□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2011年5月26日発行 第362号 ■ =============================================================== 菅首相は起死回生の最後のチャンスをみずから手放した =============================================================== サミットの流れがこうなることは予想されていたことだが あらためて残念に思う。 どうやら菅首相は歴史に名を残す最後のチャンスを自ら手放した ようだ。 これは菅首相を応援するために書いているのではない。日本の為 に書いているのだ。 サミットに先駆けて菅首相はフランスで演説した。 その中身は、すでにサミット出発前から報じられていたように、 原発継続の為に安全性を強化する国際協力を進めることと、自然 エネルギーへの移行目標を発表することを並立させることである。 同じような演説はOECD設立50周年式典でも演説するという。 サミット後に発出される議長声明にも同様の趣旨が盛り込まれる ことになる。 これは誰もが考えるシナリオだ。 すなわち福島原発事故で改めて原発の危険性が認識された。放射 能汚染の怖さが再体験された。原発事故の安全を実現するのは当た り前だ。 その一方でサルコジ大統領やオバマ大統領が国策としての原発 政策維持を早々と打ち出していた。 サミットがそのような主要国の妥協の場である以上、そして菅 首相が米仏との協調を重視する以上、演説はそのような内容になら ざるをえなかった。 ところが菅首相は、自らのためにも、そして日本国民のためにも、 その常識を破らなければならなかったのだ。 そしてそれは決して難しくはなかった。 それは必ずしも米仏と対立しなくても出来た。 米仏も反論できない形で、歴史の流れを、そしてそれが人類が 立ち返る高邁な方向であるということを、示すことができたのだ。 この事を証明してくれる記事が今日の朝日新聞の一面に掲載 されていた。 朝日新聞が世界7カ国(日米仏ロ韓独中)で世論調査をした結果、 福島原発事故後、原発反対派が各国で拡大したことがわかった。 世界の世論は間違いなく原発に反対している。 そんな世論の反発を受けて脱原発を鮮明にしたのはドイツだけで はない。 スイスも脱原発し(5月26日朝日)、インドで反原発が高まり (5月26日読売)、イタリアも、中国も脱原発の動きを見せ、 そしてあの北朝鮮までもが太陽光発電に関心を持ち始めた。 世界は米・仏で決まるのではない。200国近い国々の総意で決め られるのだ。 世界はその国の一時的な政権の政策で決まるのではない。世論が 政権を動かすのだ。 菅首相はその事に気づくべきだった。 その事に気づいて次のような演説を行なうべきだった。 まず世界に向けて原発事故を起こしたことを謝罪し、それに迅速、 適切に対応が出来なかった事を謝罪する。情報を十分に開示せず、 世界に不安を与えたことを謝罪する。 その上で、今度の原発事故を通じて核物質の非人間性に気づいた ことを告白し、すくなくとも唯一の被曝国である日本の首相として、 今後は時間をかけてもいいから確実に脱原発に舵を切る、と宣言す べきだったのだ。 これの演説は菅首相がフランスで行なった演説と違いはない。違う のは基本姿勢だけだ。 原発政策を直ち、止めることではない。 したがってまたサルコジ、オバマ大統領の政策に反対するのでも ない。 日本としての長期的エネルギー政策を述べるだけだ。その背後に ある自然と共生する日本の原点に立ち返るだけだ。 それを誰も否定できない。反論できない。 そもそもサミットは合意の場ではない。それぞれの国が自国の立場 を述べ合う場である。と同時にサミットに出席したそれぞれの主導者 が自らの政治的哲学を述べ合う場であるのだ。その原点に立ち返れば よかっただけだ。 なぜ菅首相はそのような演説が出来なかったのか。 それは彼に哲学がなかったからだ。 彼に官僚の助言から自立する政治力がなかったからだ。 彼に対米従属から脱却する気がなかったことだ。 なによりも世論の力を信じなかったことだ。 菅首相は自ら起死回生のチャンスを逸した。 それはまたそのような首相を持った日本が、どの国よりも強く主張 できる脱原発の訴えのチャンスを失ったことでもある。 了
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