Foomii(フーミー)

蓮池透の正論/曲論

蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)

蓮池透

「誰のための原発か」地元紙が特集記事 再稼働は間近(下)

●武力攻撃

 第5回(最終回)のテーマは「武力攻撃」。いきなりウクライナから新潟県小千谷(おぢや)市へ避難している夫婦のコメントから始まる。


「今、ウクライナに安全な場所はない」

「攻撃された原発の話になると、母はいつも悲しそうだ。ロシアが原発を占拠した時、ヨウ素剤が街の薬局から消えたと聞いている」


⇒ジュネーブ条約

 続けてジュネーブ条約を紹介する。

「原発への攻撃は国際的に認められていない。戦時の文民保護を規定した条約。攻撃してはならない対象に、追加議定書で『危険な力を内蔵する工作物および施設』として、ダムや堤防とともに原発が明示されている」


 これに対する、公共政策調査会センター長(柏崎刈羽原発テロ対策第三者委員会委員長)のコメントを掲げる。

「追加議定書の条項も有効に働かない。原発への攻撃を検討し、対処の詳細を詰めなければならない」

「原発への攻撃、占拠の対し、国際社会としてルール構築が必要だ」


⇒県の避難検証委員会が議論

 一方で県の避難方法を検証する委員会は、

「ロシアのよるウクライナ侵攻の前から、原発への武力攻撃を議論していた」

とする。具体的な説明はこうだ。

「17年から足かけ6年、24回の議論をまとめた報告書には異例の記述がある。『テロリズムと避難における論点整理』と題した章だ。8ページにわたり9項目、34の論点を示したものだ」

委員長は語る。

「福島事故は全電源喪失に至った。外部電源を巡るテロに海外の関心も集まっただけにテロ問題の重要性は認識していた」

「武力攻撃を検討している県はほぼない」

「死角なく議論したのは良かった」

「(IDカード不正使用は)東電の不祥事として片付けるべきではない。武力攻撃原子力災害による避難対応が必要となる可能性が十分にあることを示した事案である」


「武力攻撃に伴い原発などの外部への放射性物質が放出される『武力攻撃原子力災害』。その対策は国民保護法などで定められている。その時、住民はどうなるのか」

「避難検証委員会の報告書は、敵が上陸してきた場合について、『自衛隊による侵害排除活動と避難行動とは両立しない場合も十分想定され、避難はそう簡単には実施できない可能性がある』とする」


⇒自衛隊任せは幻想に近い

「原発有事に自衛隊はどう動くのか。防衛大は『自衛隊は侵略を排除しなくてはならない。住民の生命を守ることとは違う任務がある。戦時中に住民保護を任せることは幻想に近い』と住民避難に自衛隊が関われない可能性を想定する」

「防衛省統合幕僚監部は取材に対し『あらゆる事態に適切に対応し、国民の生命と財産を守り抜くため関係省庁と連携し、万全を期す』と書面で回答した」


「内閣官房審議官は『攻撃でも地震でも、原発から放射性物質が出た場合の対応は基本的に同じだ』と説明する」

「国民保護法を所管する内閣官房の担当者は『平時に培った枠組みを最大限活用して住民を守る』と話す」


⇒有事の住民安全確保は未知数

「法律の枠組みはあるが、原発への攻撃と侵攻が同時進行する場合の住民避難を巡っては、詰めるべき問題が存在する。有事に関係機関が機能し、住民の安全を守れるかは未知数で、各機関の責任も見えにくい」


とはするものの、

「原発での有事対応は『出たとこ勝負にならざるを得ない』とみる。訓練の重要性とともに、住民一人一人が自分を守るための知識を身に付ける必要性を説く」

という防衛大のコメントで5回の連載を締めくくった。


【筆者見解】

 甚だ後味の悪い結末だった。原発への攻撃と侵攻が同時進行する場合、住民の安全を守れるかは未知数、また戦時中自衛隊に住民保護を任せることは幻想としながら、結局は「住民一人一人が自分を守るための知識を身に付ける必要性」つまり自己責任論にすり替えている。


 もっとも原発が戦争で武力攻撃される場合は、住民避難を議論する次元ではなく、この国全体の問題と捉えるべきである。至る所に格好の標的である原発が林立しており、そこが狙われたならば立地地域はおろか首都圏、ひいてはこの国全体が壊滅状態になるのは確実である。したがって、日本政府は有事にならないような徹底した平和外交を展開していかなければならない。どうしても不安であるというならば、国内全ての原発を停止した上で、貯蔵されている核燃料(未使用、使用済みを問わず)を分散・保管する以外方法はない。


 テロと避難の議論についても中途半端である。確かに福島第一原発事故は、原子炉本体ではなく周辺機器を破壊し電源や冷却水を断てば炉心溶融を引き起こせるという意味でテロリストに大きなヒントを与えた。これに問題意識を持ち、ロシアのウクライナ侵攻前から県の避難検証委員会が議論し、9項目、34の論点を抽出したとする。委員長は「検討している県はほぼない」と胸を張る。しかし、抽出された論点を検証する作業が行われなかった。これでは、全く意味がないのではないか。もとより、テロ対策が脆弱な東京電力であるのに、規制委は「一定の改善が確認できた」と結論ありきの判断をした。したがって、テロに巻き込まれる蓋然性が格段に低くなったという保証はなく、その際の住民避難が不可能なのは言わずもがなである。

… … …(記事全文4,076文字)
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