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<Vol.1511:増刊:金市場で起こっている先物売りスクイーズ意味>
2025年2月16日:金を求める世界の中央銀行ホームページ https://www.cool-knowledge.com
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著者へのメール yoshida@cool-knowledge.com
著者:Systems Research Ltd. Consultant吉田繁治
NYとロンドンの金市場で、金先物売りのスクイーズが起こり、金の現物が激しく不足する「稀な事態」が起こっています。「金先物売りのスクイーズ」あるいは「ショート・スクイーズ」と言っても、その意味はたぶん99%の方が分からないと思います。
新聞と金融メディアにも、金と先物の専門家はほぼゼロなので、記事はおよそ皆無です。価格が上がった、下がったと伝えることしかしていません。
当方の役割は、「知識源:ナレッジソース」を提供することですからもっとも基礎的なことから書きます。
◎先物取引は経済を主導する株価、通貨レート、金価格の2025年の予想に深く関係します。先物の売買と清算を書くときは、売りと買いの誤記が起こりやすいので、慎重に進めます。
<Vol.1511:増刊:金市場で起こっている先物売りスクイーズ意味>
2025年2月16日:金を求める世界の中央銀行:共通版
【目次】
■1.先物証券の売買とはどんな取引か?
■2.金先物売りに対するスクイーズ(圧迫)という現象
■3.ウクライナ戦争のあとは、反ドルの金買い
■4.金先物スクイーズからの市場の金の枯渇のあとの、2025年の金価格
■5.質問への回答:読者から金について3点の質問がありました。類似の疑問が300人の方にあるのではないと思うので載せます。
■6.衝撃:米国FRBの金8133トンに再評価の動きがある
【後記:AIと人間の頭脳】
■1.先物証券の売買とはどんな取引か?
まず「先物証券」から。先物は、i)将来(限月)の価格で、ii)現物を買う(または売る)ことを約束する証券です。先物証券の買いは証券会社からの信用借りで実行されます。現金の支出は要らず期限日の限月までに、その時点の時価で反対売買をして清算します。
先物の売買を行うには、損失が出たときの担保である証拠金を納めていなければならい。わが国では、先物取引の上限の1/15倍くらいから1/30倍くらいです。証拠金の15倍から30倍の信用取引が可能です。海外では最高のレバレッジ(梃子:テコ)の倍率が日本の3倍くらい高い。
5倍の先物買いでは、金価格が限月内にたとえば5%上がったとき売ると(清算すると)、「5%×5倍=25%-手数料」の利益になります。
逆の先物売りを入れておいたときは、先物売りの価格より5%高く買うことになるので「5%×5倍=25%+手数料」の損が出ます。業者が100億円売買していれば、2.5億円の損です。
・「限月までに相場が上がる」と予想するときは、先物買いを、
・「下がると予想する」ときは、先物売りをすることが普通です。
限月の反対売買(清算)は、いくら損をしても絶対的な義務です。
証拠金に余裕があれば、損を抱えて清算日をのばすキャリーオーバー(繰り越し)もできます。ロールオーバーとも言います。
限月の証拠金がポジション(売買の未精算の残高)を維持するのに足りなくなったときは、マージンコール(追い証)が必要です。追い証が払えないとポジションの全部が強制売買されて多くの場合、破産します(価格はSQ値:特別清算指数:225社の指数株である日経平均では各月の第二金曜日)。
(i)「金先物買い」は、限月までに時価で金を売って清算する義務のある証券です。金の価格が上がったときは、「上がった売り価格-買っておいた先物価格=利益」になります。逆に下がったときは、買ったときより下がった時価で売らなければならないので損が出ます。
金の先物価格は、その日の時価に近い価格です。4月限(ぎり)が1万3968円、6月限が1万3962円、8月限が1万3982円です。いずれも10%の消費税は抜きです(2月11日時点)。
