… … …(記事全文6,194文字)前回、自治体病院の赤字拡大の問題を取り上げた。経営悪化によって自治体病院の統廃合が進み、地域医療が崩壊するなどと不安を煽る論調の記事が多い。だが、そもそも自治体病院など公的病院の第一の使命は、命の危機に瀕した人を最優先で救うことにある。救命救急センター、周産期センター、脳卒中センター、心血管センターといった部門は、警察や消防などと同じくライフラインであり、収益を上げることを目的にすべきではないはずだ。国庫、公庫から血税を拠出してでも、十分な体制を整備・維持すべきだろう。
一方で、一刻を争わない日常的な感染症や生活習慣病などは、命を救うという点においては優先度が低い。これらの部門を公共性の高い医療機関が担う意義は低く、公的病院から切り離して地域の開業医に任せるべきというのが私の考えだ。また、有効性が乏しいだけでなく、過剰診断・過剰治療の元凶となる健康診断やがん検診も、自治体病院が担うべきものではない。公的病院が本来担うべき医療を見直し、選択と集中を行って統廃合を進めるべきというのが、前回の内容だった。これに引き続き今回は、日本の医療の中核と言える「大学病院」のあるべき姿について考えてみたい。
自治体病院だけでなく、大学病院も赤字拡大を訴えている。2025年7月9日、国立大学病院長会議が記者会見を開き、昨年度の決算の速報値を公表した。それによると、全国44病院の昨年度の経常損益は、過去最大の285億円の赤字に達したという。前年度初めて60億円の赤字に転じたが、今回はさらにそれが拡大した。しかも赤字となった病院は、全体の7割近い29病院に上っていると報じられている(NHK「国立大学病院の赤字 過去最大の285億円 全体の7割近くが赤字に」2025年7月9日 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250709/k10014858321000.html)。
大学病院全体の収益自体は、実は対前年度比547億円の増収となっている。しかし、人件費が303億円、診療経費が436億円増加し、これらを合わせて費用全体が772億円増加した。「増収」したにもかかわらず「減益」になった理由として、同会議会長の大鳥精司・千葉大学病院長は、コロナ関連の補助金が打ち切られてたこと、働き方改革による人件費の増加、急激な物価高騰を挙げている。とくに医薬品費、診療材料費の負担が大きく、2018年度の医薬品費が2803億円、診療材料費などが1744億円だったのに対し、昨年度はそれぞれ4065億円、2239億円にも増えたという(時事メディカル「国立大病院、稼働率を上げても赤字から脱却できず」2025年8月21日 https://medical.jiji.com/news/60549)
「このままでは潰れるところが出かねない」と危機感を訴える国立大学病院に対して、さっそく国が手当てに動いた。文部科学省が来年度の概算要求に、大学病院の経営基盤強化費として60億円を盛り込むとともに、国立大学の運営交付金も今年度予算より632億円多い1兆1415億円を要求する方針を固めたのだ(朝日新聞「大学病院の教育研究支援 文科省、国立大交付金は増額幅最大で要求へ」2025年8月26日 https://www.asahi.com/articles/AST8T1RSLT8TUTIL01VM.html)国立大学病院が強請(ねだ)れば、こんなにも簡単に叶うことに驚くばかりだが、たまらないのは高騰し続ける社会保障費の負担を強いられている国民だ。
実は、2004(平成16)年に国立大学が「独立行政法人化(独法化)」して「国立大学法人」になって以降、国からの運営交付金が少しずつ減らされるかわりに、みずから稼ぐことを求められるようになった。その中で、もっとも収益が上げられる部門として期待されたのが「医学部附属病院」だった。2024(令和6)年11月27日に同省高等教育局医学教育課が出した「大学病院を取り巻く現状と課題」(第22回特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会)という資料がある(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001339913.pdf)。それを見ると、国立大学病院の業務収益は独法化以降右肩上がりで増え続けてきた。2010(平成22)年に1兆0370億円だったのが、2023(令和5)年には1兆5657億円と、13年間で1.5倍になっている。
では、その収益を伸ばすために、国立大学病院は何をしたのか。「患者数」や「手術数」を増やしたのだ。同じ資料に「国立大学病院における手術件数・患者数の推移」というページがある。それを見ると、手術数は2004(平成16)年に19万5400件だったのが、2023(令和5)年に33万7100件と、20年弱で1.7倍となっている。同じく新入院患者数も43万人から73万4000人と1.7倍となった(外来患者数は約1500万人から1760万人とおよそ1.17倍)。これに対応するため、医師の数も増やしている。常勤・非常勤合わせて1万2800人だったのが、2万6200人と約2倍だ。つまり、簡単に言えば、独法化以降、大学病院の業務は「2倍」近くも増えたのだ。
購読するとすべてのコメントが読み放題!
購読申込はこちら
購読中の方は、こちらからログイン