… … …(記事全文4,849文字)「倉田真由美、夫が膵臓癌で亡くなったけど、抗がん剤投与行わず、緩和ケアもしなかったのか/反ワクチンだけでなく、反医療になってたんだな」
これは2025年2月9日、漫画家の倉田真由美さんが「そこまで言って委員会NP」(読売テレビ系)で発言した内容に対し、<io302>なるアカウントの人物が、X(旧ツイッター)に投稿した文章だ。投稿はすでに削除されているが、プロフィール欄を見るとio302氏は「小児科フリー医」なのだという。倉田さんはこの番組の中で、昨年2月に亡くなった夫の叶井俊太郎さん(映画プロデューサー・享年56歳)が1回も抗がん剤を使わず、(根治的な)手術も目指さなかったこと、そして緩和ケア施設に入らず、最期まで自宅で過ごしたことを明かしていた。
このio302氏のポストに、<よっこ医しょういち>氏や<EARLの医学ノート>氏をはじめとする「反反医療」「反反ワクチン」の医師アカウントが同調。「緩和ケアすらしていないって・・・」(EARLの医学ノート/投稿はすでに削除されている)。「反ワクチンで反医療/緩和ケアなしだは阿鼻叫喚の痛み・苦痛になるはずだけど、それを拒否とは/ある意味筋が通っているなと思ったら/ちゃっかり現在医療の恩恵=オピオイド(モルヒネ)による緩和は受けてたの?」(よっこ医しょういち/文章ママ)などと、倉田さんを揶揄するリプライをつけた。
これら一連の投稿に対して、倉田さんはio302氏のポストを引用して「夫は緩和ケア病棟には入らず、本人の希望通り最期まで自宅で過ごしました。痛み止めなどは当然しています。夫の選択を侮辱しないでください」と抗議。さらに二度目の引用ポストで、自宅で緩和ケアを受けていたことを明かし、「『痛みに苦しみながら最期を迎えた』などと勘違いも甚だしいものに関しては法的措置も考えます」と警告を発した。
この一連のやり取りはXで大きな反響を呼び、「日刊スポーツ」や「東京スポーツ」の記事にもなった。叶井さんのインタビューや倉田さんが漫画や文章で書いてきたことを読んでいれば、叶井さんが最期まで自分らしく生きるために、苦痛を取る治療を優先して抗がん剤を受けない選択をしたことが分かる。そうしたことを知ろうともせず、こともあろうに「医師」たちが事実誤認に基づいて、「反ワクチン」だの「反医療」だのと揶揄したことに対して、倉田さんが怒るのは当然だ。
さらに、これらに関連して、倉田さんが2月11日にあげた次のポストも大きな反響を呼んだ。2月14日時点で90万もの閲覧数となっている。これからのがん医療、および医療全体のあり方を考える上で非常に重要で、わたしも共感できる内容なので全文を引用させていただく。
「日本人の死因一位はがんです。標準治療をした場合は『よく頑張った』『最後まで闘い抜いた』と言われるのに対し、しない場合『もったいない』『反医療』『愚か』など他者からの非難を浴びることがあります。してもしなくても亡くなる時は亡くなるのに、しなかった場合だけ、その選択をしたことをバカにされ踏み躙られることがあります/少しでもそんな空気感を変えられたらと思っています」
このポストの意味を考えるにあたって、まず理解の前提として「標準治療」とは何かを整理しておきたい。国立がん研究センターが運営するサイト「がん情報サービス」の用語集では、次のように解説されている。
「標準治療とは、科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療をいいます」
そして、その具体的な検査や治療のアルゴリズムを、各学会が「診療ガイドライン」としてまとめている。現代医療は、その診療ガイドラインを参照しながら、進められることが多い。
日本語で「標準」と聞くと、「松竹梅」の「竹」に当てはまると考えるかもしれない。しかし「医学的常識」に基づけば、標準治療は臨床試験によって裏打ちされた、エビデンスのある最良の「松」の治療ということになっている。だから多くの医師が、標準治療こそが患者にとって「最善」だと考えてしまうのだ。とくに「がん医療」では、その考えが根強い。
医学ではこの考えが浸透しているために、標準治療を信奉する医師たちの頭の中は、こんなふうになっている
臨床試験で「延命」することが「証明」されている標準治療(手術、抗がん剤、放射線など)を受ければ、患者は長く生きられるはず。にもかかわらず、「抗がん剤は効かない」「がん治療は体を痛めつけるだけ」「放置したほうが長生きする」といった「反医療」の思想が邪魔をして、標準治療を拒否するがん患者が後を絶たない。しかも、藁にも縋る思いの患者や家族をターゲットにする悪徳な業者や医師たちが、反医療の思想を利用してエビデンスのない民間療法、健康食品・サプリメント、免疫療法など高額医療に誘導する。それによって命を縮め、経済的にも被害に遭うがん患者や家族が後を絶たない──
彼らには彼らなりの「正義」がある。だから、彼らは「反医療」を嫌うのだ。io302氏、EARL氏、よっこ医しょういち氏らの考えは医師の中でも極端だ。だが、一般の病院に勤める多くの医師も、少なからずこうした「反反医療」の思想に染まっている。そのことを、25年以上がん医療の現場を取材してきたわたしは実感している。そして、その考え方の延長線上に「反反ワクチン」の思想もある。コロナワクチンに反対するわたしたちは、そのことをよく理解しておく必要がある。
では、わたし自身はどう考えているのか。
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