4月限の先物買いでは1万3968円の先物価格で買うので、限月までに仮に1万5000円に上がったときの清算(売り)では、1万5000円-1万3968円=1032円(7.3%)の利益が出ます。これは2か月での利益なので、年率ではその6倍の43.8%という高い利益になります。
(ii)「金先物売り」は、逆であって限月までにその日の時価で金を買って、清算する義務のある証券です。価格が上がると損をします。「金先渡し」のついた先物では、金現物を買って「デリバリー(受け渡し)」しなければならない。
先物売りは価格が下がると利益が出て、上ったときは損をします。その損益には、レバレッジがかかっています。5倍のレバレッジで売買していれば、価格差の5倍の利益または損になります。
〔先物売買には相手方がある〕
Aさんの先物売りが成立するには、同じ価格での、先物の買い手のBさんが、裏に存在しています。普通、顧客が先物売りしたときは、証券会社が先物買いの「カウンター・パーティー(相手方)」を務めるか、または買い手を探して引きあてます。
以上が、先物売買の基本メカニズムです。
■2.金先物売りに対するスクイーズ(圧迫)という現象
24年10月から金の国際価格(ドル建て)が上がってきた25年の1月末から、ロンドン市場で起こっている「金先物売りのスクイーズ」(圧迫が原義)からの金在庫の枯渇」とは、どんなものか(LBMA:ロンドン地金市場協会)。
金先物とオプションの、未精算の残高(Open Interest)。先物1枚は3.11kg=現在価格で約5000万円。25年12月14日の未精算の残高は52万枚だから26兆円分と大きい。金の量では1617トン相当。年間の鉱山生産3600トンの45%が未精算の残高で、生産量の約半年分です。
オプション取引は先物に似ていますが、限月までに自分で決めた「先物にあたる権利行使価格」での売りまたは買いを契約する取引です。契約するとき払うのが、ブラックショールズ方程式(期間金利と価格変動の標準偏差で計算した)オプション料です。限月までの価格で売買すれば、損をするときは売買せず、払っていたオプション料を流します。オプション料は、金価格のボラティリティ(VI)が大きいときは高くなり、VIが小さなときは安くなります。
https://www.cmegroup.com/markets/metals/precious/gold.volume.html
〔スクイーズの仕掛け〕金相場の下落を期待した「先物売りが増えている」と見た先物業者が、相場を上げる目的で買いを大量に行うことを業界の慣用で、「金先物売りを(敵と見て)スクイーズする」と言っています。
〔市場は、売りと買いの戦い〕株式市場も金市場も、「自分の利益を上げようと売買する戦場」です。増えている先物売りに対し、価格を上げる買いのスクイーズを仕掛けるとき発生します。価格が、上昇率の上げに転じたとき起こりやすい。2025年1月から2月がこの事例です。
〔現実の金価格〕金の先物売りを大きくしていた側は、「8月から価格が上がったので、25年1月、2月、3月あたりの金価格は下がる」と予想していました。ところが実際の相場では、1オンス(31.1グラム)2600ドルから2900ドルまで12%(年率換算では40%)も上がったのです。
先物を売っていた側はどうするか? 限月まで大きな売りのポジションを抱えていれば、損が大きくなるので、「先に買って損を減らそう」とします。
つまり上げ相場では先物を売っていた側からも買いが増える。
先物売りをスクイーズしようと思っていた側は、もともと買いです。
この二つが重なって「金の先物買い+現物の買い」が増え、価格が「普通」の約3倍(1か月で12%)上がったのが、24年1月末から2月です。
(注)普通とは、ボラティティも不規則に変動する相場に馴染まない概念ですが、24年7月の2400ドルから10月2600ドルまでは1か月では3.5%の上昇でした。年間では、年間への換算では√12=3.5をかけて、約12%の上昇トレンドでした。これが2024年の金価格の市場(投資家)の、平均的な相場観(=集合知)だったのです。
