□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年5月26日発行 第363号 ■ =============================================================== 小出助教の国会証言を無駄にしてはいけない =============================================================== さる5月23日の参院行政監視委員会とやらで、「原発事故と 行政監視システムの在り方」と題して孫正義ソフトバンク社長ほか が参考人として呼ばれ発言した。 その中の一人に小出裕章京都大学原子炉実験所助教がいて要旨 次のような発言をしたという事を、私のメルマガの読者の投稿から 知った。 以下 小出助教授の国会証言要旨 ・原子力を進めてきた行政に対して一言申すために来た。 ・私はもともと原子力こそ未来のエネルギー源だと考え、夢を 抱いて、原子力工学科に入った。ただ、入ってから調べてみて、 原子力が貧弱な資源だということに気づいた。 ・エネルギー資源の量だが、確認埋蔵量が最も多いのは石炭。 世界が使っているエネルギーを60―70年まかなえる。究極 埋蔵量の石炭がすべて使えるとしたら、800年分近くある。 天然ガスも石油もオイルシェール、タールサンドもある。これに 対し、原子力の資源であるウランの量は、石油の数分の1、石炭の 数十分の1に過ぎない。 ・こう言うと、推進派は、それは核分裂性のウランの量だけで、 我々が使うのは非核分裂性のウランをプルトニウムに変換したもの だから問題ないと反論する。そして、高速増殖炉という特殊な原子 炉でプルトニウムを増殖させて再処理をしつつ核燃料サイクルで回 しながらエネルギー源にするとしてきた。 ・この構想の中心にある日本の高速増殖炉は破綻している。政府の 原子力開発利用長期計画を見ると、最初は1968年の計画で高速 増殖炉は1980年代前半に実用化としていた。次の計画では19 90年前後、その5年後の計画では2000年前後、その次は20 10年になった。その後は、実用化ではなく2020年代に技術 体系を確立したいとした。次は2030年に確立とした。その次の 2000年の改訂では年度を示すことができなかった。次の200 5年の改訂(原子力政策大綱)では、2050年に一基目の高速 増殖炉を作るという計画になった。 ・どんどん目標が逃げているのは明らか。10年経つと目標は20 年先に逃げている。永遠に辿りつけない。ところがこれを作った 原子力委員会やそれを支える行政は一切責任をとっていない。 ・高速増殖炉の原型炉であるもんじゅだけでも1兆円以上を無駄に してきた。現在の裁判制度では1億円の詐欺で1年の実刑という。 1兆円だと何年の実刑になるのか?1万年だ。行政のなかにもんじゅ の責任者が仮に100人いるとしたら一人あたり100年の実刑に なる。それほどのことなのに、誰も責任をとっていない。原子力は 異常な世界だと思う。 ・原子力発電は膨大な放射能を取り扱う技術。広島の原爆のウラン の量は800グラム。一つの原子力発電所で1年で1トンのウラン を燃やす。それだけの核分裂生成物という放射性物質を作っている ということ。機械である原発が故障するのは当たり前。原発を動かす 人間も、誤りをおかすもの。破局的事故の可能性は常にある。原子力 推進側は、想定不適当という烙印を押してそういう可能性を無視して きた。 ・たとえば中部電力は、原発には多くの壁があるから大丈夫だとウェ ブサイトで主張している。特に第四の壁である格納容器が重要だが、 これがどんな時でも放射能を閉じ込めるとしている。原子炉立地審査 指針に基づいて重大事故を想定しているとはしているが、格納容器は 絶対に壊れないという前提になっており、放射能が漏れるような事故を 考えるのは想定不適当だとしてきた。 ・ところが実際に福島でそういう事故が起きてまだ進行中。この事故 に対する行政の対応は大変不適切だ。防災の原則は危険を大きめに 評価して予め対策をすること。しかし、今回日本政府は一貫して過小 評価して楽観的な見通しで行動してきた。国際事故評価尺度も、最後 の最後になるまでレベル7にしなかった。避難区域も最初は万一を 考えてということで半径3キロの住民を対象にした。しばらくすると 10キロに拡大したが、それも「万一」と言った。その後20キロに なったときも「万一のときのため」とした。 ・私はパニックを防ぐ唯一の手段は、正確な情報を常に公開すること だと考える。残念ながら日本の行政はそうではなく、常に情報を隠し、 危機的な状況ではないと言い続けてきた。時間とお金をかけてきた SPEEDIの結果も隠して住民に知らせなかった。 ・更に、誰の責任か明らかにしないまま、労働者や住民に犠牲を強制 している。福島の原発労働者の被曝限度量を引き上げたり、住民の 避難の基準も法律の基準とは全く違ものになっている。こんなことを していていいのか。 ・事故の本当の被害はどのくらいになるのだろうかと考えると途方に くれる。現在の法律を厳密に適用すると、福島県全域の土地を放棄 するほどになる。それを避けようとすると住民の被曝限度を引き上げ るしかないがそうなると被曝が強制されることになる。 ・一次産業はものすごい苦難に陥るだろう。住民は故郷を追われ、 生活が崩壊する。東電が賠償するといっても、何度倒産しても足りない だろう。日本国が倒産しても贖いきれないほどの被害が出るだろう。 ・ガンジーが七つの社会的罪ということを言い、それが墓の碑文と して残っている。理念なき政治。労働なき富。良心なき快楽。人格なき 知識。道徳なき商業。人間性なき科学。献身なき崇拝。それぞれ噛み 締めてほしいと思う。 以上 渾身の証言だ。感動的ですらある。 この国会の模様については以下のサイトで見られるのであわせ紹介 しておく。 http://hiroakikoide.wordpress.com/2011/05/23/sangiin-may23 私がこのメルマガで言いたいことはこれから書くことだ。 小出助教授は別のところでこう述べていた。 すなわち自分は国会で証言などしたくなかった。いくら訴えても それが政策に反映されることはないだろう。むなしいことははじめ からわかっていたが、それを承知で証言を引き受けたのだ、と。 この言葉を聞いた時、私は数年前のイラク戦争に関する自らの参考人 証言未遂事件のことを思い出した。 今では民主党の予算委員の一人となって毎日テレビで顔が映し出さ れている政治家であるが、ある日彼が私を訪れて参考人として国会で 証言してくれと言ってきた。 私は乗り気でなかったが、もし本当に証言が実現した暁には、私の 知っている限りの政府のイラク戦争支持のいかさま振りを国会で話す 覚悟を決めていた。 ところが案の定、私の国会証言は実現されなかったことを人づてに 聞いた。 外務省の強い反対で自民党がそれに応じず、民主党のその議員も あっさりあきらめたのだ。 しかしその経緯について、その民主党議員は私に一言も説明してくる ことはなかった。 それ以来私はその議員はもとより民主党という政党を一切信用しなく なった。 その後民主党は政権交代を果たしたが、その体たらくを今国民は 目の当たりにしている。 小出助教は気の毒だ。彼の国会証言を大手メディアは一切取り上げる ことはない。参院行政監視委員会がこの小出助教授の貴重な証言を活か そうとしている形跡はない。 すべてはガス抜きなのだ。国会はすべて八百長なのだ。 こんな国会に生息する与野党も与野党議員も私は一切信用しない。 彼らは国民のためを思った真剣な仕事をしていない。 あるのは自らの政党と自らの保身だけだ。権力を手にすることだけだ。 私が既存の政党、政治家を全否定する理由がここにある。 了
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