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世に倦む日日

田中宏和(ブログ「世に倦む日日」執筆者)

田中宏和

日本の国制と憲法の独自性と優位性 - 長谷部恭男の定説を批判する三つの補論

前回の記事について追補の議論を3点述べる。第一は、日本国憲法の平和主義がリベラルデモクラシーの上位互換に位置するという原理的上位性の意味についてである。加藤哲郎が、自身が設営するサイトのトップに丸山真男の次の言葉を座右の銘として掲げていた。「戦争は一人、せいぜい少数の人間がボタン一つ押すことで一瞬にして起せる。平和は無数の人間の辛抱強い努力なしには建設できない。このことにこそ、平和の道徳的優越性がある」。丸山真男の死後に小尾俊人の編集で出た『自己内対話』(1998年)に収められていた一節だ(みすず書房 P.90)。加藤哲郎の紹介によって広く認知され、ネット上でも多く言及されている。 日本の憲法が制定する民主主義は、単なるリベラルデモクラシーではなく、人民が政府による戦争から人民を守るために共同して統治権力(主権)を構成し行使するデモクラシーである。戦争を防ぐためという目的と決意が掲げられ、日本国のアソシエーションの原則が宣言されている。平和主義が民主主義に先行していて、敢えて言えば、平和主義が目的で民主主義が手段という論理構成になっている。米英欧のデモクラシーには、こうした本義や特徴はなく、戦争拒絶という国家の前提がない。彼らは国家を防衛するために戦争を行い、人を殺す。代議制で国民から選ばれた指導者が戦争を発動し、国民に戦場で殺人をさせ、それを正当化する。 ■ 第一の論点:平和国家の倫理的優越性 丸山真男は、「平和の道徳的優越性」と言っているが、やはり、戦争放棄を掲げた国家の方が、戦争を前提した国家よりは倫理的に優越していて、人類の歴史から考えて価値的に上位にあると断言できるだろう。戦争という国家の暴力から庶民を守ること、庶民が戦争で命を奪われない法的環境を作ること、平和を人権として確立すること、これは長い人類史の悲願であり、過去の人々において遠い理想だった。物理的暴力を行使して争い合い、傷つけ合わなくても、理性の力で話し合い、相手を信頼して妥協をすることで、互いの利益を実現できること、そのことを最高法規の基本原理として掲げ、内外に向けて規範化した意義は大きい。人類は、初めて、庶民が戦争せずに済む国家を得た。 人類史から戦争を除去し消滅させる展望を得た。そう言えるはずだ。ときどき、それは夢想で幻想だという声を聞くけれど、決してそんなことはないと思う。人間は倫理を積み上げて資産とできる生きもので、将来の子孫のためにより善い社会環境を残そうと努力する生きものだ。そこに個の生きる意味を見出す道徳的存在だ。私のこれまでの短い人生の時間でも、ずいぶん倫理的な向上と善化を見てきたと証言できる。進歩があった。障害者に対する対応がそうだし、犯罪被害者の権利もそうだ。被災者支援も。人類に有害な悪は滅びてきた。例えば、喫煙が地上から消えつつある。ケネディの呼びかけから半世紀で半ば理想の実現へ進んだ。飲酒運転も。巨視的に見れば、奴隷制がなくなっている。身分制も。戦争も必ず地上からなくせる。
… … …(記事全文4,427文字)
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