◎売買が大きなロンドンのLBMAは、伝統的に世界の金鉱山から金の地金が集まり、世界からの買いによって、金がデリバリーされる市場です。
世界最大の市場であるLBMAでは、25年1月、2月の現物金の買いが、ショートスクイーズ(先物売りの圧迫)が重なって2倍、3倍に増えたため、販売用の在庫が枯渇し、デリバリーが4週(1か月)、8週(2か月)と遅れるようになっています。
期日に遅れても先物買いに対してデリバリーされるといいのですが、その保証もできない。現在、金の在庫が枯渇した状況です。期日決済が困難な手形(先物証券)になっているです。デリバリー期日のジャンプしか、方法はない。
世界の金鉱山の金の生産量は、3600トンあたりで5年間、一定しています。月間平均300トン、1週で150トンの、ロンドンへの販売用金の入荷です。現物の金の販売市場は、多くがロンドンであり、つぎがスイスです。NYのコメックスは、先物の売買市場です。
そのロンドンのLMBAからは、コメックスに1220万オンス(382トン:4トントラック96台分の量)の金が、金先物買いのデリバリー用に運搬されています。LMBAで金の在庫が枯渇するのは当然でしょう。現物の金市場はいまこういった状態です。
販売用の金在庫が市場からなくなると、価格はどうなるか。商品なら供給量に対して需要量が増え、価格が急騰すれば、高くなったため買いが減って価格は落ち着くときがあります(供給額=価格上がった需要額の地点で、価格が平準化)。これが物価の性格です。商品の物価は上がることで価格の裁定機能をもっています。
しかし、株や金などの金融商品では性格が違います。価格が上がる傾向になると、利益狙いの買いが一層増え売りは減って、価格が急騰するサイクルに入ることが多い。これが6か月や1年続くと、バブル価格になります。
価格に充足点がある商品とは違い、金融商品では価格が上がってもニーズが満足される地点はない。価格がピークアウトするのは、供給(現物売り)が増えるとともに、「高すぎる」という感情的な認識が市場にひろがったときです。
◎金には、合理的価格を計る株価のPER(株価÷純益:あるいは期待長期金利と比べた株式益回り)のような数理的な指標がありません。高すぎる、あるいは低すぎるという評価は「感情的」なものです。
唯一の基準は、ドルマネーサプライ(M2)の増加率であって、65年の平均増加率は7%/年です(65年で77倍)。この間の金価格は1オンス35ドルから2900ドルへと82倍に上がっています。(FRED:ドルのマネーサプライの推移=総預金高の推移)
https://fred.stlouisfed.org/series/M2SL
〔原則〕「金価格は、長期ではドルのマネーサプライの増加率」に正比例して上がる。(金価格/ドル&円:1978-2024.02)
https://gold.mmc.co.jp/market/gold-price/#gold_longspan
〔重要な事実〕テーマの金価格で、2010年(1オンス800ドル)からの価格が大きく上昇した主因は、G5以外の、BRICSを中心にした中央銀行がそれまでの、400トンの金の売りから、500トンの金の買いに転じたことでした。
〔FRBと大英銀行の介入〕2010年から2024年の間に、現物需要が増え続けていた金価格が下がったのは(2012-2016年)、FRBとイングランド銀行が銀行とファンドに対して、ドル基軸を防衛する目的で、i)先物の売りと、ii)金ETFの売り越しに介入の要請をしたときでした。
https://gold.mmc.co.jp/market/gold-price/#gold_longspan
■3.ウクライナ戦争のあとは、反ドルの金買い
2022年のウクライナ戦争で米国が、ロシアの外貨準備(3000億ドル:米国短期債)を凍結し、ロシアのルーブルをドル基軸のSWFIT回線(BISが所有)から閉め出したとき、G5以外の中央銀行には以下の動きがありました。
中央銀行は、国相互の海外送金をまとめて行う機関です。米ドルではBISのSWIFT回線を使います。ロシアのようにBISへのアクセスを遮断されると海外送金ができません。ロシアは、仕方なく中国の国際送金回線であるCIPSを使ったのです。金本位時代の貿易では金を運んでいましたが、いまは電子信号です。意識しないでも世界中と自動的につながるインターネットが国際回線としていかに画期的なものか分かるでしょう。
