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鳥集徹(ジャーナリスト)

鳥集徹

#89回 東大文1「黄金ルート」の凋落と「医学部」集中 連載「新・医療亡国論──医療が人を不幸にする」その3

前回、医師が増え過ぎたことが国民医療費膨張の最大の要因であること、それが社会保障費の増加をもたらし、国民に負担を強いていることを指摘した。健康で幸せと感じる国民が増えているなら、医師数増加も意味があったと言えるかもしれない。しかし「不健康」「不幸せ」と感じている国民はむしろ増えている。

 

「医師が富み、国民が貧す」。なぜ、そのような本末転倒な事態が起こっているのか。それは、若者たちを導く教育のあり方に、根本原因があると筆者は考えている。その背景を探るのに少し遠回りをして、国づくりに大きな影響を持つ英才たち、すなわち東大を象徴とする学力エリートたちの進路の変遷について考察してみたい──。

 

かつて「東京大学法学部」と言えば、文系学部の最高峰だった。東大文1(文科1類)に合格して法学部を卒業し、キャリア官僚か法曹(裁判官、検察官、弁護士)の道へ進む。それが学力エリートたちの黄金ルートだった。

 

現在はほとんど忘れられているが、「末は博士か大臣か」と言われた時代があった。その言葉通り、理系エリートは研究者になり、文系エリートは政治家になるのが理想とされた。エリートたちの昔の本などを読むと、両者とも戦前は「富国強兵」、戦後は「祖国の復興」に貢献し、国民を率いるという気概が強かったように思う。よくも悪くも、それを中心となって担ったのが東大、なかでも法学部だった。

 

実際、現在の内閣総理大臣である石破茂(慶応義塾大卒)まで64人を数える内閣総理大臣のうち、東大出身者は開成学校出身(東大の前身)の西園寺公望(第12、14代)を含め、最多の19人いる(2位が早稲田大で8人、3位が慶応義塾大と京都大学で5人)。そのうち16人が東京帝国大学法学部出身者だ。戦後も吉田茂(第45,48~51代)、鳩山一郎(第52~54代)、片山哲(第46代)、芦田均(第47代)、岸信介(第56~57代)、佐藤栄作(第61~63代)、福田赳夫(第67代)、中曽根康弘(第71~73代)、宮沢喜一(第78代)と、錚々たる顔ぶれが並ぶ。

 

吉田茂と芦田均は「外務省」、岸信介は「農商務省」及び「商工省」、佐藤栄作は「鉄道省」及び「運輸省」、福田武夫と宮澤喜一は「大蔵省」、中曽根康弘は「内務省」の官僚出身である(ちなみに、鳩山一郎と片山哲は弁護士出身)。彼らが国のリーダーとして優れていたかどうかは別として、東京帝国大学法学部を出て、官僚になって国家運営を学んだ後、政治家となり末は総理大臣を目指すというのが、学力エリートたちの出世モデルの一つとなってきたのは間違いない。

 

だが、時代とともにそのモデルは、大きく様相を変えていった。東大における法学部の人気が低落したのだ。15年ほど前まで文系で最難関だった文1と、最も入りやすい文3(文学部、教育学部、教養学部等へ進学)は、合格最低点が10~20点近く離れていた。ところが近年、その差は縮まっていき、均衡するようになった。そして、2019年には文2(経済学部、教養学部等へ進学)に抜かれ、さらに2021年と22年には文3にまで抜かれて、文1が最下位となった。

 

2025年の合格最低点は、文1(約336点)がトップに返り咲いている。だが、それでも2番目の文2(約332点)とは、およそ4点差と拮抗している(文3は約322点)。文1が文2を逆転したのは、前年の結果から文2より文1のほうが合格しやすいという受験生たちの打算もあったのではないか(週刊現代「『東大文一・法学部が日本最難関』の時代は完全終了…『文二の躍進』『超エリート学部設立』で東大がもうすぐ『まったく違う大学』に変わる」2025年2月3日など参照)。

 

いずれにせよ、文1が他の文系科類に比べて断トツに難しいという時代でなくなった。これは東大に限った現象ではないはずだ。なぜ文1、すなわち法学部の人気が低落したのか。それは、学力エリートたちにとって法学部に学んで官僚や法曹の道へ進み、果ては政治家になって国を率いるという黄金ルートの輝きが色褪せたからに他ならない。

 

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