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藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~

藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)

藤井聡

【バイデン氏大統領選・撤退表明】これで「トランプ当選確率」はますます高くなったのか?

この度,バイデン大統領が遂に,次期大統領選挙から撤退することを表明しました.

 

理由は勿論,「高齢」問題.ご自身の口からは明確には語っておられませんが,要するに,大統領の職務を全うするに足る「十分な認知能力」が保証できないから,というのが第一の理由と見られます.そして,第二の理由は,多くの有権者達がバイデンの認知能力を懸念し,その結果として「民主党」が大統領の席を奪われてしまうリスクが高くなってしまっているから,というもの.別の若い候補が民主党の大統領候補になる方が「民主党」が大統領の椅子を確保し続ける可能性がでてくるのではないかという判断が働いたものとみられます.

 

また言うまでもありませんが,この度のトランプ暗殺未遂事件によるトランプ人気の高まりがバイデン勝利の可能性をさらに低めてしまったという点も重要な要素でしょう.つまり,トランプの耳を貫通したあの銃弾は,バイデン氏を大統領候補の席からも吹き飛ばしてしまったわけです.

 

そしてバイデン氏は,大統領選撤退表明と同時に,自らの後継者として副大統領のカマラ・ハリス氏を指名しました.

 

ハリス氏は西部カリフォルニア州出身の59歳。父親はジャマイカ出身、母親はインド出身で移民の2世として生まれ育ち,カリフォルニア州の司法長官を務めたあと、2017年に上院議員となり、2020年の大統領選挙で議員1期目ながら民主党の候補者指名争いに挑戦するという経歴の持ち主です.バイデン氏はそうした「若い力」を取り込むべく,民主党の候補者氏名争いで打ち負かしたハリス氏をあえて,副大統領のポジションに採用したわけです.

 

そうした経緯もあり,バイデン氏はかねてから退任してハリス氏に大統領候補の席を譲るのではないかという観測が流れていたところ,今回,その観測通りの展開となったという次第です.

 

バイデン氏がハリス氏を指名した背景には,その若さもさることながら,ハリス氏なら黒人票の取り込みが可能となるという計算もあったでしょうし,勝てば女性初の米国大統領誕生というオマケもついてくるということを期待したこともあったものと見られます.

 

しかし,はたしてこれで本当に,民主党候補が勝利する可能性,すなわち,トランプ氏を打ち負かす可能性が高まったのかといえば…必ずしもそうではありません.

 

なぜならこれまで大統領選における民主党の有権者達は,バイデン氏に入れるということでまとまっていたわけですが,そのバイデン氏が指名したからといってハリス氏を皆すんなりと支持するかといえば不透明だからです.

 

そもそも,過去75年で、再選に向けての選挙戦から撤退した現職の大統領候補は二例しかないのですが,その二例とも(ちなみにその二例はいずれも,今回と同様民主党)交代した候補者は負けているのです.票固めの期間が短いが故に,候補者の交代は概して選挙戦に不利に働くことが懸念されます.しかも,交代を余儀なくされる程の逆風が現役大統領に吹いているからこそ交代しているわけで,その逆風は新しい候補者にも逆風として機能するという背景もあります.

 

しかも,そもそもハリス氏は副大統領として目立った活躍をしていないという評判が強く,決して人気がある候補者ではないのです.例えば政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」のまとめによりますと、7月20日までの各種世論調査の平均では、ハリス氏を支持するとした人は38.1%、支持しないとした人は52.3%となっているようです。

 

また,ハリス氏が有色人種であり女性である,ということもどのように影響するかも不透明です.

 

有権者の中には「女性だからこそ支持する」「有色人種だからこそ支持する」という層がいることは確実ですが,「女性なら入れない」「有色人種だから入れない」という層がいることも想定されるからです.

 

もちろん,リベラルな民主党の支持者達は,後者よりも前者の方が圧倒的に多いでしょうが,問題は,共和党,民主党に次ぐ第三勢力であるケネディ候補にシンパシーを抱いている有権者達です.

 

実は,ケネディ候補は,民主党,共和党等に属さない無所属の候補者.それにも関わらず有権者の1割弱の支持を集めている,無視できない「ダークホース」なのです.

 

ただし,ケネディ氏は元民主党なので,これまでバイデン氏を応援している民主党有権者の中にも,ケネディに一定のシンパシーを感じている勢力も一定存在しています.そんな「ケネディもいいけど,一応バイデンにしておこう」という民主党員の中で,「バイデンじゃなくてハリスだったらもう,ケネディでいいや」と思う党員が必ず一定数いる筈です.なぜなら,「女性ならやめておこう」「有色人種ならやめておこう」「現職大統領じゃないならやめておこう」という勢力が少なからず存在しているわけです.

 

もちろん,今回のハリス指名を決めた民主党バイデン陣営は「黒人層の取り込み」「女性からの支持拡大」を狙っているわけで,その効果も一定存在するわけですが,「その逆」もまた考えられるという次第.つまり,「新人」「女性」「有色人種」という要素はプラスにもなるがマイナスにもなるわけです.

 

だとすれば総合的に考えれば,現時点の状況を考え見れば,バイデン氏からハリス氏への候補者切り替えは,民主党にとって得策ではなく,トランプ陣営に有利に働く見込みの方が高いように思われるのです.

 

なぜなら改めてまとめるなら…

… … …(記事全文3,399文字)
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