(i)BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南ア)を中心にしてG5以外に世界からは「反ドル&反米」の動きが起こった。西側は、この反ドルの、世界の動きを過小評価しています。80年もドルが中心の国際マネー体制だったからでしょう。
(ii)反ドルは、「ドル外貨準備の売り/金の買い」になり、中央銀行の準備通貨として年間の金の買い増しは1000トン台に増えました。
国民が意識していない準備通貨は、信用通貨発行の本源的な通貨資産になるものです。中国を先頭にした新興国では、米ドルが外貨の準備通貨であり、ハードカレンシーとされるG7では、自国の国債です。なお、中国やシンガポール、産油国は、自国通貨のレートをドルに連動させるドルペッグです。日本はドルペッグではありません。2013年以降は、逆に「外為市場でドル買いが増える円安の低金利」です。日銀は金を買っていません。
中央銀行の金買いは、鉱山からの生産3600トン/年の新規供給の中で28%を占め、金の価格を上げる主因になっています(約3割の買い)。2010年以降の金価格を上げたのは、中央銀行の金買いでした。
〔外貨準備の売り→金買い〕
60%がドル国債である世界の外貨準備は、15兆ドル(2265兆円)もあるので、1年に2000トン(1グラム1万5000円で30兆円相当)は十二分に買えるドルをもっています。しかし、急に金の買い増やすと、金価格が短期で急騰するので(2倍/年か)、年20%から30%の価格上昇で収まる1000トン台に抑制しているのです。
BRICSと産油国が中心になった金買いの目的は、西側とG5の中央銀行とIMFの金(2万2495トン)の奪還でしょう。
◎金を高騰させないで奪還しなければならない。上げすぎれば買いを減らしたときの将来の下落で損をするからです。1年に1000トン台しか買い増していないBRICSと産油国の中央銀行は長期的視野で賢明(プルーデンス)に見えます。
〔西側の中央銀行の金保有量:2024年12月〕
中央銀行の金保有量は米国8133トン(世界の金生産の2.3年分:実際にあるのか?)、ドイツ3351トン、IMF2814トン、イタリア2451トン、フランス2437トン、スイス1039トン、日本842トン、オランダ612トン、ECB506トン、英国310トン、合計で2万2495トン(世界の金生産の6.2年分)です。西側は金を買い増していません。むしろ、売っています。
西側の金が、集荷基地であるロンドンのLNMAからユーラシア(東)に移動しているのです。NYのCOMMEXは金先物を取り扱っています。2010年以降、現物の金の、世界最大の買い手となっているのは、上海金取引所(SGE)です。
1年の中国の金需要は、輸出を禁じている自国産の300トンを含んで世界の30%(約1500トン:宝飾用+工業用+ゴールドバー)を占めています。
〔東側の中央銀行の金保有量〕
世界3位の産金国でもあるロシアは2333トン、1位の中国2279トン(実態ではこの数倍は多いでしょう:IMFの調査は及んでいません)、インド879トン、トルコ614トン、ポーランド448トン、ウズベキスタン382トン、サウジ323トン、カザフスタン284トン、タイ234トン、シンガポール219トン・・・です。世界の中央銀行の、金保有の総量、は3万6213トン(世界の金生産の10年分)とされています(IMF:24年12月)。
ただしIMFは、実地調査をせず、このデータは善意の報告なので、かなりの開きがあると見ています。(世界の中央銀行の金準備保有高:IMF)
https://lets-gold.net/chart_gallery/gold-holdings-rank.php
【東側の中央銀行による金の買い増し】
2010年から2021年までの、G5以外の中央銀行による金買い増しは450トンから500トン付近でした。
◎ウクライナ戦争で、ロシアの外貨準備が米国によって凍結された2022年には倍増して1081トンに増え、2023年も1049トン、2024年も900トンの予想に対して、1045トンでした(WGC)。
