Foomii(フーミー)

蓮池透の正論/曲論

蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)

蓮池透

新年早々この国の行く末を暗示する事態に

●連続する緊急地震速報

 元日の夕方、私は2階の自室におり、ほろ酔い気分で福島県の友人と電話で話していた。その時、大きな揺れに見舞われた。「体感的に震度4くらいかな。そっちも揺れているか」と冷静に尋ねた。「揺れている」との返事があった。私は、1964年の新潟地震を、その後も多くの地震を体験した。ただ、壊滅的な地震災害には遭っていないため、正常性バイアスが働いていたことは否定できない。


 揺れが収まった直後、緊急地震速報でスマホが鳴動した。通話中の電話は「ヤバイ!」の一言は覚えているが、どちらからとも分からないまま遮断された。それだけ気持ちが動転するほど今までとは比較にならない揺れが襲来した。部屋は平行四辺形に歪み、棚からCDや本などが次々と落下した。我が家は、新潟県中越地震(2004年10月23日)、新潟県中越沖地震(2007年7月16日)と2回の大地震の影響で、窓、玄関やふすまが開かないなど相当傷んでいる。日頃「また、揺れて歪みが修正されないかな」と言っていた冗談はどこかに吹き飛び、本当に倒壊してしまうのではないかと不安に駆られた。


●避難は困難

 その後も2度3度と緊急地震速報が音を立て、津波警報が発令された。これほど連続的な地震は生まれて初めて経験した。義妹から「避難指示が出ているけどどうしよう」と連絡が来た。一人で家にいたため不安が高じたようだ。「落ち着いて、とりあえずみんなが帰って来るのを待って」と伝えた。そもそも、義妹の家も我が家も津波に直接襲われるような立地条件にはない。海との間には砂丘があるからだ。気を付けるとすれば、そばにある川が遡上してくる場合である。ハザードマップによれば、「浸水区域」に指定されているものの、避難するには年老いた母と要介護の父を連れて行かねばならず困難が付きまとう。


 幸い家の倒壊や川の遡上も発生しなかった。家の壁の一部が落ち、多くの新たなひび割れができていたが。結果、最大震度5強の地震と津波警報の発令により、道路は至るところで渋滞し、スーパーマーケット、コンビニ、ドラッグストア、ガソリンスタンドには長い車列ができた。一昨年の豪雪被害の教訓なのか、この地域に暮らす人たちの気質なのか判断しかねるが、これだけ道路が渋滞し、水や食料の買い占めなどの混乱が生じるようでは、原発との複合災害時に避難などできるはずがないとの思いを改めて強くした。


●能登半島の被害の甚大さ

 日を追うごとに震源地である能登半島の被害状況が明らかになってきた。揺れや津波による家屋の倒壊により生き埋めになった人たち、復旧作業を妨げる大雪や大雨。自然現象は被害に遭った人たちを次々と鞭打つように容赦なく押し寄せてくる。避難所の環境が万全ではなく、水や食料が行き渡らず、身体を温める術もない。悲惨な状況を見るにつけ、自分の無力感に苛まれる。これだけ多くの自然災害が起きているのに、せめて避難所の整備ができないのか。いかに過去の教訓に学ばない国なのか、今回の地震に限らず痛感させられる。


 能登半島では2020年12月頃から地震活動が活発化し、昨年末までに震度1以上を観測する地震が506回起きているからなおさらのことだ。この地震発生メカニズムは、地下の水蒸気の圧力によるものとする説など東北沖の地震に比較すると判然としていない。だが、今回の地震はこれまでの群発型とはタイプが異なり、海底の活断層がずれたことが巨大地震を引き起こした要因だとし、昨年5月、最大震度6強を観測した地震が「前震」で、今回の地震が「本震」ではないかとする専門家もいる。だとすれば、南海トラフ地震や首都直下型地震にばかり注目が集まっていたきらいがあるのではないかと考えるのは私だけだろうか。


●岸田首相は早急に現地視察すべき

 11日午前9時時点で石川県内の死者は213人、安否不明者は52人となった。このうち災害関連死が8人含まれている。これが何を意味するのかと言えば、政府や石川県の初動が遅れたことではないのだろうか。メディアがそこに言及しないのも大きな疑問である。能登半島の実情はテレビや新聞により断片的に伝わってくるのみである。一方、国会では与野党そろって現地視察を見合わせる決定をした。誰がトップに立って全容を把握し対応していくのだろうか。それは、岸田文雄首相に他ならない。被災者に孤独や見捨てられたと感じさせてはならない。岸田首相は真っ先に現地を訪れ、被災者が「国が何とかしてくれる」という見通しを得られるようにするべきである。最低でも上空からの視察はできるはずだ。


●孤立集落を切り捨てるな

 今回能登半島で目立ったのが、孤立地域・集落の多さだ。これは決して他人事ではない。地方ではどこでも起こり得ることである。この件について、人口動態やコストの面から集落の復興より移住を選択するべきとの議論がソーシャルメディアで行われていた。いわゆる過疎地の集落では少子高齢化で一人暮らしの高齢者もいる。そして、そういった集落のインフラ整備や今回のような災害復旧にはコストがかかるだろう。


 しかし、費用対効果で人の生き方を勝手に判断されてはたまらない。過疎地から移転して人口を集約させろということだ。超現実的で乱暴な議論と言わざるを得ない。過疎地にもそれなりのコミュニティがある。移住するかどうかは、そのコミュニティが決めることである。少子高齢化対策は昔から分かっていたことであり、対策を怠ってきたのが原因である。現状考えるべきは、むしろ東京一極集中をいかに地方に分散させるかではないだろうか。 


●志賀原発 なぜ報じない

 もう一つ気になるのが、北陸電力志賀原発の状況である。当初は変圧器火災と報じられたが、そうではなく油漏れで、その量もだんだんと増加していった。モニタリングポストが全滅とか環境への放射性物質の影響はないと言われても、全く映像が出てこない。中越沖地震の際柏崎刈羽原発の変圧器火災が空撮でこれでもかと報道されたのとは大違いである。報道規制が行われているとしたら由々しき事態である。

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