恒久的上場が認められた。

相場情報 : 堂島コメ平均(米穀指数)

https://www.odex.co.jp/data/market-information/market-kome-shisu/index.html

 コメの商品化は、投機的な取引を生み出す可能性がある。

一般的な商品取引とは異なり、コメ取引は指数取引であり、現物が担保されない。通常の商品取引では、商品の担保が必要であり、先物期日に現物渡しを求められた場合、実際に現物を引き渡す必要がある。このため、倉庫に商品を保管し、倉庫が発行する倉荷証券によって現物が保証される。しかし、指数取引では現物の保証は不要とされる。

しかし、指数と現物は密接に関連しており、投機的な動きが指数を押し上げることで、結果として現物価格に影響を及ぼす。実際、コメ価格の上昇と堂島コメ平均の上場時期は一致している。

コメの管理相場は、この指数取引を無効化する。政府が価格を管理する場合、堂島コメ平均は論理的に機能しなくなる。特に価格の下落を目的とした管理相場に移行すれば、市場の崩壊を招く可能性がある。

現在の市場構造として、JPX(東京証券取引所=財務省・金融庁管轄)と、その子会社である大阪取引所(経産省管轄、大豆や小麦などの農産品が移管)に対し、堂島取引所(農水省管轄、コメを中心とした総合取引)が競合する形になっている。しかし、コメの取引がなければ堂島取引所の経営再建は困難であり、この縄張り争いは長年続いてきた。

農水省にとって、コメの上場と監督は長年の悲願でもある。また、農水省を支える巨大組織であるJA(農業協同組合)は、天下り先として影響力を持つ。コメ価格の上昇は、大卸であるJAや、そのコメを買い取る卸業者にとって大きな利益をもたらす構造となっている。しかし、それが生産者である農家の利益につながらないのであれば、日本の農業にとって必ずしも望ましいとは言えない。


■石破茂首相「コメ5キロ3000円台を実現」 下がらなければ責任

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA216ED0R20C25A5000000/

「石破茂首相は21日の党首討論で、高止まりしているコメの価格について「(5キロで)3000円台にならなければならない」と話した。「一日でも早くその価格を実現する」と強調した。」

■小泉新農相 就任会見で「備蓄米入札を中止 随意契約を検討」

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250521/k10014811761000.html

 5月21日の党首討論で、石破総理は5キロ3000円台という政府目標を明確化し、その上で

小泉氏は、入札による自由化方針を撤回し、随意契約による管理供給への転換に言及した。

 これは食管法38条の適用を意味する。

食糧法第38条「米穀の出荷または販売の事業を行う者に対する命令」

「第三十八条 農林水産大臣は、前条第一項に規定する事態に対処するため、基本指針に即して、米穀の出荷または販売の事業を行う者に対し、その保有する米穀の譲渡、移動または保管に関し、地域または時期の指定、数量または価格の制限に服すべきことを命ずることができる。」

過去30年間、グローバル化の波の中で様々な自由化が進められ、市場の開放が推進されてきた。しかし、インフラの自由化は経済安全保障上、大きなリスクを伴い、電力やガスの自由化もほぼ失敗に終わっている。

電力に関しては、コロナ後の急激な国際資源価格の高騰の影響で多くの企業が破綻し、結果として元々のインフラ企業である電事連(電気事業連絡会)の10社に契約が集約されることとなった。発送電分離の影響もあり、太陽光発電事業の破綻が予想されている。さらに、FIT(固定価格買取制度)が電気代の高騰を招いていることから、国民は次第にこの問題の深刻さに気づき始めている。

再生可能エネルギーに関しても、従来の政策が見直される動きが強まっている。トランプ政権の米国政策転換により、反地球温暖化対策の流れが日本にも影響を及ぼし始めた。日本には、再生エネルギー推進議連(柴山・小泉・河野)や国産再エネルギー議連(麻生・甘利(当時))などの団体が存在していたが、秋本事務局長の逮捕をきっかけに、再エネ議連は機能不全に陥り、その影響力は低下している。

また、経済安全保障の観点からメガソーラーへの批判が強まり、風力発電に関しても採算性の問題から三菱が撤退を表明している。経済産業省の一部や環境省の抵抗はあるものの、政策の見直しに向けた動きが進んでいる。

コメに関しても同様の問題があり、インフラは自由化や民営化ではなく、政府が適切に管理できる体制(電力やガスも民間企業による運営ではあるが、半官半民のような構造)が望ましいという実証結果が示されつつある。

特に、現在のような国際的な戦時下、または準戦時下においては、政府管理を強化する方が価格の安定や供給面で有利である。官僚的な無駄を削減するコストダウンは必要だが、政府の管理強化によって安定したインフラを構築する必要がある。

今回の米騒動は、自由化の問題点を改めて浮き彫りにするものとなった。農水省が積極的な対応を取らなかった理由も、自由化優先の先例主義による影響が大きかったと考えられる。

どちらにせよ、JAの対立的立場にある小泉氏が農水大臣に就任し、方針転換を行うことで今後どのように動くかが注目される。自由化を推進してきた小泉氏が、管理相場の導入に関与するという皮肉な人事であることも興味深い。国民の声を受けた形で政策転換を実現できるかどうか、その手腕が問われることになる。



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