ウェブで読む(推奨):https://foomii.com/00200/2022050606000094154 //////////////////////////////////////////////////////////////// 蓮池透の正論/曲論 https://foomii.com/00200 //////////////////////////////////////////////////////////////// ●非常用ディーゼル発電機故障 「他にあるから問題ない」 ゴールデンウイーク初日の4月29日、地元紙新潟日報が報じた。 「東京電力柏崎刈羽原発6号機の非常用ディーゼル発電1台が、3月から同じ箇所の故障を繰り返し、復旧できていなかったことが分かった。2回にわたって修理し、試運転を行ったが、白煙が上がったり油が漏れて停止した」 「東京電力は『非常用発電機は他に二つある』とし、原発の安全性に問題ないと説明している」 今回のトラブルも深刻ではあるものの、こんなに数々のトラブルが頻発すると「またか」と鈍感になってしまうのは否めない。ただ、後段の発言は重大な問題である。事実上の運転禁止命令処分を受け、意識改革が問われている中で、安全上重要な設備の「冗長性」(リダンダンシー)について、この程度の認識で、しかもそれを公言するとは、とても看過することはできない。 トラブルは、3月17日、非常用ディーゼル発電機の24時間連続運転試験時に発生した。発電機の軸受け部から潤滑油が漏洩し、運転を停止したという。潤滑油漏洩防止のための軸受部のゴムが切れており、当該ゴムを交換すると東京電力は公表した。だが、2回目以降のトラブルは公表していない。原子力規制庁柏崎刈羽原子力規制事務所長が2回目のトラブルを定例会見で明らかにした。それによると、東京電力は3月28日に改めて試験運転を行ったが、運転開始直後に軸受部から白煙が発生し停止したとのことだ。同じゴムが切れており、軸受部には摩擦による傷が発見されたという。 さらに、新潟日報の取材に対し、東京電力はようやく2回目のトラブルを認めた上で、4月25日再々度の試験運転をしたが、改善は見られず潤滑油が漏洩したと説明したという。未だに原因は不明で、24時間連続運転試験は完了していない。上述した考えられない説明に加えてトラブルの隠蔽である。どこが「生まれ変わる」「最後の機会という覚悟」なのか。 ●トラブルの背景に「内製化」 運転禁止命令から1年余の間、数々のトラブルが繰り返されてきたが、今回のトラブルでは今までとは異なる背景が浮き彫りになった。 それは、福島第一原発後に東京電力が進めてきた「内製化」である。以前触れたトヨタ自動車に倣った業務の無駄を省き効率化する「カイゼン活動」という経費節減策の一環であり、東京電力は「手の内化」と称している。ここで考えてもらいたいのは、東京電力を始めとする電力会社は、あくまでもユーザーという立場にあることだ。原発をメーカーから購入し運転をする。メインテナンスはするが、せいぜい異常の発見までで、ほとんどの修理はメーカー等に委ねる。定期検査も然りである。 自家用車に例えれば、メインテナンスは、タイヤの空気圧やエンジンオイルの液位や色のチェックなどで、自分自身で手を下すのはワイパーのブレイドやブレーキランプの交換、タイヤへの空気充填くらいで、それさえもガソリンスタンドやディラー等にすべて任せるドライバーが多いだろう。言うまでもなく、車検はディラーや修理工場等に依頼し受ける。 「内製化」など東京電力にできるはずはない、と以前書いた。ところが、今回トラブルを起こした非常用ディーゼル発電機のメインテナンスは、外注せずに東京電力社員が設計・施工を行っていたというのは驚きである。私の時代にも「内製化」(「直営工事」と呼んでいた)はあった。しかし、安全設備の中核を担う非常用ディーゼル発電機のメインテナンスなど決して行うことはなかった。対象は、比較的安全重要度の低い設備であった。 東京電力社員に非常用ディーゼル発電機のメインテナンスをする技術的能力があるのか、と調べてみた。すると、メーカーの専門家の指導下で設計・施工を行っていたというのだから驚きである。そんな「OJT」のような形で、重要な機器のメインテナンスを「手の内化」するのは本当に御免を蒙りたい。 穿った見方をすると、「内製化」の目的がコストカットだとするならば、よりコストのかかる重要機器のメインテナンスを対象にしたのかもしれない。1円でも安くするため安全設備の台数を減らし、福島第一原発後に悪化した経営状況を改善するために立ち上げた委員会を「サバイバルコストダウン委員会」と命名し、事故被害者の感情を逆撫でする会社である。やりかねないことだ。 ●私が経験した「内製化」「直営工事」 昔は、東京電力社員が電柱に上り変圧器の点検・修理・交換を行っていた。私も福島第一原発に勤務していたころは、故障した半導体基板を修理したり、交換したりなどの「直営工事」をした記憶がある。だが、ほとんどの工事は、請負または委託により行われていた。それらの契約の際には、設計仕様書が必要になるのだが、原案を外注先に作成してもらうのが常だった。私自らが実施し印象に残っている以下の工事があるが、それも設計までで、施工はメーカーやエンジニアリング会社が行っていた。 ①換気空調系計測制御装置のメインテナンス 福島第一原発3号機の換気空調系の計測制御装置のメインテナンスの設計を行っ た。換気空調系といえども侮ることはできない。各建屋内部の負圧状態を維持し、冷 暖房により、建屋内を一定の温度・湿度に保つ重要な役割を有しているからだ。ま た、重大事故時に格納容器内のガスを浄化する非常用ガス処理系(SGTS)や中央制 御室の事故時空調系も換気空調系の一部である。 同原発3号機の換気空調系計測制御装置のメインテナンスの設計に当たり現場調査 をして、酷い状態を目の当たりにした。例えば、外気の取り入れ量を調節するルーバ ー駆動装置は海風の影響で腐食しており、ルーバーは固着していた。駆動装置に触っ たところ、ボロボロと崩れ落ちたのには驚いた。同装置は運転開始から2年以上手付 かずだったのだ。設計を終え、施工時には現場に立ち会った。 ②原子炉冷却水漏洩検知器の追設 原子炉冷却水の漏洩は、原子炉圧力や水位を計測することで検知していたのだが、 補完的な設備を追設した。メカニズムは、原子炉の底部より下の空間(ペデスタ ル:現在燃料デブリが堆積している場所)にある床ドレンピットの水位を超音波式レ ベル計で計測し、水位上昇率が設定値に達した場合、中央制御室に警報を発するとい… … …(記事全文3,665文字)
蓮池透の正論/曲論
蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)