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やっぱり地理が好き ~現代世界を地理学的視点で探求するメルマガ~

宮路秀作(地理講師&コラムニスト)

宮路秀作

やっぱり地理が好き #121:先行境界と分断された民族、「防波堤」だったニジェール①

ウェブで読む(推奨):https://foomii.com/00223/20230806210000112382 //////////////////////////////////////////////////////////////// やっぱり地理が好き ~現代世界を地理学的視点で探求するメルマガ~ https://foomii.com/00223 //////////////////////////////////////////////////////////////// 第121号(2023年8月6日発行)、今回のラインアップです。 ①世界各国の地理情報 ~先行境界と分断された民族、「防波堤」だったニジェール①~ //////////////////////////////////////////////////////////////// こんにちは。 地理講師&コラムニストの宮路秀作です。 日頃、周りの人たちからは「みやじまん」と呼ばれています。 今回で121回目のメルマガ配信となります。 8月となりました。 本メルマガのご購読を継続していただいたみなさま、大変感謝いたします。 ありがとうございます。 「難波の葦は伊勢の浜荻」という言葉があります。 ここでいう「難波」は「なにわ」と読みまして、これは難波では「葦」と呼ぶ草が、伊勢では「浜荻」と呼ばれているということから、物の呼び名や習慣は「所変われば品変わる」ことを喩えた言葉です。これはまさしく、「普遍性と地域性」を端的に表した言葉であり、これこそ地理学を学ぶために重要な概念です。 他にも、「雑煮に入れる餅は四角か丸か?」や「日本には地方ごとに方言が存在する」といったことも、普遍性と地域性を表したものといえます。こうした地域ごとにことなる文化というのは、先天的ではなく、後天的に見つけるものです。稀に、阪神タイガースのファンが「おれは、生まれる前から阪神ファンなんだ!」と嘯くことがありますが、本来、文化というものは後天的に身につけるものです。私も阪神ファンなので、どうようの冗談をいうことがあり、談笑の糸口にしています。 どこで生まれたか、どこで育ったかというのが、その人のルーツであり、自分のルーツというものを変えることはできません。 国家をどのように運営していくかという、人間が持つ永遠の課題には絶対的な正解はないのだと思います。 先日、私が尊敬する同志社大学で教鞭を執られている内藤正典先生に初めてお目にかかる機会を得ました。お話を伺いながら、さながら講義を受けているかのような至福の時を過ごすことができました。そこで先生に「ロマンティシュ」という言葉の意味について、色々と伺うことができました。 われわれは、通俗的に「恋愛物語的な」という意味で「ロマンティック」という言葉を使いますが、本来は「ロマン主義的な」という意味を持ちます。「ロマンティック」という言葉は、ドイツ語の「ロマンティシュ(romantisch)」に由来するものであり、18世紀末から19世紀前半にかけて起こった、精神運動の一つです。 工業化と都市化が進展した時代に、文学や思想、芸術といった個人の感受性や想像力を重視しました。ひいてはこれが近代都市社会ではなく、自然や失われた「過去の世界」を理想像として抱くようになったといいます。ここでいう「過去の世界」とは、特に中世を指していたといいます。 1952年に西ドイツ(当時)で発行された『美しき本シリーズA ドイツの郷里第9巻 ロマンティック街道』という写真集において、編者のシュトラッヒェは、 「ロマンティック街道は、マイン川からアルプスへといたる魅力的な観光街道というだけではなく、実際、ドイツ民族の貴重な財産と偉大な歴史、豊かな文化、熟成の芸術作品、そして内側から起こる感情を調和させて結びつける紐帯である。街道を旅する者は、歓喜してドイツを体験し、他の多くの場所で失われたもの、ロマンティックなドイツを見つけるだろう」 と綴っています。つまり、ドイツのナショナルアイデンティティを育むことができると言っているわけであり、ドイツ人のナショナリズムに訴えて、ロマンティック街道への旅を促そうとしていました。 また、1954年に刊行された月刊旅行誌『メリアン』には、ロマンティック街道を旅する者は、ドイツ人が偉大な過去を持つことを発見できるといった主旨のことが書かれていました。さらに、ノイシュヴァンシュタイン城について「誤ったロマン主義である」とも述べていることからも分かるように、彼らが憧憬の念を抱いたのが「中世」であることが理解できます。 ちなみにノイシュヴァンシュタイン城は19世紀後半、つまり「近代」に築城されたもので、東京ディズニーランドの「シンデレラ城」のモデルになったといいます。築城したルードヴィッヒ2世の祖父にあたるルードヴィッヒ1世は、彼の結婚式が後のドイツ・ミュンヘンにて開催されるオクトーバーフェストの原点となった人物として知られています。このノイシュヴァンシュタイン城が、「ロマンティック街道」の終点となっていることは、きっと反面教師的な意味合いから「ロマン主義の皮肉」としてのことなのでしょう。
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