Foomii(フーミー)

蓮池透の正論/曲論

蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)

蓮池透

ある優秀な科学技術者の波瀾万丈の人生―半導体レーザから次亜塩素酸水まで  

ウェブで読む(推奨):https://foomii.com/00200/2020112706000073556 //////////////////////////////////////////////////////////////// 蓮池透の正論/曲論 https://foomii.com/00200 ////////////////////////////////////////////////////////////////  今回は、私が尊敬する知人で人生の先輩でもあるS氏のことについて書きたい。S氏は、科学技術者で、半導体レーザの開発、コンピュータによる自動車ボディの設計・加工システムの開発など華々しい成果を挙げたが、日米コンピュータ戦争に巻き込まれ追放された。その後、光磁気ディスクと医療情報国家プロジェクトに参画し、実現直前で米国の巨大企業や国内の既得権益といった巨大な壁に阻まれ挫折した。さらに労働者協同組合で病院清掃の業務に従事しながら滅菌技士となり、純粋な次亜塩素酸水の製造装置の製作の専門家に至る。まさに波瀾万丈な人生を送っている。  S氏の座右の銘は「外寛内明」。自身が有する専門的な知識や技術は、すべて世のため人のために使うことに徹している。頭の中には、自分自身の財を築くことなど微塵もない。逆に、場合によっては私財を投げ打ってまでやるべきことをやる人である。本当に頭が下がり、彼の生き様に比して私など足元にも及ばない。数々の功績を残したのであるのだから、それなりの対価があると考えるのは当然のことだが、実はそうではない。真正直さが故に貧乏くじを引き続けてきた。最近では、誠意や善意を傾倒するだけでは通用しない日本社会の理不尽さにやるせない気持ちやもどかしさを痛感しているという。S氏の社会経験を時系列で辿っていこう。  彼は、大学では電子工学、大学院では物理学を極めた後、日立製作所の中央研究所から会社人生を始めた。これからは、エレクトロニクスの時代との賢明な判断に基づくもので1980年代のことである。世の中はIC(集積回路)からLSI(大集積回路)への移行時期であったため、確立された材料であるSi(シリコン)からより処理速度が速いGaSa(ガリウム砒素)を用いることを試みた。結果的にそれは諦めることになるが、副次的に開発・実用化した長寿命半導体レーザが日の目をみることになった。なぜなら、現在普及しているコンパクトディスク(CD)のピックアップの主要部品は半導体レーザだからである。このピックアップ技術は社内では、事業所技術賞1等、第4回半導体レーザ国際会議1等賞の栄誉を与えられた。しかし、S氏は、グループによる研究論文に名を連ねることができなかったのだそうだ。本人は「自分は若手だったので諸先輩方に花を持たせたかった」と述懐するが、結局、社内外で彼の功績は何の評価も得られないに等しかった。  そんな努力をよそに、日立製作所は名古屋営業所のSE(サービスエンジニア)への異動を彼に命じた。本人の言葉を借りれば「青天の霹靂」だったというが、めげずに最大の顧客となったスズキ自動車のために全身全霊を傾けた。具体的には、自動車ボディ製作にCAD/CAM/CAE(Computer Aided Design/Manufacturing/Engineering)を応用するものである。簡単には、統合的なコンピュータ支援による車体外板の設計・加工システムの技術開発である。そして、その画期的な技術は結実し、日立はソフトウェア込みで大型コンピュータをスズキ自動車へ納入する運びとなった。スズキ自動車の社内では社長技術特賞が授与された。しかし、当時零細だったスズキ自動車よりも大手のトヨタ自動車が、システムをそっくりそのまま「横取り」し自社に採用したのだという。しかも、トヨタのハードは全てIBMやUNIVACといった米国製だった。折からの日米コンピュータ戦争や「IBM産業スパイ事件」を考慮して、あくまで国産にこだわり続けたS氏は深い付き合いだったスズキ自動車のSEから追放されることとなった。「IBMは、スズキへコンピュータを入れたい。日立は『IBM事件』の犯罪会社として弱い立場。自分は現地責任者との背景があった」。(本人談)
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