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X(ツイッター)では言えない本音

鳥集徹(ジャーナリスト)

鳥集徹

#65 疑われる阪大教授・忽那賢志氏の「中立性」 ~【ファイザー】コロナワクチン「疾患啓発広告」の欺瞞~

2024年11月13日、X(旧ツイッター)のコロナワクチンに反対する人たちの間で、疑問や嘆きの声が上がった。読売新聞にコロナワクチンの接種検討を訴えるファイザー社の全面(一面)広告が載り、そこに感染症専門医・忽那賢志氏の姿があったからだ。それを知ってわたしも内容を確かめるべく、近所のコンビニエンスストアに走り、読売新聞を買い求めた。

 

「新型コロナウイルス感染症をめぐる今 重症化リスクの高い方は対策の一つとしてワクチンの定期接種を」と題された広告は、忽那氏のモノローグ(一人語り)形式となっており、「5類以降、入院患者が増加傾向にある」「65歳以上の高齢者や基礎疾患のある人は重症化リスクが高い」「高齢患者は後遺症として記憶障害や認知機能障害が現れることもある」といったことが解説されていた。そして最後に「感染や重症化リスクの予防対策の一つとして」ワクチン接種を検討するよう促していた。

 

コロナワクチンの接種率は上がらず、低迷していると伝えられている。その背景には、多くの人々がコロナを怖がらなくなった、ワクチンの効果が乏しいことに気づいた、副反応がきつかった、健康被害が多いことを知った、政府や医学界を信用できなくなった、レプリコン騒ぎでワクチンが危ないと知ったなど、さまざまな要因があるだろう。だが、コロナワクチンが一部自治体を除き有料となったことや、定期接種となったことが知られていないのも大きいだろう。今回のファイザーの広告は、そうした状況を打開して、接種率を向上させる狙いが大きいと思われる。

 

そんなコロナワクチン接種を促す広告に、忽那氏が登場したのは初めてではない。2021年6月27日には「ワクチン接種を悩んでいる方、ぜひお考えください。私も打ちました」という青地に大きな白抜き文字が躍る政府の全面広告に、忽那氏はイラストで登場した。同年11月29日には、「いま、正しくワクチンを理解しよう」と題するファイザー社提供の見開き広告に写真付きで掲載。さらには政府の動画やCMだけでなく、「子どもの新型コロナワクチン接種をお願いします」と題した宮崎市のCMにも協力していた。まさに、コロナワクチンの「広告塔」と言ってもおかしくない活躍ぶりだった。

 

21年7月1日には国立国際医療研究センター国際感染症対策室医長から、大阪大学大学院医学系研究科感染制御学第3代教授に就任した。だが、今回の読売新聞の広告に掲載された忽那氏のプロフィール欄には、なぜか「大阪大学」の肩書は書かれていなかった。確認したところ24年11月14日現在も、感染制御学のホームページに忽那氏は教授として掲載されている。もしかすると、国立大学の教授でありながら一私企業の広告に出たことに余計な詮索をされたくないからかもしれないが、今も変わらず阪大教授であったとしたら、所属が広告のプロフィールに書かれていないのは、かえって不自然で不誠実な感が否めない。

 

ちなみに製薬各社から大学など研究機関や所属する医師らに流れた金銭の情報をデータベースとしてまとめているTANSA「製薬マネーデータベース」によると、忽那医師は2021年に第一三共、杏林、MSDなど17社から講師謝金等の名目で約433万円を受け取っていた。その支払い企業の中にファイザー社の名前は見当たらないが、2022年以降も注目する必要があるだろう。たとえファイザー社の広告に無償で協力していたとしても、一私企業に肩入れしているというだけで、やはり国立大学教授としての倫理観を疑われて仕方がない。

 

忽那氏はXのみならずYahoo!ニュースに新型コロナやワクチンに関する解説記事をたびたび執筆してきた。YouTubeにも忽那氏が登場する解説動画やショート動画が多数アップされている。多くの医学会で新型コロナやワクチンをテーマとした講演も行っており、一般市民のみならず医学界にも影響力を持っている。その一方で、コロナワクチンの製造販売元であるファイザー社の広告に出演しているわけだ。多額の血税が注ぎ込まれている大阪大学としての信用にも関わる問題ではなかろうか。

 

それに、どうして国立大学の教授を使って一般人をコロナワクチン接種に誘導するような広告が、製薬会社に許されているのだろうか。実は医療用医薬品を医療関係者以外の一般人に訴求する「DTC(Direct to Consumer)広告」は、「薬機法(医薬品医療機器等法)」や「医薬品等適正広告基準」(平成29年9月29日厚生労働省医薬・生活衛生局長通知)で規制されている。したがってワクチンについても、製薬会社は新聞やテレビ等で一般向けに宣伝することができないはずなのだ。

 

だが、その代わりに行われてきたのが、製薬会社を広告主とする「疾患啓発広告」だった。これは特定の病気について、特徴的な症状や注意すべき年齢、検査の重要性などを説くことによって受診を促したり、薬があることを知らせるものだ。たとえば十年ほど前、爆笑問題の二人が出てきて「抜け毛が気になったら」「まずはお医者さんに行きましょう」と言うテレビCMが盛んに流されたことがあった。これは実質的に、AGA(男性型脱毛症)治療薬「プロペシア」(一般名フィナステリド/現在はオルガノン社に移管)の発売に合わせた、MSD社の広告だった。

 

この数年の間では、GSK(グラク・ソスミスクライン)社の帯状疱疹のテレビCMを目にした人も多いはずだ。「歳を取ると免疫機能が落ちるっていうでしょ。そうすると帯状疱疹ってなりやすいらしいよ」と話しながら、娘役の井上真央がGSK社の「帯状疱疹予防.jp」というサイトを見せる。それをのぞき込んだ母親役の風吹ジュンが「50過ぎたらって私じゃない。もっと詳しく調べてみてくれる?」と応じる。そこに「家族で話そう 帯状疱疹」というナレーションがかぶさる。これも実質的には、GSK社の「シングリックス」という帯状疱疹ワクチンを接種させるためのCMだ。

 

ちなみに帯状疱疹ワクチンのCMが盛んに流されたのは、多くの人がコロナワクチンを接種している最中だった。読者の多くは知っていると思うが、コロナワクチン接種後に帯状疱疹が増えたと言われており、実際に増加したことを示す海外の論文もある。製薬業界のマッチポンプぶりを露骨に感じたのはわたしだけではないはずだ。また他にも「認知症薬(アリセプト等)」や「HPV(子宮頸がん)ワクチン」など、新しい医薬品が出たときや販売機会を増やしたいタイミングが訪れるたびに、疾患啓発広告が繰り返されてきた。要は疾患啓発広告が、規制を逃れたい製薬会社の「ステルスマーケティング」に利用されてきたのだ。

 

今回のファイザーの広告もこれに当たると考えられるが、私は疾患啓発広告には大きな問題があり、全面的に禁止するべきだと主張してきた。それは疾患啓発広告が規制逃れになっているだけでなく、効果が限定的であることや重篤な副作用があり得ることなど、製薬会社に都合の悪い情報を一切伝えることがないからだ。病気のことを「啓発する」というのは建前で、ただただ病気の不安を煽って特定の医療に誘導するだけの道具になっている。過剰な医療の害から消費者を守るためにも、このような広告を野放しにすべきではない。

 

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