… … …(記事全文5,365文字)●緊急提言の集い
3月27日、衆議院第一議員会館国際会議室において、題記の集会が開催された。この集会は併せて「『北朝鮮拉致問題の解決』刊行記念」と銘打っている。私は一部の執筆を担当したことから、集会に参加し報告を行った。
もう少し集会の主旨・目的について開催案内を引用する形で説明したい。
「日朝関係の膠着状態が続くなかで、昨年後半から日本政府岸田首相と北朝鮮当局者との間でメッセージの交換がなされ、今年2月15日、金与正労働党副部長の好意的な談話が発表されました。日朝交渉打開の第三のチャンスが到来したことに間違いはありません。
この時にあたり日朝国交交渉三〇年検証会議では、検証作業の成果として『北朝鮮拉致問題の解決』(和田春樹編 岩波書店)を3月26日に刊行いたします。
刊行にあわせて報告執筆者と寄稿者がそろってお話させていただく会合を開きます。『拉致問題の膠着を破る鍵とは何か』を考え、解決のための緊急提言を行います」
●参加者
司会:平井久志氏(ジャーナリスト)、挨拶:松下新平参議院議員(参議院拉致問題特別委員会委員長)、報告:和田春樹氏(東京大学名誉教授)、福澤真由美氏(日本テレビ報道局「日テレNEWS」統括デスク)、蓮池透、有田芳生氏(ジャーナリスト、元参議院議員)
傍聴者は党派・衆参を問わず国会議員25名以上。国会議員にとっては耳の痛い提言がほとんどだったが、予想以上の人数が参加した。メディアは25社近く、その他多くのジャーナリスト・専門家が傍聴した。
●和田春樹氏の提言
⇒日朝交渉の第三のチャンスが到来した
日朝交渉はここに第三のチャンスを迎えたと確認できる。第一のチャンスは金丸・田辺の訪朝で始まった1991-92年の国交正常化交渉であり、第二のチャンスは、田中均アジア太平州局長の秘密交渉で始まった2002年、2004年の小泉首相と金正日委員長の首脳会談である。そこから長く途絶えていた日朝交渉はいま開催の第三のチャンスを迎えているのである。
⇒今何が問われているのか
何が求められているか、克服が求められているのは何か、日朝間の対立点を冷静に解明することが必要なのである。現在にいたる交渉断絶の歴史を検証しなければならない。このたびの私たちの本は拉致問題の視角から必要とされる日朝交渉史の検証をこころみたものである。
⇒安倍首相の対北闘争宣言
安倍首相は2006年9月、最初の所信表明演説で次のように宣言した。
「拉致問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はありえません。対話と圧力の方針の下、引き続き、拉致被害者が全員生存しているとの前提に立って、すべての拉致被害者の生還を強く求めていきます」
北朝鮮側が死亡したと伝えた8人、入国していないと答えた2人は全員生きていると主張するということであり、北朝鮮が死亡したというのは嘘だと決めつけることであった。これは外交交渉を断絶する行為であり、力をくわえて、相手を押しまくり、屈服させるやり方である。
⇒救う会会長佐藤勝巳氏の主張を日本国首相が採用した
この安倍氏の主張は、救う会会長佐藤勝巳氏が小泉首相訪朝の成果発表の翌日、9月18日の会長声明で打ち出した主張を採用したものである。佐藤声明は次のようにはじまっている。
「北朝鮮が(略)提出した(略)『安否情報』はまったく根拠のないものだ。日本政府はいま現在までその情報が事実かどうか確認していない、つまり、死亡とされた8人は現在も生きている可能性が高い。それなのに…日本政府が家族に『死亡しています』と伝えたことにより、(略)生きている被害者が殺されてしまう危険が高まっている」
北朝鮮の死亡通告は根拠がないと一方的に断定し、死んだとされた8人は生きている可能性が高い、いや生きているとする何の根拠もない主張は、北朝鮮との永遠の戦いを可能にするものであり、問題を解決するのでなく、北朝鮮政権を崩壊させることをめざすものであった。
蓮池透の正論/曲論
蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)