https://www.gold.org/goldhub/data/gold-demand-by-country
合計のGDPではすでに西側を上回っている「BRICS+グローバルサウス」の中央銀行の金が、国際通貨の準備金としての臨界点(約2万トン:世界の金生産の5.6年分)に達する前後には、貿易に使う基軸通貨(国際通貨)が「ドル+ユーロ」を逆転するでしょう。
G7の合計GDPは46.8兆ドル(44%)、G7以外の世界が60兆ドル(56%)です。G7のGDPは米国(27.7兆ドル)、ドイツ(4.5兆ドル)、日本(4.2兆ドル)、英国(3.4兆ドル)、フランス(3.1兆ドル)、イタリア(2.3兆ドル)、カナダ(2.1兆ドル)です。1人あたりGDPでは日本は、2010年に対して1/2の円安のため世界の32位に落ちました。
BRICS+グローバルサウスの中央銀行の金は、1年間の〔輸入1000トン+産金1000トン〕で、毎年、少なくとも2000トンは増えているでしょう。5年で1万トンが加わります。世界の金地金の約50%がBRICS+グローバルサウスに向かっています。
西側のGDPは、米国以外は高齢化から停滞経済ですが、「BRICS+グローバルサウス」のGDPは、4%から5%の成長経済です。5年で西側は1.02の5乗=1.1倍、BRICS+グローバルサウスは1.25倍になります。BRICS+グローバルサウスと西側のGDPの格差は年々開きます。トランプの時代からの、米国覇権の喪失になっていくのです。
米国とってドルから排除したエネルギーと資源の輸出国のロシアと、エネルギーと資源の輸入国である中国が連携することは、もっとも避けたい。最強の国家連合になるからです。
しかしトランプには、世界のGDPの45.2%を占める輸出入(対外交易)をたぶん15%(7%)は減らして、世界を不況化させる輸入関税を言うだけで、何らかのクサビを打ち込む素振りは、まだ見えません。米国の輸入関税は、ロシアと中国を強く結びつけます。これは、米国の国際戦略が伝統的にもっとも忌避してきたことです。
以上のように、ウクライナ戦争のあとの東側の中央銀行による、
i)ドル外貨需準備の売りと、
ii)ドルの代替資産としての金の買い増し(年1000トン)が、2022年から2025年2月の金価格高騰(2000ドル→2900ドル:+45%)の背景にある需給要因です。根本にある理由は「ドル離れ」です。
■4.金先物スクイーズからの市場の金の枯渇のあとの、2025年の金価格
何であっても〔供給<需要〕になって在庫が枯渇すると金の場合は、一層の買いが増えて、価格は上がります。
1年の新規供給は3600トン(1か月300トン:1日10トン:時価で1500億円)しか増えないからです。リサイクルが1300トンありますが、電子回路や宝飾品に使った金を再抽出するものであって、新規の供給ではない。
鉱山の、採掘可能な金は、見えない地下のことですから誤差はあるでしょうが5万トンしかないとされいます。3600トン掘ると、14年で枯渇します。
1トンの岩石からとれる金は数グラムに減っていて、生産コストは年々上がっています。一方で需要は増える。鉱山の金が枯渇に向かうと認識されると金の価格は一層高騰するでしょう。金の代替金属は銀です。その時期には銀が上がるかもしれません(5年後からか?)。
いったん買われたゴールドバーが売られて、市場に出ることは、ほとんどない。1本1Kg以上のゴールドバーは、長期で資産として秘匿される性格のものです。その証拠に3万6000トン余もつ世界の中央銀行も売らない。
逆に、米ドルに代わる準備通貨として年1000トンを買い増しています。(注)準備通貨は、信用通貨を発行する根拠になる本源的な通貨です。
〔価格を下げる金ETF売り越し〕
価格の下げ介入のために、売り越される年度があるのは、ペーパーゴールドの金ETF(残高3200トン)だけです。最大の売り越し可能額は四半期で200トン、1年で800トンでしょう。ただしこれは1年しか続かない。
ファンドによる金先物の売りは、平均では3か月で清算の買いになるので、1年間では売りの増加ではない。
