… … …(記事全文4,911文字)mRNAワクチンの危険性を訴えてきた研究者のあいだで、「レプリコンワクチン」に対する見解が割れている。簡単に言えば、体内で自己増幅したレプリコンワクチンのmRNAが細胞膜の一部を纏ってエクソソーム(細胞外小胞体)となり、細胞外に飛び出してウイルスのように非接種者にも「感染」して、人から人へ伝播してしまうのではないか、という問題だ。
レプリコンワクチンに「感染の危険がある」と動画やX(旧ツイッター)で発信した東京理科大学名誉教授の村上康文氏や大阪市立大学名誉教授の井上正康氏に対して、ウイルス学者の宮沢孝幸氏(前京都大学准教授)、東京理科大学教授の新田剛氏、筑波大学准教授の掛谷英紀氏は「そのようなことは考えにくい」と懐疑的な意見を発信している。
どちらの見解が科学的に妥当なのか。ウイルス学や分子生物学の専門知識がない私には、拙速に判断することはできない。もしかすると村上氏や井上氏の言うとおり、本当に個体間の感染・伝播が起こるのかもしれない。そのようなことが起これば、非接種者もレプリコンの害から逃れることができない。私も非接種者の一人として、それを心配する気持ちは十分に理解できる。
そもそもの話、私はレプリコンワクチンであろうとなかろうと、mRNAワクチンには「大反対」だ。LNP-mRNA(mRNAを脂質ナノ粒子に包む)という共通のプラットフォームを応用している点はレプリコンワクチンも同じであり、従来のmRNAワクチンと同様の害が起こることは十分予想できる。さらには、mRNAの自己増幅がなかなか止まらず、人によっては大量のスパイクタンパクが体内で発生してしまい、従来のmRNAワクチン以上の深刻な被害を起こしてしまう危険性もある。
国内の販売元Meiji Seikaファルマは、従来に比べ少量の接種ですむので副作用が少ないかのように喧伝しているが、新規機序の医薬品は臨床試験で安全・有効とのデータが報告されたとしても、実際に多くの人に使われてみなければ、どんな害が起こるか分からない。したがって、新規機序の医薬品はどんなものであろうと、拙速に使うべきではないのだ。私もmRNAワクチンに反対する一人として、レプリコンワクチンなど打たないよう、そして接種を中止するように微力ながら国民に呼びかけたい。
ただ、その呼びかけの仕方に、危惧している点もある。宮沢氏や新田氏のような意見がある以上、レプリコンワクチンの「感染の危険性」を強調し過ぎることは、mRNAワクチンを止めるのにマイナスになりかねないと思うのだ。とくに、「第三の原爆投下」「人類滅亡」などといった過激な表現をX等で見るが、そこまで火をつけてしまって、ほんとうに大丈夫なのだろうか。この秋にレプリコンワクチンの使用が本格的に始まって、感染・伝播が顕在化しなかった場合には、また「反ワクがトンデモな主張をしている」として、ワクチン推進派の「反・反ワク」キャンペーンに利用されてしまうのではないか。
実はMeiji Seikaファルマのレプリコンワクチン「コスタイベ筋注用」は、国内での承認に先立ちベトナムで約1万6000人(本剤群8000人、プラセボ群8000人)を対象とした大規模な治験(第Ⅲ相試験)が行われている。もしそこで感染・伝播があったなら、ベトナムではすでに大惨事が起こっているかもしれない。だが、そのようなことが実際に起こっているという情報は、少なくとも私の耳には入ってきていない(もし知っている人がいれば、教えてほしい)。
だからといって、ベトナムで感染・伝播がなかったと言っているわけではない。もしかすると感染・伝播があったのに、隠蔽されているだけかもしれない。また、感染・伝播は徐々に起こり、後になって拡大して顕在化してくるのかもしれない。ワクチン接種後症候群のような病気が拡大していたとしても、接種から時間差があるとレプリコンワクチンとの関連性に気づきにくくなる。だからこそ、「巧妙な罠なのだ」という主張もあり得るだろう。
だが、逆の可能性も十分に考えられる。ベトナムでレプリコンによる感染・伝播は、本当に起こらなかったのかもしれない。感染・伝播が顕在化するには約8000人という接種者では少なすぎたのかもしれないが、少なくとも感染・伝播に気づく人が増えなければ、そのような現象は「なかった」ということにされてしまうだろう。
X(ツイッター)では言えない本音
鳥集徹(ジャーナリスト)