… … …(記事全文4,271文字)●ほとんどのメディアがスルー
前稿で記述した集会について、会の名称、目的、主旨等を事細かに報じたメディアはなかった。非常に残念なことである。かろうじて朝日新聞がデジタル版で少しだけ取り上げた。
書いた人物は、自身のFacebookで記事をシェアしていたが、こう書き添えてあった。
「この集会や本の記事化はなかなか困難に思われましたが、デジタルのみではありますがなんとか出すことができました」
その「なんとか出すことができた」記事の内容は次のとおりである。
「集会は、膠着化している拉致問題や日朝交渉の打開について和田春樹・東京大名誉教授(86)らがまとめた本『北朝鮮拉致問題の解決』の出版を記念して開かれ、国会議員らが出席した。和田氏は『日朝間の対立点を解明し、交渉断絶の歴史を検証しなければならない。拉致問題に関する日本側の方針転換も必要だ』と訴えた」
確かにこの部分は、他メディアは報じていない。しかし、「日本側の方針転換も必要」と言われても理解できる読者がどれだけいるのだろう。和田氏は、「安倍三原則」の全面的転換まで提言していたはずである。それにしても、「集会や本の記事化はなかなか困難に思われた」とはなぜなのだろうか。拉致被害者にとってネガティブな情報が報告されたことから家族会や救う会からの抗議を恐れているのか、日本政府の方針に阿っているのか、他社が得た情報だからなのか、私には推測できない。
要するに、拉致問題に関する報道のタブーは、旧態依然としており何ら変わろうとしていないということだ。膠着状態が継続する一因であると本と集会でも指摘している。無理やり評価するならば、「記事化は困難」と正直に語っていることだけである。この体たらくでは拉致問題の解決など望むべくもない。
●曖昧模糊とした政府の拉致問題への対応
とにかく拉致問題に関する政府の対応には、今もって曖昧模糊とした点が多い。この状況から前出の和田氏はまず、2002年9月の日朝首脳会談の議事録を開示請求した。しかし、拒否された。ましてや、田中均氏とミスターXとの水面下交渉などは記録が残っているのかどうかさえ定かではない。
集会で福澤真由美氏が報告した横田めぐみさんのものとされた「遺骨」に関する疑問は謎のままである。すなわち、2004年12月、細田博之官房長官が「遺骨をDNA鑑定の結果、他の二人の骨が混ざったものであることが判明」と発表し、偽物とされた。しかし、イギリスの科学雑誌「ネイチャー」の記事で、鑑定を行った帝京大学法医学研究室の吉井富夫講師は「火葬された標本の鑑定は初めてで、今回の鑑定は断定的なものとは言えない」と語っている。また、遺骨を持ち帰った調査団のメンバーが福澤氏のオフレコ取材に対して「金英男さんが渡した『骨壺』には、骨以外に歯が混じっていた」と話した。そして、歯の所在は「帝京大学か科学警察研究所か官邸」と証言したという。これも謎のままだ。
また、会場からは拉致被害者5人の「一時帰国」に関して、2週間程度で戻すという「約束」が北朝鮮側とあったのかとの疑問に関して意見が出された。「あったということだが、そもそも守れない約束をしてはならない。口約束というが、きちんと書面で交わさなければ。それが外交の基本だ」という厳しいものだった。
さらに、2002年9月、家族が外務省・飯倉公館に集められ、福田康夫官房長官から根拠のない「死亡宣告」がなされたのか。これも大きな謎である。
●2015年9月6日付の朝日新聞記事
⇒「一時帰国」「被害者の意向重視」は理不尽で冷酷
上述の「一時帰国」を巡る政府の対応について、2015年9月6日付朝日新聞が福田康夫氏への単独インタビュー記事を掲載した。タイトルは「永住帰国 被害者の意向重視」―「北朝鮮拉致『一時帰国』の戻らぬ決定」「当時官房長官 福田氏語る」であった。あまりに唐突な記事で驚いたものだ。
蓮池透の正論/曲論
蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)