Foomii(フーミー)

増田悦佐の世界情勢を読む

増田悦佐(エコノミスト・文明評論家)

増田悦佐

『経済合理性は一般均衡に向かい、寄生合理性はナッシュ均衡を目指す 後篇』

さて、前篇では経済全体の枠組に焦点を当てた考察をおこなってきましたので、後篇ではナッシュ均衡を目指して国家に寄生する産業群にはどんな企業や産業・職能団体が属しているのかを具体的に検証していこうと思います。

 

ただ、その前に是が非でも確認しておきたいことが、ひとつだけあります。国家に寄生するのがいかに高収益をもたらす事業かということです。

 

  • ● 国家への寄生はとてつもない高収益事業

 

まず、図表1をご覧ください。

 

 

上段は2007~14年の8年間の累計で、政治献金額が最大だった200社の献金総額と、同じ8年間にその200社が連邦政府や州政府から受け取った補助金や支援金の総額を示すグラフです。

 

ご覧のとおり、わずか58億ドルのロビイング「投資」で、8年間で約4兆ドルというすさまじい金額の補助金・支援金を獲得しています。投下資金に対する見返りは、じつに690倍にのぼります。こんなにおいしい商売が他に存在するでしょうか。

 

年間に数社、あるいは数十社が画期的な技術革新とかビジネスモデルの刷新で3~5年くらいは、この程度の高収益をあげるかもしれません。しかし、きっと似たような技術やビジネスモデルを案出した競合が出現するでしょうから、8年続けてというのはむずかしいと思います。

 

しかも、ここに登場する200社は、かなりの大手企業ばかりです。通常の分野でおこなっている事業なら注目度も高く、競合の出現はもっと早いかもしれません。

 

にもかかわらず、8年間にわたる平均値で投下資本収益率690倍を維持してきたのです。アメリカの企業はチャンスさえあれば、技術革新やビジネスモデルの刷新より、ロビイングを通じた国家への寄生を選ぶのは当然ではないでしょうか。

 

下段は、このおいしすぎるロビイング「投資」に群がる企業群の中で、上段よりもうちょっと長い2005~14年の10年間で、どんな産業がとくに高額の投資をおこなっているのかについてデータを検討した結果、6大セクターが選出されたことを示す図です。 

 

なお、ロビイングは企業や産業団体ばかりではなく、職能団体などもおこなっていて、医師会、薬剤師会、看護師会、弁護士会などはかなり効率のいい投資をしています。

 

この図では1位が、2位で29.3億ドルのエネルギー産業の約1.5倍、3位で21.6億ドルの医薬品業界のほぼ正確に2倍の42.9億ドルを投じている金融業界となっています。

 

ですが、病院業協会、介護施設業協会、医師会、薬剤師会、看護師会まで含めたヘルスケア産業は、間違いなくアメリカで最大の「ロビイング投資家」となっています。

 

そのへんの実情については折に触れて補足することにして、ここに取り上げられた6産業のうち、農事ビジネスを除く5つについて詳細を論じていきたいと思います。

 

決して、農事ビジネスの大手各社が悪辣なことをしていないわけではありません。それどころか、あらゆる植物を根絶やしにするような強力で副作用も大きな農薬を売りつけながら、もう一方でその農薬にも耐えるほど薬害耐性の強い種子を売るなどの、典型的なマッチポンプビジネスの常習犯です。

 

ただ、アメリカ経済全体に及ぼす影響としては他の5産業に比べればずっと小粒なので、深くは立ち入らないということです。

 

図表2は、ロビイング投資6大産業の中でも献金額が突出していた金融業界がいかにアメリカ経済をゆがめているかについて考察するデータ群のうち、最初の2枚です。

 

 

上段は、各年次で直近10年間にアメリカが達成した累計GDP成長率を年間平均値に換算した数値を示すグラフです。具体的には、1957年の時点には1948~57年の10年間にわたるGDP成長率の年率換算値がプロットしてあります。

 

最初の10年間の平均値は1.1%にも達していない低水準です。ヨーロッパでも日本でも大きな復興需要が出ていたはずです。

 

しかも、当時生産設備がほぼ無傷で残っていた先進国はアメリカとカナダの2ヵ国だけといってもいい状態だったのに、10年間にわたってアメリカのGDP成長率がこれほど低水準だったのは、近代国民国家同士の総力戦がいかに参戦国の経済力を消耗させるかの証拠と見ていいでしょう。

 

1946年にロビイング規制法という名の贈収賄奨励法が成立してしまった背景として、当時のアメリカ連邦議会の議員たちのあいだに、第一次世界大戦直後と同様の深刻な戦後不況が来ることを覚悟して、せめて自分たちの生活水準だけでも改善したいというかなり切実な願望があったこともうかがえます。

 

ただ、1960年には10年平均GDP成長率が2.5%まで上がっていますから、1958~60年の3年間はかなりの高成長だったことが分かります。その後、1964年頃まで1.5%前後の10年平均成長率にとどまったあと急加速に転じ、1966年か67年には10年平均成長率が3.5%に達します。

 

問題は、この3.5%がその後2度と到達することのない史上最高率であり続けていることです。1970年代半ば以降約30年間2.0%±0.5%の範囲内で停滞し続け、国際金融危機以降は1%を割りこむところまでGDP成長率は低下しました。

 

… … …(記事全文18,128文字)
  • バックナンバーを購入すると全文読むことができます。

    購入済みの読者はこちらからログインすると全文表示されます。

    ログインする
  • ひと月分まとめての販売となります。1記事のみの販売は行っていません。

    価格:550円(税込)

    2026年9月分をまとめて購入する

今月発行済みのマガジン

ここ半年のバックナンバー

2026年のバックナンバー

2025年のバックナンバー

2024年のバックナンバー

2023年のバックナンバー

2022年のバックナンバー

2021年のバックナンバー

このマガジンを読んでいる人はこんな本をチェックしています

月途中からのご利用について

月途中からサービス利用を開始された場合も、その月に配信されたウェブマガジンのすべての記事を読むことができます。2026年10月19日に利用を開始した場合、2026年10月1日~19日に配信されたウェブマガジンが届きます。

利用開始月(今月/来月)について

利用開始月を選択することができます。「今月」を選択した場合、月の途中でもすぐに利用を開始することができます。「来月」を選択した場合、2026年11月1日から利用を開始することができます。

お支払方法

クレジットカード、銀行振込、コンビニ決済、d払い、auかんたん決済、ソフトバンクまとめて支払いをご利用いただけます。

クレジットカードでの購読の場合、次のカードブランドが利用できます。

VISA Master JCB AMEX

キャリア決済での購読の場合、次のサービスが利用できます。

docomo au softbank

銀行振込での購読の場合、振込先(弊社口座)は以下の銀行になります。

ゆうちょ銀行 楽天銀行

解約について

クレジットカード決済によるご利用の場合、解約申請をされるまで、継続してサービスをご利用いただくことができます。ご利用は月単位となり、解約申請をした月の末日にて解約となります。解約申請は、マイページからお申し込みください。

銀行振込、コンビニ決済等の前払いによるご利用の場合、お申し込みいただいた利用期間の最終日をもって解約となります。利用期間を延長することにより、継続してサービスを利用することができます。

購読する