つまり、金価格を下げる売りは、金ETFの3か月で200トン、1年で最大800トンの売りしかない。ただし金ETFの売り越しには、長期に観察してきた当方の推計では、1000トンという限界があります。金引き当てのあるものは、ゴールドバーと見なされているからです。
金の価格は、市場での売買(現物+金ETF+金先物)から決まります。需要が増え、増えている需要に対して、年3600トンと一定額である新規供給が少ないと上がります。
〔暗号通貨との比較〕
2024年のトランプ当選後の、ビットコインの上り方に似ていますが、金は価値の実体をもつので、実体がなく乱高下する宿命の、価格が売買で変わるICO型暗号通貨よりは、価格の基盤が強いと判断します。
2025年には、1470万円から1580万円のボックス圏になっているビットコインの価格には、トランプの暗号通貨への支持から「買いが増えるだろうという期待」しかない。その証拠に、トランプコインは、1月21日の6833円から47%の3236円に下がっています(25.02.15)
https://nikkei225jp.com/bitcoin/
〔株価との比較〕
金には、株価のPERのような価格の評価指標はなく、1グラムいくらが妥当な価格かという基準はありません。
一方で株価の米国S&PのPERは100年の平均では、17倍付近が基準でしょう(10年の平均純益に対するシラーP/E
:1970-2025年2月は、38.54倍のバブル水準)。
https://www.multpl.com/shiller-pe
■5.質問への回答:読者から金について3点の質問がありました。類似の疑問が300人の方にあるのではないと思い載せます。
<質問:難しいことはわからないのですが、金現物はロンドンで取引されているそうです。現物の取引と、NYのコモディティ市場での、証券上の金の取引と、裁定取引がされていて、それが密に連動していて常に現物の価格と先物取引の価格が均衡しているということをネットで見ました。
「金の販売在庫の不足から、価格を下げる先物売りは増えることができないでしょう。デリバリーの不能から、金先物証券の投資家からの信用がなくなるからです。金先物売りがなくなることは、カウンター・パーティーの金先物買いもなくなって、金市場は現物の売買に収斂(しゅうれん)ます。そのとき、金のデリバリーができずに破産した先物業者は、消えていきます」・・・とメールマガジンに書かれていたのですが、ロンドンの市場と、ニューヨークの市場と裁定取引に関して、どのように価格が動いていくかを、教えていただきたいです。
先物の取引は経験がないので、どのように売り/買いされているか、その解説もお聞き出来たらありがたいです(質問:ここまで)>。
【回答(1):先物業者の先物の売買】
現物に紐付いた金の先物の買いをしている先物業者は、金を買って長期保有することが目的の一般人と中央銀行ではなく、金の限月までの入荷予定を担保にして、連続的に先物売りをしています。
この先物の売りは、金鉱山が行っている向こう3か月くらいの生産予定額を生産前に先物価格で売ることと同じです。穀物・肉・原油でも、業者は、先物売りをして、現金を早期に入手し、現物の生産予定分を引き当てていますね。これと同じ仕組みです。
現在、日本でコメの価格が1.5倍に上がって社会問題になっているのは、卸売業者が先物買いした倉庫在庫のためです。近々には放出されるので、5月頃からは下ります。1年を過ぎて古米になると、乾燥・酸化して価格が下がるからですが、金は100万年ストックしても化学変化はなく古い金にはなりません。
金先渡しのついた金先物証券を現金で買っていた業者は、限月のデリバリー予定の金を目当てに、先物売りしていることが多く、現物が入手できないと、手形が決済できないときのように、連鎖破産になって困るのです。
金先物証券は、市場の金の、現物在庫の枯渇は、金価格が高騰して引き当ての買いができないと、先物売買のチェーンのような連鎖が切れて、危機になります。金在庫が枯渇する先物証券の危機は、金現物の価格にとっては逆に高騰の機会になります。
販売用の金在庫の枯渇は、先物売りをしている原油や穀物で、限月(期限日)のデリバリー分を生産できないこと同じです。多くの金鉱山は、先物売りをしています。
