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吉富有治の魔境探訪 - 政治という摩訶不思議を大阪から眺める

吉富有治(ジャーナリスト)

吉富有治

無料再配信「テレビと政治家の親和性 情報バラエティ番組にこそ気をつけろ」
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ウェブで読む(推奨):https://foomii.com/00225/2022031208000092044 //////////////////////////////////////////////////////////////// 吉富有治の魔境探訪 - 政治という摩訶不思議を大阪から眺める https://foomii.com/00225 ////////////////////////////////////////////////////////////////  以下は、昨年4月14日に配信した当メルマガの記事である。今回、当時配信した内容の一部をカットし、とくに大事だと思われるエッセンスだけを抽出した上で無料で配信する。なお、配信した当時のメルマガの分量は今回の約2倍(注・アーカイブがあるので有料で読めます)。  この記事を再配信しようと思ったきっかけは、MBS毎日放送が昨日11日、ある社内調査報告書の概要を公表したからだ。 https://www.mbs.jp/kouhou/log/26697954f6c85f5aad0f0d96661535a177d8cbe6.pdf https://www.mbs.jp/kouhou/log/c34ab956cb18701dd52156c9f9ddd89fc50ba4ea.pdf  問題になった番組は、MBSが今年元旦に放送した『東野&吉田のほっとけない人』。バラエティ番組のジャンルに分類されるこの番組は、吉村洋文大阪府知事と松井一郎大阪市長、そして橋下徹元大阪市長の3人を出演させ、放送後、特定政党の政治的主張を一方的に放送したことは放送法や放送倫理に反するのではないかと局の内外から批判を受けた。それに対してMBSは社内調査を行い、その報告書の概要を11日、公表した。  テレビ局が自局と政治との"近すぎる関係"を自己批判的に総括したのは異例だろう。だが、問題はMBSだけにとどまらない。他局でも似たような番組は存在する。MBSの問題は、同局の社長会見で某紙の記者が質問したから発覚したにすぎない。いまなお、知らぬ存ぜぬの番組はいくつか散見される。  メルマガの最後にも書いたが、「所詮、情報バラエティ番組だから」と高をくくってはいけない。そのように無防備な態度でいると、われわれは知らぬ間にテレビと政治の罠(わな)に取り込まれてしまうだろう。    ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆  テレビという映像メディアの特性とは何か。結論から言えば「印象のメディア」ということである。印象こそがテレビの本質なのだ。  例えば、視聴者がテレビ画面を通じて見ているものは「何を語った」かよりも、むしろ「誰が語り」「どんな仕草、表情だった」かである。より具体的に言うと、どんな服装だったのか、ネクタイや髪型はどうだとか、緊張して顔は引きつっていたのか、それとも笑顔を絶やさず余裕の表情だったのかといった外形的なものである。この外形的なものが「よく似合う」とか「ハンサムだ」「顔がキモい」といった印象となり、視聴者の心に深くインプットされるのだ。  極端な話をすると、例えば菅義偉首相を批判する場合、私がコメントするよりも若くてハンサムな人気タレントが批判的にコメントするほうが効果的である。そのタレントのファンはもちろん、多くの視聴者も「そう、その通り」と納得するだろう。テレビタレントや俳優がイメージを重視するのもテレビメディアの特性をよく理解しているからである。  また、テレビほど印象操作に長けたメディアはない。そのため出演する側は、主張の論理展開よりも視聴者に与える印象を考えたほうが得策なのである。逆に、見た目や印象を疎かにすると視聴者の受けは途たんに悪くなる。テレビの中でもその傾向が特に顕著なのが討論やトーク番組だ。だからこそ、テレビ慣れしたタレントや識者らは服装だけでなくソフトな語り口や柔和な表情に努めようとする。   一方、テレビと対照的な存在が新聞や雑誌などの活字メディアである。例えば新聞で紙面討論会などを企画したとして、参加者が話し下手だったとか怖い顔をしていたといった外形的な要素はダイレクトには伝わりにくい。文章の力を借りて読者の想像力に頼る以外ない。  それよりも読者は、文字に込められた話の内容や論理を注視している。こちらは見た目や印象、いっさいの情緒や情感といったものを取り除き、活字のみで読者に内容を訴える。テレビが印象のメディアなら、新聞などの活字メディアは「論理のメディア」と言える。同じメディアでも新聞とテレビとでは、これだけ大きな違いがあるのだ。    