Foomii(フーミー)

蓮池透の正論/曲論

蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)

蓮池透

経産相が新潟県知事に原発再稼働要請 民意は置き去り

●経産相が新潟県知事に電話 「国が前面に立って」

3月18日、斎藤健経済産業相が花角英世新潟県知事に電話し、柏崎刈羽原発再稼働への地元同意を求めたという。斎藤氏は「再稼働への理解を求めたい」と語り、花角知事は「お話は承った」と応じた。同原発への国からの再稼働要請は、これで2回目となる。1回目は2018年1月、当時の米山隆一県知事に対して行われた。だが、2021年テロ対策に関する不祥事が明るみに出て頓挫した経緯がある。

それにしても、2022年4月岸田文雄首相が「国が前面に立ってあらゆる対応をとっていく」と述べ、この発言に関して萩生田光一経産相(当時)が「国が前面に立って国民に呼びかけ、理解を得るための一環」だと説明したが、それは県知事への電話一本で事足りてしまうことなのか。毎度のことながら大きな疑問を抱く。


●エネ庁長官が来県

3月18日、村瀬佳史資源エネルギー庁長官が花角知事のもとを訪れ、柏崎刈羽原発の再稼働を進めるとする政府の方針への理解を求めた。村瀬長官は、「東日本エリアの電力需給は厳しい状況が続き、強じん化に向けては原発の再稼働が非常に重要だ」「能登半島地震の教訓も踏まえ、避難道路の整備や防災体制の充実などに取り組み、再稼働後も関係する法令に基づいて政府が責任をもって対処する」と述べたという。

これに対して花角知事は、「お話は承った。能登半島地震が一つのきっかけで、県民の不安感が広がっている。避難道路の安全確保も含めてさまざまな課題への取り組みを材料にして、再稼働に関わる議論を深め、その上で県民がどう受け止めるか丁寧に見極めたい」と応じたとのこと。


●要請は年明け早々の予定だった

こうした日本政府の一連の要請は、当初年明け早々に予定されていた。しかし、元日に発生した能登半島地震や東京電力福島第一原発の汚染水投棄を巡るトラブルで見送られてきたという。それでは、それらの問題は解消されたのだろうか。いずれも、「今後の課題として」といった棚上げ先送りの見切り発車と言わざるを得ない。そして、県民の意思は何も反映されていない。

原子力規制委員会は、能登半島地震を踏まえ、原発事故時の屋内退避について「原子力災害対策指針」の見直しに着手したばかりであり、結果の取りまとめは来年の3月を予定している。


●「県民の信を問う」とは

政府の要請を受けた花角知事は、地元のメディアに対して「県としての方針は何も変わらない」と答えており、能登半島地震に関しても「避難の課題は大きな議論の材料になる」との考えを示している。いずれも具体性に欠ける発言である。

花角知事は、初当選以来再稼働の「地元同意」について「県民の信を問う」としているが、具体的な方法は語らないままである。住民投票、県議会への同意、また知事選も想定されるが見通せない。もっとも「地元同意」とは立地自治体の首長が判断を示すのが一般的だが、「地元」の範囲や住民の意見集約の方法に法的な定めはないのが災いしている。立地地域では、政府や県の「形骸化した」説明会等が開催されるが、それさえもない立地地域以外の県民の意思は無視されかねない。「私たちは蚊帳の外」という声が上がるのも頷ける。


●再稼働是非の判断材料は揃っているか

柏崎刈羽原発の再稼働是非の主な判断材料となるはずだったのが新潟県独自の「三つの検証」である。福島第一原発事故の検証、被ばくの健康影響の検証、避難計画の検証が行われていた。しかし、再稼働に前のめりな花角知事がすべての検証を自ら、総括委員長の解任という形で強制終了させた。大きな誤りである。

そして前に述べた能登半島地震を教訓とする避難計画の実効性や地震発生メカニズムの再検討はどのように行われるのか、それらへの対応はどうするのか。とても判断材料がそろっているとは言えないのが現状である。

ここは再稼働計画を白紙に戻すべきであると私は考えている。なし崩しで県議会が再稼働の請願を決議することで「地元同意」とすることは絶対にしてはならない。従来から「国策だから」という理由で再稼働に賛成する県議会議員がいるのは否定できない。現在、東京電力に対しての視線が厳しいと言われている県議会最大会派の自民党だが、「鶴の一声」で姿勢を翻すのは手に取るように分かる。広く県民の声の受け皿となり、意見を戦わせることができるはずはない。また、2023年4月の県議選の投票率が46.38%と過去最低だったことに鑑みれば「民意を踏まえた議論」にはならないのも自明である。

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