【回答(2):市場間の価格差を狙う裁定取引】
ロンドンの市場と、ニューヨークの市場と裁定取引は、現物の金では、仮に1%の少額ではあっても、必ず生じている市場間の価格差を狙うものです。
現物の金価格は、当日の朝、Fix(1日間固定)されるからです。NYとの時差の関係でロンドンでの価格Fixingがもっとも早い。
現物の金価格が、たとえば1日で3%上がるときは、ある瞬間にはロンドンとNY現物では、3%の価格差ができるので、
i)ロンドンでの3%安い先物の買い、
ii)NYでの3%高い先物売りの裁定取引になります。
現物の金は、電子暗号ではなく物的な移動時間(1週から2週)が必要であって、当日の価格はFIXされていますから、こうなるのです。
価格がすこしでも安い市場に買いを入れ、同時に、高い市場で証券を売ると、この仮定の場合、瞬間で3%(1枚の100オンスあたりで8100ドル:122万円=3%)の利益になります。
金先物の証券は、当日の価格の電子証券ですから、遠隔の取引所間であっても船や飛行機とトラックでのデリバリーはなく、通信で、瞬時に売りまたは買いができます。
時間が先行したロンドンでは価格が安く、時間があとのNYコメックスでは高いとき、つまり日々の現物の金価格が上がるときは、買っていた先物売り証券の利益が出る現物引き渡し要求が、当然に、増えます。ロンドンとNYの緯度の時間差(=その日の現物の価格差)があるのでこうなるのです。
2010年以降の世界の先物市場には、ロンドン、NYより大きな巨人ができています。世界の金の約30%を、売ることが少なく買っている中国上海市場です。
世界1金の需要が多い上海市場では現物の金にプレミアムがついて価格が高い。ロンドンからNY Commexへの、金の大量移動の背後では、中国の先物業者がいて、中国業者が行っていると見ています。
中国人とインド人、産油国の金選好は強い。日本人の金選好は世界1弱い。米国ではファンドがポートフォリオの5%くらいを金にしています。米国の個人も、2020年ころからはビットコインと金を買うように変わってきました。
金先渡しのある先物証券は世界中でチェーンのようにつながっていて、金の現物は、英・米・スイスの金庫から、BRICSの中国、ロシア、インド、アジア諸国と中東に輸送されています。
世界の金鉱山が生産した金はロンドン(LMBA)とスイスに集まるからです。1年に1500トン、四半期で少なくとも375トンの金現物を買っているのが中国です。(英国のLBMAのサイト)
https://www.lbma.org.uk/prices-and-data/lbma-daily-trade-reporting-data
以上の二点が回答です。
(3)もう一点;金の、先行きの価格についての回答。
「金現物の不足<金買いの増加」から、価格の高騰の水準をいうのはなかなか難しい。価格の予想にはデータの根拠がなければならない。感覚的であってはならない。2025年の日経平均は20%、いや30%上がると叫んでいるひとがいますが、当方はいつも、何がその根拠かを読み取るようして文章を読みます。文章は論理だからです。
関係者たちには、金価格は2025年末には4倍に高騰(1万1600ドル)、あるいは10倍に高騰(2万9000ドル)というひとたちがいます。現在、それくらい、現物の供給と需要量の開きが大きいからです。
当方は、2024年9月からのビットコインの高騰(約2倍)を参照点にして、この論に書いた根拠から、2倍(1オンス2900ドル×2倍=5800ドル)とするのが妥当かと見ています。ビットコインはトランプ当選が確実になって熱狂を呼んだ価格だからです。(注)もちろん「外れることもあります」。エイヤッと言って外れる確率は33%あたりか。
そのときの「ドル円」が140円なら、1グラムでは2万6100円+消費税10%=2万8710円付近でしょう(現在の約2倍)。あらゆる市場価格は、直線の一本調子ではなく、利益確定の売りが勝つときの、下げも混じるからです。上限は4倍でしょうか。もちろんこれも推測です。
■6.衝撃:米国FRBの金8133トンに再評価の動きがある
