… … …(記事全文4,548文字)前回、1992~2022年までの30年間で、日本の国民総生産(GDP)が約483兆円から約566兆円と1・17倍しか成長していないにもかかわらず、国民医療費がこの30年間で2倍になったことを示した。2022(令和4)年度の国民医療費は、GDPの8・24%にもあたる46兆6967億円にまで膨らんでいる。
そのために、国民の社会保障(医療、介護、福祉)にかける負担が増加している。物価の上昇に所得が追い付いていないため、収入が増えても可処分所得が伸びない。その一方で、医療費の膨張で国民所得に占める「国民負担率(租税負担+社会保障負担)」が上昇したために、国民は貯蓄を切り崩さねばならないほど、経済的に苦しくなっている。
つまり、医療が富む一方で、国民は貧しくなっているのだ。なぜ、それほどまでに国民医療費が膨張したのか。昨年2月、厚労省の審議会に出された慶応大教授らによる分析によると、最大の要因は「医師数」だった。医師数は1992(平成4)年に21万9704人(人口10万人当たり176・5人)だったのが、30年後の2022(令和4)年には34万3275人(同274・7人)と1・56倍も増加していた。
医師数が増えれば、彼らの食い扶持を確保するため、その分の医療費を増やす必要がある。これまで国民医療費の膨張は、日本社会の高齢化や医療の高度化、高額な薬剤の増加などが元凶であるかのように言われてきた。だが、その最大の原因は、実は「医師が増えたこと」だったのだ──そこまでが、前回の要約だ。
医師数が増えて医療にかける経済的負担が増えたとしても、それによって満足度の高い医療を受けられる機会が十分提供され、国民の健康度や幸福度が上がっているのならば、その現実を我々は受け入れるべきかもしれない。だが、果たして30年前と比べて国民の「健康度」や「幸福度」が向上したと言えるだろうか。
国民の健康度を客観的に測定するのは難しいが、たとえば東京都が18歳以上の男女4000人を対象とした「健康に関する世論調査」を3~4年ごとに行っている。それによると、自分の健康状態を「よい」(よい+まあよい)と評価した人の割合は、およそ30年前の1994(平成6)年には83・8%だったのが、2024(令和6)年には77・0%と落ちている。反対に「よくない」(あまりよくない+よくない)と評価した人は94(平成6)年に15・9%だったのが、24(令和6)年は22・4%に増加した。
つまり、自分の健康状態を「よい」と感じる人が減り、「よくない」と感じる人が増えているのだ。もちろんこれは大都市である東京都の結果だが、厚労省や内閣府なども同様の健康意識調査を全国規模で行っている。定期的に調査されていない、母集団が異なるなど推移を比較しづらかったので取り上げなかったが、それらでも健康状態を「よい」とする人が増えている傾向は見られない。
実際に人々の生活は「不健康」になりつつあるようだ。厚労省の令和5(2023)年「国民健康・栄養調査」の「結果の概要」を見ると、直近10年間で喫煙者の割合は男女とも減少している。しかし、「肥満者が男性で増加」「野菜摂取率が男女とも低下」「歩数の平均値が男女とも低下」と、喫煙以外の生活スタイルは、むしろ悪くなっている。それが、上記のような健康状態の評価低下につながっている可能性がある。
もう一つ、「幸福度」の推移についても見てみよう。世界的な世論調査会社イソプスが日本を含む世界約30カ国を対象に幸福度を調べている。16~74歳の日本人約2000人を対象とした調査の結果、2011年に「幸せ」(とても幸せ+どちらかといえば幸せ)と回答した人は70%だったが、2024年には57%にまで低下した。
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