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藤井聡・クライテリオン編集長日記 ~日常風景から語る政治・経済・社会・文化論~

藤井聡(京都大学教授・表現者クライテリオン編集長)

藤井聡

「マイナス金利解除」は、様々なプロセスを経て国民を激しく「貧困化」させる ~「利上げ期待」がもたらす消費・投資・インフラ輸出の低迷と「財政規律」強化~

日銀のマイナス金利の解除という形の利上げが、世間を賑わせています。

 

当方は、この利上げは、確実に日本人の「賃下げ」を確定させることを即座に指摘しましたが、本日はそのプロセスを解説したいと思います。

 

今回の利上げが国民の賃下げに結びついていくプロセスは多岐にわたりますが、ここでは、「短期的被害」と「中長期的被害」に分けて、解説致します。

 

【短期的被害(1):住宅ローンの利払い費の増加】

まず、短期的な被害について。今回のマイナス金利緩和は、それだけで住宅ローンを始めとした実際上のローンの利払い費を「即座」に上げるものではないと考えられますが、「今後、利上げされるだろう」という予期を市場関係者に強烈に与えています。

 

結果、例えば、住宅ローンに実質的な影響が出始めています(実際既に、変動金利でなく、より利払いの多い固定金利を選択する人が増えつつあるようです)。

https://www.youtube.com/watch?v=nM4n5kgP3ec

 

しかし、短期的な影響の中でも特に甚大なのは、外国政府へのODA等における「インフラ輸出」を即座に大きく減少させるという影響です

 

【短期的被害(2):インフラ輸出の低迷】

インフラ輸出の多くは今、日本政府が外国政府にインフラ投資等についての融資(円借款)に基づく「援助」(つまりODA)の一環として行われていますが、それには以下の二種類があります。

 

アンタイド援助:日本政府がお金を貸し出された外国政府が、入札を行って業者を選定し、その資金を使ってインフラ投資を行う(日本企業が受注するとは限らない)。

 

タイド援助:日本政府がお金を貸し出された外国政府が、その資金と「日本企業」を使って、インフラ投資を行う(いわゆる、ひも付き援助)。

 

つまり、その貸し出された資金は、タイド援助では日本企業の収入となる一方、アンタイド援助では、日本企業の収入になるとは限らず、多くのケースで外国企業に流出する事になります。

 

したがって、海外援助は、アンタイドではなくタイドの方が、日本にとっては望ましいのですが、外国政府がタイド援助を許容するには、タイドを選択した際に「メリット」(餌)があることが前提となります。なぜなら、アンタイドなら自国の事業者が受注できる可能性がある一方で、タイドを飲めばその可能性を放棄する事になるからです。

 

で、そんなタイドのメリットとして日本政府が通常提供しているのが「金利を引き下げる」というもの。つまり日本政府は外国に対して「安い金利でお金を貸してあげるから、業者は日本の業者を使ってください」と言って、交渉するわけです。

 

ただし、かつて日本がインフレで、金利が概して高い頃にはそれができず、(日本の業者を使ってくださいという)「タイド」での援助がほとんどできなかったのです。結果、かつては9割以上がアンタイド援助でした。

 

ですが、マイナス金利のお陰で、政府は(日本の業者を使ってくださいという)「タイド」での援助を大量に行うことが可能となったのです…

… … …(記事全文4,387文字)
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