「BRICS+グローバルサウス」の中央銀行の、外貨準備としての「金積み上げ」に対してトランプ政権は「座視」していません。
〔債務超過になっているFRB〕
FRBは1%台の低金利の年度に買っていた国債とMBS(帳簿額面6.4兆ドル)が、長期金利が4.5%台に上がったことから、試算すると〔6.4兆ドル÷(1.035の8乗)=6.4÷1.32≒4.8兆ドル〕に時価が下がっています。
(注)長短の国債の平均満期(デュレーション)を8年としています。
FRBの時価資産は、1.6兆ドル(248兆円)も減って、2025年2月現在のFRBの資本は負債が資産を上回る「債務超過」になっています。民間企業なら破産の状態です。
(連邦準備銀行であるFRBのバランスシート)
https://www.federalreserve.gov/releases/h41/20250213/
〔金再評価勘定を作ったトランプ〕
FRBの債務超過に対して、
i)トランプ政権は立ち上げた「政府基金」の中にGRAs(gold revaluation accounts:金再評価勘定)を設置し(25年2月3日)、
ii)FRBが権利をもつ8133トンの金価格(簿価:1オンス42ドル:1973年のスミソニアン体制崩壊のときの金価格)から、現在の時価2900ドル(69倍)に再評価しようとしています。日銀の金も、1オンス42ドルの価格です。
トランプは「政府基金:ソブリン・ウェルス・ファンド」を、2月3日に立ち上げています(大統領令)。日本ではまだ報道がありません。
トランプ政権はバイデン大統領の4年間に不法移民、世界関税、エネルギー、コロナ、通貨、法制度とCIA、戦争に対して多方面で周到な準備をしていたと見えるのです。
FRBと議会が金の時価への再評価を行うと、どうなるか。FRBの会計上のバンスシート上の金8133トンは、2.6億オンスです。〔2.6億オンス×時価2900ドル=7540億ドル分〕に金の再評価資産が増えます。
ドイツの中央銀行も金準備(3351トン)の再評価をする予定を発表しています。この動きは金の帳簿価格が1オンス42ドルあたりである西側世界の全体にひろがるでしょう。FRBとドイツの金再評価は、842トンの金をもつ日銀にも、「当然に」波及します。
〔影響〕世界の中央銀行全体での、金価格の再評価は、現在の金価格1オンス2900ドル(円では1グラム1万5000円相当)をオーソライズすることになります。金価格に、通貨がもっている心理的な権威がつくからです。
3万4000トン余の金をもつ世界の中央銀行全体での、金価格の再評価が金価格に及ぼす効果は、「マーケットの金価格の相当な上昇」でしょう。
これに関しては、「様々な予想」が識者と金関係者から出されています。分析的、検証的に書くにはページ数が必要です。本稿のページは17ページになったので、2月12日の有料版に書いて送ります。
【後記:AIと人間の頭脳】
われわれは、時々刻々と入ってくる新しい情報を、個人の脳にストックされた知識によって判断し、行動しています。
その構造を図にします。オープンAIの推論型AIの原理と同じです。
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〔原理的、法則的な知識の学習〕
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新しい情報→〔個人の脳内の概念的な知識〕→個人の判断
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結果←行動←集団内の左右を見て協調あるいは反発
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新年から出ている『失われた1100兆円を奪還せよ!』は、経済・金融・金融商品に関する〔制度的、原理的、法則的な知識の学習〕をしていただくために、数値と論理で書いたものです。自薦ですが〔制度的、原理的、法則的な知識の学習〕のために、この機会の購読を推奨します。
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