□■□■【反骨の元外交官が世界と日本の真実をリアルタイム解説】 ■□■ □■ 天木直人のメールマガジン2010年11月10日発行第190号 ■ =============================================================== 「TPPに不参加なら日本は取り残される」という言葉を鵜呑みにするな =============================================================== TPPに関するどの記事を見ても、今TPP交渉に参加しなければ日本は 取り残される、という脅しにも似た言葉が横行している。 もちろん日本が世界の合意の外に最終的に置かれてしまえばその通りだ。 しかし今はまだその段階ではない。 TPPはその参加国も、その内容も、まったく未定なのだ。流動的なのだ。 そこを指摘する事なく、あたかも今TPPへ参加しなければ大変な事になる、 と叫ぶのは、あたかも中身を問う事無く日米同盟は日本の生命線だ、と叫ぶ ことと同じである。 くわえて菅首相が「平成の開国だ」と叫ぶのは、APECの議長国として 成功を収めたいという個人的下心があるからだ。 「TPPに不参加なら日本は取り残される」という言葉のウソを象徴する記事 を二つ紹介したい。 一つは中国の出方である。 程永華・駐日中国大使は日経新聞のインタビューで「(TPPには)関心を 持って、研究を進めている。参加するかしないかは研究段階でオープンな態度 をとっている」と述べている(11月9日日経)。 その一方で11月9日に横浜市で開かれたTPPの事務レベル会合には、中国 は欠席すると報じられた(11月9日朝日)。 いったん農業市場を開放したらどうなるか。プラス、マイナスを検討した結果、 今は慎重にならざるを得ないというわけだ。 中国の農業事情を考えれば当然だろう。 もう一つは韓国の動きである。 11月10日の毎日新聞は、共同の記事を引用する形で米国と韓国の貿易交渉 の模様を伝えている。 すなわち米国通商代表部と韓国外交通商省は9日ソウル市内で会議したが、 自動車や牛肉の非関税障壁をめぐり対立し合意が出来なかったという。 米国と韓国は二国間の自由貿易協定を結んでいる間柄である。 その米国と韓国が、具体的品目の交渉に入ると自由貿易の合意ができない のである。 菅首相が取り残されるとあせった理由の一つは、中国や韓国に遅れては ならない、ということだと報道されている。 その中国と韓国がこの状況なのだ。 中国はいまだ慎重だ。韓国は無責任に各国との自由貿易協定を結んでいる だけだ。個別交渉で矛盾が表面化するだろう。 賢明な読者ならもうおわかりだろう。 TPP参加を急ぐ理由はどこにもない。 TPPの参加国の数も、そこでどのようなルールづくりが行われるかも、 いまだ不明で流動的なのだ。 そもそも貿易交渉で有利に立つのは競争力のある分野であり、競争力のある 国である。 日本はどっしりと構えていればいいのだ。 それとも日本はもはやかつての日本と異なり、競争力の無い国になって しまったのだろうか。 そうであれば心配しなければならないのはそっちのほうである。 了
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