何度も言うようだが、テレビは印象のメディアである。そのため報道番組ですら視聴者は「あの事件をどう説明したか」といった論理性よりも、「誰が、どのような口調と表情で語ったのか」かといった見た目と印象に心が奪われがちになる。ましてや情報バラエティ番組の場合、大半の視聴者は「ながら族」である。ザッピング(チャンネルをがちゃがちゃ切り替えながら視聴すること)しながら、あるいは炊事や洗濯、雑用をやりながら見ている。このような状況では、識者や芸能人のコメントは無意識のうちに視聴者の脳内にインプットされる。人々の無防備な心のスキに見た目や印象がすっと頭の中に入ってくるわけで、これほど恐ろしいものはない。だが、むしろ制作側はそれを狙っているから、さらに恐ろしい。  ずいぶん古い話になるが、大阪のMBS毎日放送で夕方の情報バラエティ番組『ちちんぷいぷい』という超人気番組を立ち上げた友人のプロデューサーから、人気番組にのし上がった秘訣のような話を聞いたことがある。当時、『ちちんぷいぷい』の司会者は同局の角淳一アナウンサー。それまで角さんはラジオのパーソナリティーを長く務めていた。そこで番組を立ち上げるに際して、制作側はテレビのラジオ化を目指したとプロデューサー氏は話していた。  ラジオというのは「ながら」の典型のようなメディアで、マイカーやトラックを運転しながら、主婦が掃除をしながら、あるいは深夜に学生が勉強しながら聴くスタイルが一般的である。天皇が終戦を伝える玉音放送のように家族全員がラジオの前に正座して聴くのではなく、何かをしながらラジオを付けっぱなしにしていることが多い。だからこそリスナーはラジオを意識しなければ飽きもしないのだという。  そこで『ちちんぷいぷい』もこのラジオのスタイルを導入した。ラジオ番組のパーソナリティーだった角さんがリスナーに語りかけるように、ゆっくりと、そして聴いているだけでニュースの中身もわかるよう緩やかに話しかける番組が『ちちんぷいぷい』だったわけである。  それまで夕方の他局の情報番組は、ちゃんと見ていないと内容がなかなか頭に入りづらく、そのため夕飯の支度や掃除に忙しい主婦には敬遠されがちだった。そこにラジオスタイルの『ちちんぷいぷい』が参入。夕方には「ながら族」になりがちな主婦層に受け、彼女たちから重宝される人気番組へと成長したわけである。  難しい政治情報をやさしく伝えるという趣旨の情報バラエティ番組がここ最近、増えている。そのためなのか、出演する芸能人の政治発言の頻度も以前に比べて増えているように思う。中にはタカ派的な発言が目立ったり、あるいは菅政権や大阪維新の会の失政には目をつぶり、ただひたすら賛美したり擁護する人も少なくない。  では政権寄りでタカ派的といった芸能人が幅を利かせる番組を、お茶の間でリラックスしている視聴者が見ればどうなるだろうか。多くの視聴者らは活字を一文字ずつ目で追うような構えた態度ではなく、それどころか多くは番組に対して無防備になりがちである。これでは彼ら芸能人の言葉が、そんな視聴者の心のスキにじわじわと忍び込んでくるのも無理はない。  この手法は広告と同じなのだ。何度も同じセリフや映像を繰り返し見せることで商品名やイメージを国民に広く浸透させていくように、政権をヨイショしたり逆に野党批判ばかりのコメントが芸能人の口を借りて発せられると、往々にして視聴者は無批判に「そんなものか」と思いはじめてしまう。大阪なら維新人気に拍車をかけることになる。広告によって商品イメージが刷り込まれる過程とよく似ている。  私たちも「情報バラエティ番組だから」と無批判な姿勢でいては、後になって必ず手痛いしっぺ返しを食らうだろう。批判すべき対象かどうかは報道かバラエテイーかといった番組の性質で決まるのではない。何を語ったか、その真偽はどうなのかという、ごく普通の理性的態度である。 <なお、この記事の無断転載は固くお断りいたします。>  //////////////////////////////////////////////////////////////// 本ウェブマガジンに対するご意見、ご感想は、このメールアドレス宛に返信をお願いいたします。 //////////////////////////////////////////////////////////////// 配信記事は、マイページから閲覧、再送することができます。ご活用ください。 マイページ:https://foomii.com/mypage/ //////////////////////////////////////////////////////////////// ■ ウェブマガジンの購読や課金に関するお問い合わせはこちら   info@foomii.com ■ 配信停止はこちらから:https://foomii.com/mypage/ ////////////////////////////////////////////////////////////////

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