… … …(記事全文3,230文字)●岸田首相退陣表明
「岸田文雄首相次期総裁選に出馬せず」が大きなニュースになっている。私は、何を今さら言っているのか、まだ総裁選に出馬する気でいたのかと疑問を抱くだけで片腹痛い。
「聞く力」をキャッチフレーズにして首相に就任した岸田首相だったが、それは政策面にはまったく活かされていなかった。国会で十分な議論をすることなしに大きく国の方針を転換させた。安全保障面では「敵基地攻撃能力」の保有や防衛費の大幅増を決定した。
原発政策では、福島第一原発事故後に依存度を下げる方針でいたが、最大限の活用へと180度の大転換をした。能登半島地震により避難計画の実効性への疑問が大きくなり、不安視する住民の声を聞くことはなかった。
とにかく、岸田内閣として何をやり遂げたいのか全く分からない首相だった。もっとも、首相になるのが目的だったと自らが認めているとおり、それ以上のことは何もなかったのかもしれない。改憲を目指している姿を示していたが、それが岸田首相の信念によるものなのか、保守派を配慮してのものだったのかも明確ではない。
これといった功績もなく、影の薄い首相という印象は拭えない。不出馬の理由として、自民党裏金事件で「誰かが責任を取らないといけない」とまるで能面のような表情で述べた。最後まで何を考えているのか分からないままであった。他にもあるが、ここで書く意義を見出すことができない。
●拉致問題への影響
メディアは、やはり拉致問題への影響について取り上げていた。地元紙では「県内の拉致被害者や家族は、拉致問題で進展のないままでの退陣に無念さをにじませた」としたうえで、以下のとおり主要な関係者のコメントを載せた。
家族会代表の横田拓也さん
「水面下の交渉がリセットとなることは、残された被害者がさらにつらい時間を過ごすことになり残念だ。拉致問題は国内外、与野党関係なく、人として許される問題ではない」
「次にどなたが総裁になっても強い気持ちで必ず解決してもらいたい。安易に譲歩したり、私たちが望んでいない合意がなされたりしないよう、全拉致被害者の即時一括帰国を求める」
有本明弘さん
「リーダーシップを十分に発揮できなかった印象だ」
「次の首相には、米国や韓国との一層の協調を求めたい」
曽我ひとみさん
「解決へ力添えをいただいたことに大変感謝している。何度かお会いし、私の思いを伝えることができた。しかし、被害者の全員帰国が果たされていないことが残念でならない」
北朝鮮に拉致された疑いが排除できない大沢孝司さんの兄昭一さん
「拉致問題が前進して特定失踪者の問題も好転すればと思ったが、さっぱりだった。私たちの問題にもしっかり取り組んでほしい」
各人とも比較的控え目のコメントだ。今まで何度も首相が交代し、その度に同じコメントを求められるので辟易しているのだろう。だが、「残念だ」では済まされまい。岸田首相は、「日朝首脳会談の実現に向け、私直轄のハイレベルで協議を行っていく」と繰り返し述べてきた。「直轄のハイレベルでの協議はどの程度進んでいたのか」「ハイレベル協議は、リセットではなく次の首相に引き継ぐことはできないのか」くらいは言及してもいい。家族会代表が未だに「安易な譲歩はせず私たちの言うとおりにしろ」とし、被害者全員の即時一括帰国を求めているのには、危機感や切迫感が伝わって来ない。
●拉致問題の政治利用
ここで頭の中を去来するのは「拉致問題の政治利用」だ。岸田首相が「直轄のハイレベル」という初出のワードを用いて淡い期待を抱かせたのもその一例である。2002年以降、私も国会議員らに政治利用された嫌な思い出がある。それを数え挙げればきりがない。
蓮池透の正論/曲論
蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)