いわゆるロシア寄りの論者、例えば田中宇がそうだが、戦局はロシアに優勢に動いているという見方を示している。次にオデッサを落とし、沿ドニエストルと繋げ、黒海沿岸をすべて制圧し、ウクライナを内陸国にしてしまうだろうという予想である(ノボロシア論)。私の観測はその逆で、東部戦線での戦いはロシアに不利と踏んでいる。膠着に持ち込むのが精一杯で、大きな決戦に出た場合はロシア軍が負ける可能性が高いと見る。小泉悠や防衛研の陣笠と同じ認識だ。 その理由は、ロシア軍の補給能力が劣弱だからで、戦力全体を比較してウクライナ軍の方が優勢だからである。現状、戦争はロシアとNATOの半総力戦になっていて、兵員以外の全てがNATOからウクライナ軍に供給されている。武器、弾薬、車両、燃料、医薬品等が無尽蔵に支給され、資金も際限なく青天井で注入されている。国境の隣でアメリカが兵站をサポートしているのと同じで、情報戦力を含む軍事力全体でウクライナが圧倒的に優勢な状態にある。 その戦況の実態を裏付けるように、西側の首脳部から楽観的な発言が相次いでいる。19日、ショルツが、「われわれは、この戦争でロシアが勝ってはならないとの見解で完全に一致している」という踏み込んだ発言に出た。26日、キエフ訪問中のオースティンが、「ロシアが、ウクライナ侵攻のようなことをできない程度に弱体化することを望む」と発言して自信を示した。続けて翌27日、トラスが、「ロシア軍を『ウクライナ全土から』押し出さなければならない」と強硬発言して注目された。 トラスの「ウクライナ全土から」という意味は、クリミアも含むという意味であり、西側首脳においてすでにこの目標が射程に入っていることを示唆している。この線までマスコミで発信できるほど西側が強気になっている事実の証左であり、逆にロシア側の劣勢が看て取れる。27日にはウクライナ軍が無人機でロシア西部の弾薬庫と石油施設を攻撃、米「戦争研究所」は今後さらに越境攻撃が増えるとコメントした。米「戦争研究所」は、事実上の西側参謀本部情報調査部である。… … …(記事全文4,041文字)