… … …(記事全文3,487文字)国会の戦後秩序が崩壊した。
是非はさておき、これは「55年体制」の秩序の崩壊を意味し、永田町における国会対策政治の終焉を示唆しているかもしれない。
日本の国会は、「政府 VS 与野党」という構図で運営されてきた。
政府(与党から選出された閣僚)は、野党・与党双方の質問に答える形式をとっている。このため、与党と野党の直接対決は党首討論に限られ、国会内では基本的に与野党対決は行われない。
与党・野党の政策協議と意見集約を担ってきたのが国会対策委員会である。
表に見える国会の場の前に事前協議を行い、ある種の「出来レース」として調整をしてきたのだ。また、国会では前日までに「想定質問」を提出し、それに基づいて官僚が答弁用のペーパーを作成し、閣僚がそれを読み上げるという仕組みが確立されていた。
この枠組みの中で、与党は野党に譲歩し続けてきた。
質問時間の約8割を野党に割り当て、また、多数与党であれば独占できるはずの委員長や副委員長のポストを野党側にも分配してきた。選挙結果に基づけば、与党が独占的に運営することも可能だったが、歴史的に野党へ配慮する形が維持されてきた。
この慣例は、民主党政権下でも守られていた。
さらに、議員立法も原則として全会派一致を前提としてきた。
しかし今回、その秩序は崩された。
瑕疵のない委員長が解任され、与野党合意の下で配分されていた委員長ポストが、数の力で野党側に奪われたのだ。これが許されるならば、多数与党の独裁も容認されることになる。
国会は立法府であり、法律を制定する場である。その独立性が優先されるべきだ。
国会運営のルールは、各院の「先例主義」に基づいて運営されてきた。衆参両院は「先例集」を編纂し、それをルールブックとして遵守してきた。
ガソリン税の暫定税率廃止は、与野党幹事長の合意事項であった。
しかし、それは「玉虫色合意」とも言える国会対策政治そのものであった。ガソリン税廃止の期限を設けず、将来的な廃止に向けて財源を含む議論を進めるという内容であり、1.5兆円の財源問題や暫定税率の地方税部分をどうするかという課題を含むものだった。その後の与野党協議においても、野党側は財源の明示を十分に行うことができなかった。
ガソリン税は元々、目的税として道路特定財源の一部だった。
車の利用頻度に応じて負担する「受益者負担原則」に基づく税金であり、運転者だけでなく、車を利用しない人にも影響を与える仕組みとなっていた。その後、一般財源化されたが、根底にある受益者負担の考え方は変わらない。また、インフラの老朽化が進む中、公平性の観点からもインフラ維持のための受益者負担原則は重要性を増している。
コロナ後、石油価格は上昇し、政府はガソリン税の調整ではなく、元売り各社への補助金を活用する「燃料費激変緩和策」を採用した。
ガソリン税の暫定税率を廃止しても、それは主に自家用車向けの措置に限定されるため、物流で使用される軽油、産業用の重油、暖房用の灯油などには直接影響しない。このため、政府は原油に対する補助金を導入し、油種全体の価格を調整する形を取った。また、この制度では地方税の減額は直接的には発生していなかった。
「燃料費激変緩和」と「ガソリン税暫定税率廃止」を同時に実施すると、低税率のガソリン以外の油種が原価割れとなる可能性がある。
これは国際的に「不正な補助金」とみなされ、ダンピング課税の対象となる懸念がある。
激変緩和は一時的な措置であり、永続的に維持することは困難である。
政府与党は制度を維持しながら、将来的なエネルギー負担軽減の議論を進めてきた。野党もこれを理解しつつ、ガソリン税の暫定税率を批判していたのが実情だ。
しかし、立憲民主党は参議院選挙を前に、7月1日に暫定税率を廃止する法案を一方的に提出した。
これを委員長が阻止したが、与党が過半数を保持する参議院で否決されることは明白だったため、選挙戦略として利用された面がある。他の野党もこれに乗じた結果、今回の事案は国会秩序の崩壊につながる要因となった。
暫定税率を廃止するにしても、最低でも1年間の予告期間が必要である。
また、地方税の減少分を補填するための予算措置を講じる必要がある。そうしなければ地方自治体の財源が不足する。単純な補填であっても、その相当額の給付を組み込む予算措置が求められるが、今国会(22日会期末)での成立は現実的ではない。
与党の対応に不満がある場合、国民の信を問う形で内閣不信任案を提出すればよい。
内閣総辞職や解散を前提としない委員長解任決議は意味を持たない。
最大の問題は、マスコミがこの状況を正しく説明していないことにある。
燃料費激変緩和の仕組みについて、多くの国民が知らず、単に委員長解任のみが報じられている。結果として、国民と日本経済にとって決してプラスにはならない事態が生じている。
確かに、ガソリン価格が下落することは一見好ましいかもしれない。
しかし、その影響で他の油種の価格が上昇し、税収不足による地方自治体の財政困難を引き起こす可能性がある。このような事態は避けるべきであり、単純な税制変更のみに焦点を当てるべきではない。
■衆院本会議、井林辰憲・財務金融委員長の解任を決議 史上初 野党が「審議拒否」を問題視
https://www.sankei.com/article/20250618-GS35IPISSRNEBDEKZDOXQQSURQ/
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