… … …(記事全文4,862文字)「mRNA技術に反対か、賛成か」
このような問いを、X(旧ツイッター)でDNA残留問題やレプリコン反対運動に熱心な人物たちから何度も投げつけられた。ストレートに「No」と言わないものなら、「コロナワクチン反対と言いながら、ⅿRNA技術を守ろうとしている」などと叩かれるのがお決まりだ。また、レプリコン反対運動に絡む未承認サプリビジネスの問題を追及したときにも、「我々の活動を妨害するのは、mRNA技術がダメになると困るからだ」などと、憶測に基づく意味不明の反論をされた。
まず、わたしが言いたいのは、このような「踏み絵」のような議論は大嫌いだと言うことだ。様々な利害、思惑、言動が絡む超複雑な社会では、単純に「Yes」「No」で答えられない問題が多い。この問いもその一つだ。にもかかわらず、「Noと答えなければ、お前を集団で叩いてやる」という姿勢は、すでに教条主義や全体主義を孕んでいる。我々はたんにコロナ騒ぎに反対してきたのではない。コロナを怖いものと決めつけ、マスクやワクチンを強要するような教条主義および全体主義と闘ってきた。だからこそ、我々の側が異論を許さぬ独善的な思想に陥るべきではない。
ところで、このmRNA技術の問題を考えるうえで、知っておくべき興味深いニュースを最近読んだ。mRNAワクチンが膵がんに有効かもしれないというのだ。膵がん術後の患者を対象にした治験(第1相試験)の結果が、学術誌「Nature」で報告された。それによると、独ビオンテック社と米ジェネンテック社(ロシュグループ)が開発中のⅿRNAワクチン「オートジーン・セブメラン(autogene cevumeran)」と「免疫チェックポイント阻害薬」を併用した治療によって、腫瘍細胞に特異的な標的タンパク質に対する免疫反応が、最長4年間維持されたという(Forbes Japan「mRNAワクチン、膵臓がん治験で有望な結果を示す」2025年2月26日)。
mRNA技術を用いたがんワクチンの基本的な仕組みはこうだ。まず、治療対象となるがんの腫瘍細胞に発現している特異的なタンパク質の遺伝子をⅿRNAにコードする。それを注射すると樹状細胞(免疫細胞の一種)がmRNAを取り込み、腫瘍細胞特異的なタンパク質を抗原として提示する。それを受けて細胞傷害性T細胞などの免疫反応が活性化し、標的となるタンパク質を発現している腫瘍細胞を攻撃する。これに免疫チェックポイント阻害薬や従来の化学療法も加えることで、術後の再発防止を目的とした「補助療法(アジュバント・セラピー)」の効果を高めようというのが、この治療の目的だ。切除した腫瘍切片のゲノムを解析することで、その患者特有のタンパク質のmRNAを個別に作るオーダーメード治療もできる(もし理解が間違っていたら、どなたか指摘してほしい)。
これが実際のところ、どれくらいの再発予防効果や延命効果をもたらすのか。3段階ある治験のうちの、まだ第1段階が終わったに過ぎないので、今のところまったく分からない。治験の段階で有望とされたが、実臨床で応用してみたところ期待外れだった、あるいは適応が限られることが分かったという事例は、これまでにいくらでもある。また、予想外の重篤な副作用が出て、問題となることもしばしばあった。この治療も、mRNAワクチンというプラットフォームを使う限り、自己免疫疾患をはじめとする重篤な副作用が多発しないとも限らない。
だが、がん患者支援団体はすでに期待しているようだ。「NPO法人パンキッシュジャパンすい臓がんアクションネットワーク」が2024年4月7日の海外ニュースとして、「個別化mRNA免疫療法候補薬は切除後膵臓がん患者の腫瘍再発を遅延」という記事をホームページに掲載している。2024年のアメリカがん研究協会(AACR)年次会議で行われた口頭発表で、オートジジーン・セブメランは、被験者となった16人のうち8人で、腫瘍細胞に特異的なタンパク質に対するT細胞の強い免疫応答を引き起こしたと報告された。そして、免疫応答を引き起こした8人のうち6人は3年間のフォローアップ期間中に無病であったが、免疫応答を示さなかった8人のうち7人は腫瘍再発を示したなどの結果が記載されている。
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