Foomii(フーミー)

蓮池透の正論/曲論

蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)

蓮池透

「誰のための原発か」地元紙が特集記事 再稼働は間近(中)

 12月27日、原子力規制委員会(以下「規制委」という)は、東京電力柏崎刈羽原発に出していた運転禁止命令を解除した。テロ対策に「一定の改善が確認できた」と判断したのだという。既定路線であり、特段の驚きはない。だが、年末に合わせて、しかも「お墨付きを与えたことにはならない」「東電が生まれ変わったとか、非の打ち所がない組織に認定することではない」とエクスキューズを入れているのが実に見苦しい。いかにも、規制委らしいのだが、それならばお墨付きを与えるまで、東京電力が生まれ変わり、非の打ち所がなくなるまで徹底的に検査・審査を行えばいいのではないか。拙速な判断であることを自ら晒しているようなものだ。今後、規制委には判断に至った基準とそれにどのように適合しているのか、つぶさに公表する義務がある。


 前項からの続きに移りたい。


●実効性

⇒自衛隊水陸両用船で避難

「吹き付ける潮風の音に交じり、エンジン音がうなりを上げた。海から砂煙を上げて浜辺に現れたのは自衛隊の水陸両用船。普段着姿の住民たちが乗り込んでゆく。互いの話し声が聞こえないほどのごう音が響く船内で、一様に耳栓をし、視線を落として出発の時を待った」


 こんな詩的表現で第3回の特集は始まる。テーマは避難計画の「実効性」。10月下旬に国と県が行った原子力防災訓練で、「選ばれた」住民約60人が、柏崎中央海岸から水陸両用船で沖合に出て、停泊する輸送艦に船ごと収納され上越市の直江津港まで向かう様子である。


 乗船した2人の話を掲げる。

「揺れがきつかった。小さい子を連れていると厳しい」(小学生の娘とともに参加した女性)

「緊急時に船をすぐに用意できるのか。海が荒れれば乗れないし、うまくいくのかね」(70代女性)


⇒訓練費用は「充実」

「訓練に参加する機関や住民の数は増えてきた。それに伴い、訓練費用は右肩上がりの傾向だ。22年度は4600万円、23年度は国の訓練と一体で実施したこともあり、予算ベースで7100万円と過去最大に伸びた」

「他県の例をみると、ともに23年度で福井県は約4400万円、鹿児島県は約5200万円となっている。金額でみれば、新潟の訓練は再稼働した地域並みに『充実』している」

「県は『徐々に訓練の内容と必要性が県民に浸透してきた』と胸を張る。ただ重大事故時が現実となった時、避難計画通り逃げられるのかという『実効性』については、地元住民をはじめ懸念を示す向きも多い」


⇒「要支援者」避難 町内会長の悩み

 そして、「具体的な懸念を抱えたままのケースもある」とする。

「原発の北約3キロメートルに立つ柏崎市宮川の高浜コミュニケーションセンター。原発事故時、高齢者など自力ですぐに避難するのが難しい『要支援者』の一時退避施設になる。集会室などに65人を収容できる2階建ての建物は、内部の気圧を高めることで放射性物質が入らない仕様だ」

「『体裁だけに思えてしまう』。(密閉空間となり一時とどまる)廊下に視線を向け地元町内会長は言う。2枚の扉の間隔は約1.5メートル。立てば数人が入れるが、寝たきりの人などストレッチャーを運ぼうとすると空間に収まらず、放射性物質が入ってしまうと指摘する」

「市側は『センターへの避難は放射性物質の拡散前に市職員などで全員終わらせる』とし、問題はないとする」

「市職員は計画通り来てくれるのか。『顔を知っているお年寄りたちを見捨てて、先に逃げるなんてできない。最後は自分たちで何とかするしかない』町内会長の悩みは尽きない」


⇒大雪の想定をしない訓練

「約1400人の住民らは、バスなどによる避難を体験した。参加者からは、原子力災害につながるような地震が起きた場合の震源地や道路被害など、具体的な想定が足りないとの指摘もあった。中でも懸念する声が強かったのが、原発事故と大雪が重なった場合の対応だ」

「今回、その想定はなかった」

「『避難の実効性があると言えるような状況では全くない』。磯田達伸長岡市長は訓練を終えると、厳しい目を向けた」

「内閣府の森下泰大臣官房審議官は『今回の訓練では手順や連携の確認に重きを置いた』と強調。『そうした総合訓練と、内容や条件を細かく設定する訓練とは違うものだ』と説明する」


⇒実効性を高める活動は途上

「原発から30キロメートル圏までの自治体で避難計画は定まったものの、その通り逃げられるかの実効性を高める活動は途上だ」

「少なくはない時間とコストを費やしながら、取り組みは続く」


「更田豊志氏は『どれほど素晴らしい計画を立てても、その通り行動できなければ絵に描いた餅になる。防災が十分かどうかは、議論し続けていくことが必要だ』と指摘している」



【筆者見解】

 水陸両用船とは、海上自衛隊が配備するエアクッション方式(ホバークラフト)の揚陸艇「LCAC(Landing Craft Air Cushion)」のことで、主に災害救援活動に使用される。海上自衛隊は各地でデモンストレーションを行っている。


 しかし、参加者が話していた通り、荒天で海が時化ている場合は沖合に停泊する輸送艦まで辿り着くことができない。この手段は、実際に過去の訓練で危険が伴うと見送られた例があった。また、住民がLCACまで砂浜を徒歩で移動するのは、特に高齢者にとっては困難で現実的とは言えない。さらに、住民を乗せた輸送艦が向かった先は直江津港だったが、そこは、上越市のハザードマップで津波発生時の浸水区域にあるとは何とも間抜けな話である。


「金額でみれば、新潟の訓練は再稼働した地域並みに『充実』している」。これまで何度も批判してきたが、地域及び人数限定の訓練をもって計画の「実効性」を評価するのはナンセンスである。過去ある地域全世帯の訓練を試みたところ、大混乱が起きたためという笑えない教訓により限定方式に切り替えたという。したがって、訓練によるコストを議論しても意味はなく、税金の無駄遣いでしかない。


「要支援者」の避難に関しては問題が山積している。これについては後述する。


 原発事故と大雪が重なった場合の対応をしないとは、もはや住民を見捨てている。昨年の豪雪による交通網の長期不通で、事故時の避難が無理であることを思い知らされた。その場合どうするのかは、住民にとって焦眉の急であるはずだ。内閣府の説明は完全に他人事であり、憤りを覚える。


「自治体で避難計画は定まったものの、その通り逃げられるかの実効性を高める活動は途上だ」。「避難計画は定まった」は明らかな事実誤認である。自治体が定まったとするのであれば、それはあくまで形式上のことである。詳細には、グレーな部分が非常に多い。「実効性を高める活動」とは何か、新潟日報は具体的に提示するべきではないだろうか。


「少なくはない時間とコストを費やしながら、取り組みは続く」。時間とコストをかけて取り組んでいけば、実効性のある計画が実現すると期待させるような表現は誤解を招くだけであり、新潟日報は慎むべきだ。


 また更田前規制委委員長が登場。「その通り行動できなければ絵に描いた餅になる。防災が十分かどうかは、議論し続けていくことが必要だ」と指摘している。その通り行動できなければ絵に描いた餅であることは間違いない。議論し続けていくことが必要だということは、どうやら、議論しているうちは所詮「絵に描いた餅」であり続けると解釈して差し支えなさそうである。

… … …(記事全文4,954文字)
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