ウェブで読む(推奨):https://foomii.com/00200/2022042906000093912 //////////////////////////////////////////////////////////////// 蓮池透の正論/曲論 https://foomii.com/00200 //////////////////////////////////////////////////////////////// 先日、知人からこんな電話があった。 「誰か新聞社の記者を知っていたら紹介してくれないか」 あまりにも出し抜けに依頼されたので、「いないことはないが、事情を説明して欲しい」と応じると、 「息子Aの婚約者Bが性犯罪被害に遭って困っている。助けてやってくれ。詳細はAから連絡させるから」と焦るように答えた。 私は、拉致問題関係で知り合いの新聞記者はいるものの、先ずは何が起きているのか把握しなければならない。そこで、Aからの電話で概要の説明を受けた。それによるとA、Bともに中学校の教諭をしており、それが縁で婚約に至った。昨年、Bが勤務する学校の先輩教諭C(既婚者)から性犯罪被害を受けた。校長、教育委員会は、事実関係が明らかになった場合、①校内の教員に周知すること、②保護者説明会を開催すること、③Cを処分したうえで氏名を官報で公表することを約束した。にもかかわらず、事実関係が確定しても約束を実行しない。その不誠実さと隠蔽体質を新聞に取り上げてもらいたい、という主旨だった。 それを聞いて、学校や教育委員会側の隠蔽体質を糾弾したいものと私は理解したのだが、詳細を聞いていくうちに、単純な話ではなく非常に悩ましい問題で、私にはどうしたら良いのか判断がつかないことが分かってきた。以下に聞いた話を時系列でまとめる。 ●Bのアパートで開いた飲み会 BとCとは校内で同じ部活担当というだけの関係だったが、年に数回飲み会をしていた。当然2人きりではなく他の教諭を交えたものだった。新型コロナ禍であることと、先輩であるCの要求を断りきれないことから、地理的に利便性のあるBのアパートが飲み会の場所になっていたという。 昨年2月、Cから「良いワインが手に入ったので、『ワインを飲む会』をやろうよ」とBは急な連絡を受けた。Bは日程を調整し、同僚の男性教諭を誘い「ワインを・・・」を開いた。宴会は深夜まで続いたが、終電が間近となりCと同僚教諭は揃ってアパートを後にした。ところが、Cだけが「トイレへ行きたい」と戻ってきて、事件が起きた。突然Bにキスをして、身体じゅうを撫でまわしたのだという。 ●学校へ報告 BはPTSDに 翌日Bは、学年主任と校長に被害を報告した。Cも何食わぬ顔で出勤してきたが、中途で帰宅させられ自宅待機を命じられた。Bはその日以降出勤することができず、有給休暇を取り続けた。BとCは、別個に学校側から聞き取りを受けたが、Bは体調に異変が生じ、病院でPTSDと診断された。 事件から10日程度経過してから、BはAと相談して警察に被害届を提出した。逮捕要件ではないとされたが、警察は届けを受理した。その後、警察によるB及びCへの事情聴取を経て、Cは9月に送検された。 ●起訴及び裁判 11月になり検察はCを起訴することを決定した。この決定により、教育委員会は自宅待機(その間も給与あり)としていたCを「起訴休職」処分とした。起訴休職となっても給与の60%は支給される。一方で、Bは有給休暇を消化し尽くしたため、休職扱いとなり傷病手当に頼ることを余儀なくされていた。どう考えても加害者の方が優遇されているのではないか、というのがAの主張である。また、Cは被害届が受理された時点で、代理人弁護士を雇っていたことから、AとBも弁護士に頼らざるを得なくなったという。 刑事裁判は、今年1月に第1回公判が行われ結審した。公判でCは、過去に別の場所でも同様なわいせつ行為を働き示談していたことが明らかにされた。前科にはならないのだろうが、そういった前歴のある人物を教諭として採用する側の責任も問われるのでは、というのもAの主張である。 2月に判決が下された。強制わいせつ罪懲役1年6カ月執行猶予4年。かなり重い量刑と言える。3月下旬の控訴期限を過ぎ、刑は確定した。 ●校長及び教育委員会の不誠実な対応 強制わいせつ罪による懲役1年6カ月執行猶予4年が確定したことで、教育委員会はCに対して処分を下さなければならないはずだが、それに関する教育委員会の見解は、以下のとおりだった。 「C氏は判決が確定しており、地方公務員法第28条第4項・同法第16条第1項第1号に該当し分限失職になりました。懲戒処分につきましては、判決言い渡し後、懲戒処分に向けた準備をしておりましたが、処分がなされる前に判決の確定を迎えることになりました。上述したとおり、C氏は分限失職したため、本市の職員ではないC氏に対して懲戒処分を行うことはありません」 関連条例は不詳だが、この見解に対してAはもちろんのこと、私も納得することができない。判決確定後に自動的に分限失職となるはずはなく、同法律では分限処分「することができる」とされている。すなわち、確定した判決に照らして、いかなる処分をするのかを決定するのが本来あるべき姿だ。それを、分限失職し職員でない者に対して懲戒処分はしないとするのは、論理矛盾しており、恣意的に懲戒処分を回避していると言わざるを得ない。 ここで分限処分とは、公務能率の維持及び公務の適切な運営の確保を目的としたもので、制裁を目的とした懲戒処分とは決定的に異なる。Aによれば、退職金は支払われていないというが、分限免職の場合支給されるのが一般的である。Aの誤解の可能性もあるが、なぜ懲戒免職処分としないのか理解できない。 こういった対応は、極めて不誠実な隠蔽体質に他ならず、女性の社会進出の流れを著しく妨げるもので、何とか是正しなければならないと主張するAの気概が強く感じられた。そして、彼はメディア報道の力を借りて、何とか活路を見出そうとした。私もAに賛同したのだが、混乱する事実が存在していた。 ●損害賠償命令制度 実は、AとBは刑事裁判において、損害賠償命令の申立てを行っていたのだ。ご存知のとおり、「損害賠償命令制度」とは、刑事裁判を行った裁判所と同じ裁判所が損害賠償の審理を行うもので、刑事裁判の終了後から概ね4回以内の審理で結論が出る。このため、通常の民事裁判よりも簡素な手続きで迅速に損害賠償がなされる。被害者救済制度の一環として導入された制度である。 刑事裁判でCの有罪が確定し、Bが損害賠償を受けた場合、果たして教育委員会の責任も問えるのだろうか。また、Cは離婚調停中だという。そんな事件をメディアが取り上げるか。私は混乱するばかりだった。Aは、事件を風化させたくないと言うのだが。 ●新聞記者らに相談… … …(記事全文4,892文字)
蓮池透の正論/曲論
蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)