… … …(記事全文5,194文字)この度,当方の大学の大先輩で,国土交通省の道路局長・技監を歴任され,後に土木学会会長もお務めになり,現在は表現者クライテリオンの巻頭記事を毎号ご執筆頂いている大石久和先生と共著を出版することとなりました.
大石先生との対談をとりまとめた本なのですが,この本では兎に角,今の日本がどれだけ経済的,社会的,倫理道徳的に劣悪かしているのかを論じた上で,そこから立ち直るためには,インフラ論を基軸とした投資戦略が何よりも必要であるということを論じております.
出版はおそらく今年の再来月か再々来月あたりとなろうかと思いますが取り急ぎ,本書のご紹介までに,そのさわり部分(当方がまとめた「はじめに」)をご紹介さし上げます.
是非,本書出版,ご期待ください!
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【はじめに】
もう長い間,「嗚呼,もう日本は滅びるのだ―――」とこころに思い浮かばぬ日は一日たりとも無かったように思う.
もちろん四六時中そんな絶望感に苛まれ意気消沈しているわけではない.当たり前の一社会人として当たり前の暮らしを続けてはいる.むしろ,その絶望的な状況に抗わんと,精力的に一つ一つの日常場面にて身を処していると言えなくもない.
しかし,折に触れて目に耳に入ってくる報道やら,日常の風景で触れる人々の些細な立ち居振る舞いや佇まいに触れる度に繰り返し繰り返し,そうした想念が胸に去来するのだ.
例えば日本経済に関わる各種報道に触れれば,十年後,二十年後には今の国民が想像だにしていない様な貧困の中に大半の国民が叩き落とされ,三十年,四十年後には,誰もイメージしていないようなアジアの極貧国に凋落していることは確実であるように思えてくる.
連日報道される詐欺や横領,殺人や強姦の記事に触れれば,かつて多くの日本人が当たり前のものとして認識していた公序や良俗は,ものの数十年であらかた消え失せてしまうであろうことはもはや避けられぬ確実な未来であるかのように思えてくる.
そんな公序良俗の崩壊を目にした人々が,まるでパブロフの犬の様に〝パワハラ〟だ〝アカハラ〟だ〝カスハラ〟だとの通り一遍の〝ポリコレ棒〟を振り回し出す様を耳に目にする度に,彼らの偽善と欺瞞に対する嘔吐感を抑えきれなくなってしまう.しかもその嘔吐感をもたらす人々は今後,決して消え失せるどころかますます増殖し続けていくに違い無かろうとも思えてくる.
そして本来こうした日本の深刻なる危機に対峙し,それを乗り越える術を考え,実行し続けていくべき立場にある我が国の中枢の人々の,できることと言えばポリコレ棒すら振り回す程度のことしかできないにも関わらずそのポリコレ棒をすらロクに使えこなせぬ程に愚かなパブロフの犬以下の能力と志をしか持たぬ佇まいを目にする度に,その絶望感がとめどなく肥大化してしまう.
そして何より筆者のその絶望の肥大化を決定的に加速しめるのは…
藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~
藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)