… … …(記事全文4,363文字)当方,五輪なるもの下品な商業主義に席巻された下らないグローバリズムイベントにどうしても見えてしまうので,さして心躍ることはないのですが,開幕式にはいつも,興味関心を持っています.
その国の国力を推し量るのに,とてもよい実験的イベントになっているからです.
どんな国でも,世界中が注目する五輪の開幕式となれば,恥ずかしくないそれなりのイベントに仕立て上げなければなりません.巫山戯(ふざけ)たものやセンスのない下らないことをやってしまえば,外国から侮蔑されてしまうからです.
だから,五輪開催国は国の総力を挙げて「こうすれば外国からセンスがないとは思われないだろうし巫山戯たものだと思われず,おそらくはセンスがあると思われ,一定の尊崇の念を集めることができるのではないか?」と,世界中の人々の評価を「忖度」してイベントをくみ上げるわけです.
だから,その国の五輪開幕戦を見れば,その国の美意識やセンスがハッキリ見て取れるわけです.
とはいえ無論,これがいいだのアレがダメだのとの議論は百科騒乱となり,なかなか一つに纏めるのは難しい筈.ですが,そんな多様な意見をどうやって纏めて,一つのイベントを作り上げていくか…ということもまた,その国の力量を推し量る上で重要な要素となります.
ですから,その国の五輪開幕式は,
第一に,その国のその次点における一般的国民の美意識・センスのレベルを暗示する重要な情報源であると同時に,
第二に,その国がどの程度成熟した実務的実践能力(これは行政能力・実務的政治能力と等価の物です!)があるかを暗示する重要な情報源となるわけです.
はたして今回のパリ五輪はどうだったかというと,少なくとも色んな記事を見てると,ダラダラしたイベントだったとか,LGBTアピールが強すぎるだとか,韓国の紹介が間違えていただとか,アンチ・クリスチャン的要素が最悪だったとかいろんな批判が出ている様子.
このあたりの批判は,フランス革命によってアンシャンレジームを破壊した革命の影響で,フランスも随分と出鱈目な国になったということを指し示すものなのだろう…とは思いますが,当方が唯一目にし,そして,心底感動したのが開幕式のエンディングに登場したセリーヌディオンの「愛の賛歌」の熱唱シーン.
当方,セリーヌディオンという歌手は,そもそもあまり好きな歌手ではありませんでした.自分の歌唱力の高さを鼻にかけているところがあり,ポップシンガーとしてさして好きではありませんでしたが,今回の熱唱には,感涙むせび泣くほどの感動を覚えました.
まだご覧になっていない方は是非,下記よりご覧になってみて下さい.
https://tver.jp/olympic/paris2024/video/6359394953112/
そもそも『愛の賛歌』というのは,フランス人にとっての「大衆」歌謡曲である「シャンソン」の代表曲であり,世界中の人が知る曲.いわば,フランスの誇りとなり得る一曲.
この曲が素晴らしいのはそのメロディと共にその歌詞.何という素晴らしい歌詞なのでしょう…というような素晴らしい歌詞です(そう感ずるのはフランス人だけでなく,当方だけでなく,世界中に数限りなくおられる,本当に素晴らしい歌詞です).
『空が裂け、大地が砕けようともあなたが愛してくれるなら、私には関係ない
世界中のすべてを捨ててしまってもあなたの愛が私の朝を満たしてくれる限り
あなたの手に触れ、体が震える限りどんな問題も乗り越えられる
愛するあなた、あなたが私を愛してくれるから世界の果てまで行こう金髪に染まってもいい
あなたがそう望むなら月を掴みに行こう財産を奪いに行こう
あなたがそう望むなら国も友人も捨てよう
あなたがそう望むなら人々が笑おうが何だろうが 何でもするあなたがそう望むなら
もしも、いつかあなたが私から引き離されてしまったら
あなたが死んで、遠くに行ってしまったら
あなたが私を愛していても、私には関係ない 私もあなたと同じように死ぬだろう
永遠に、広大な青い空の中で 私たちは一緒にいられる もう何も恐れることはない
愛するあなた、私たちは愛し合っているだろうか
神は愛し合う者を結びつける」
(この翻訳は,https://mamareads.wpx.jp/ai-japanese/のもの)
なんと素晴らしい言葉の数々でしょう…
この素晴らしい言葉とメロディを,歌うのがセリーヌディオン.
彼女は勿論カナダ人.フランス人ではありません.
しかし彼女はフランス系のカナダ人.というか,カナダ人は8割以上が,実はフランスからの移民の子孫であるところのフランス系の人々なのです.したがって,セリーヌ・ディオンの「ナショナリティ」(国民性)は「カナダ国民」になりますが,「エスニシティ」(民族性)は「フランス人」なのです.
というより彼女の名前はフランス語系の名前ですし,言葉も英語よりもフランス語を母語とする方です.
それはいわば「ほとんど日本語しかしゃべらない日系アメリカ人」の様な存在です.そんな方がもしいたら,我々日本人だったら「アメリカにたまたま今住んでいる日本人」だと認識することでしょう.
しかも彼女は…
藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~
藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)