□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2012年9月30日第731号 ■ ============================================================== 追及されなかった瀬島龍三の大罪 ============================================================== 瀬島龍三氏が95歳で亡くなったのは2007年だった。 もはや歴史上の人物になってしまった瀬島龍三氏に私が興味を持ったの は、なぜ伊藤忠商事という民間会社の一私人が、いくら伊藤忠商事の会長 経験者であるとしても、中曽根康弘元首相の行政改革委員をはじめとした 数々の要職に就くなど、政府に重用され、日本の政治に影響力を持つのか ということだった。 やがて私は瀬島氏が陸軍士官学校を次席で卒業した帝国軍人であり戦前、 戦後の歴史の重要な局面に立ち会ってきた人物であることを知る。 そして私は昭和史の聞き語り歴史家である保阪正康氏の著作などで彼が ソ連と通じて日本兵のシベリア抑留に加担した疑惑があることを知る。 これは私に瀬島龍三という人物に対する強烈なイメージを植えつけた。 大本営参謀本部に身を置く陸軍幹部がどうして部下の日本兵を厳寒の地 シベリアへ捕虜として追いやることが出来るのだろうか。 しかし参謀瀬島の罪はそれだけではない。 都合の悪い軍事情報を握り潰し、あるいは情報操作をする。 これから書くこともその一つだ。 9月30日の読売新聞の書評欄に「消えたヤルタ密約緊急電」(岡部 伸著 新潮選書)の書評を山内昌之明治大学教授が書いていた。 この著書の題名にあるヤルタ密約緊急電とは、第二次大戦中に中立国 スウェーデンの日本大使館武官であった小野寺信少将が本国宛に発した 極秘電の事である。 その電報には1945年2月に行われたヤルタ会談でドイツ降伏後90日 以内にソ連が日本に参戦する密約がルーズベルト(米)、チャーチル(英)、 スターリン(露)の間で結ばれていたという最高度の機密情報が書かれて いた。 この極秘電は日本に届かなかったとされているが、著者岡部氏は各種の 資料や聞き取りを通して、電報は参謀本部に届いていたのに、参謀本部 作戦課の思惑で握りつぶされていた事実を突き止めた。 それを明らかにしたのがこの本であるという。 なぜ握り潰されたのか。 それはソ連不戦を前提に計画された陸軍の本土決戦の青写真が崩れて しまうからだという。 もし、この電報が活かされ、早期降伏が実現していれば、沖縄戦、原爆 投下、シベリア抑留、中国残留孤児などの悲劇は回避されていたかも知れない。 山内教授の書評の中で私がもっとも驚いたのは、「この責任者がほぼ瀬島 龍三陸軍中佐だったと推定される」と山内氏が書いていることだ。 「瀬島は要するに世渡りのうまい軍人で、国家の一大事と自分の点数を引き 換えにする軍人だ。その結果が国家を誤らせたばかりでなく、何万何十万兵隊 の血を流させた。私は瀬島こそ点数主義の日本陸軍の誤りを象徴していると 思っている。」 これは同じころ参謀にいた幹部の瀬島評である。 しかし瀬島氏はその責任を問われないまま戦後、政府の要職を重ね、勲章と 栄誉に囲まれて95歳の人生を全うした。 ひとつの書評から私は今でもこの国の随所にみられる瀬島龍三的なる矛盾に 思いをはせるのである。 了 ──────────────────────────────── 購読・配信・課金などのお問合せやトラブルは、 メルマガ配信会社フーミー info@foomii.com までご連絡ください。 ──────────────────────────────── 編集・発行:天木直人 ウェブサイト:http://www.amakiblog.com/ 登録/配信中止はこちら:https://foomii.com/mypage/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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