… … …(記事全文5,587文字)2025年8月27日、デイリー新潮からこんな記事が配信された。「“自治体病院9割赤字”で“関東近郊”の『小児科医・産婦人科医』不足が危険水準に『このままでは病院がなくなるのでは』という声も」(2025年08月27日 https://www.dailyshincho.jp/article/2025/08270600/#goog_rewarded)。全国自治体病院協議会(全自病)が全国の公立病院の2024年度決算を調査したところ、回答のあった8割の病院のうち、86%が経常赤字、95%が医業赤字を出していた。それが我々の生活にどのような影響を与えるのか、社会学者で流通科学大学准教授の新雅史氏が解説するという内容だ。
この要因として新氏は、長年の赤字体質に加え、コロナ補助金の終了と物価高騰が重なった結果と指摘。また、民間病院では維持が難しい「感染症指定医療機関」「災害拠点病院」「救命救急センター」といった不採算部門を自治体病院が担っていることも、赤字拡大の要因の一つとしている。さらに、人口当たりの小児科医数や産婦人科医数を見ると、地方よりむしろ都市部で少ないことから、経営悪化に伴う自治体病院の統廃合の影響は、むしろ都市部のほうが大きいのではないかと分析している。
新氏も言うとおり、自治体病院の経営を支えているのは、我々が拠出している保険料と税金だ。潰れそうだからといって、医療側が求めるまま診療報酬の増額や赤字補填を続けていたら、国民医療費は膨張する一方だ。持続可能な社会保障を実現するためにも、医療のどの部門に資源を集中するべきか、そして医療介護の仕組みをどう組み直していくか真剣に考え、血を流す改革を本気で実行すべき〝待ったなし〟の段階に来ている。
そのために、私たちが問い直すべきなのは、国立病院や都道府県立病院、地方医療機能推進機構、日本赤十字社、済生会といった「公的病院」が担うべき役割だ。それは第一に、重篤な病気や大ケガで「命の危機」に瀕している人たちを助けることだろう。逆にいえば公的病院においては、すぐに命に関わらないような病気やケガの優先度は低いと言える。公的病院を再生するには、その本来あるべき役割から考えて、優先度が高いと判断できる部門から残し、再構築(本来の意味でのリストラ)していくべきなのだ。
では、その選択と集中を具体的にどのようにしていけばいいのか。そのときに参考になるのが、災害や大事故で多くの負傷者が出たときに、それぞれの状態に応じて「黒」「赤」「黄」「緑」のタグをつけ、搬送・治療の優先順位を決める「トリアージ」の考え方だ。医療全体に命の優先順位を決めるような考え方を当てはめるのは、倫理的に問題だと言われるかもしれない。だが、公的病院を本気でリストラするためにも、こうした「思考実験」をしてみることは不可欠だ。トリアージは、次のような判断基準から成り立っている。
0:黒タグ 優先順位:4位
特徴:息をしていない・助けられない
Ⅰ:赤タグ 優先順位:1位
特徴:バイタルが不安定・重症
Ⅱ:黄タグ 優先順位:2位
特徴:バイタルは安定・待機できる
Ⅲ:緑タグ 優先順位3位
特徴:自力で動ける・軽傷
(筆者注・バイタル=体温、血圧、脈拍、呼吸をはじめとする生命兆候のこと)
この基準を元に考えれば、「Ⅰ:赤タグ」に真っ先に当てはまるのが、「救命救急センター」であるのは異論ないだろう。公的病院の役割を考えれば、大ケガ、火傷、その他重症患者を救う救命救急部門は絶対に必要だ。さらに、緊急対応が頻繁にある部門として、ハイリスク分娩や新生児医療を担う「周産期センター」、急性心筋梗塞や大動脈解離などを治療する「循環器センター」、脳卒中(脳梗塞、脳出血、クモ膜下出血など)に対応する「脳血管センター」などがある。いずれも一刻を争う病気であり、早く治療ができたかどうかで、患者の予後が大きく変わってくる。
こうした部門は赤字になってしまうことが多い。だが、警察や消防と同様の「ライフライン的役割」があることを考えれば、そもそも「採算を取る」という発想自体が間違っているのに気づくはずだ。救命救急に関わる部門には国庫や公庫から、十分な予算を当ててしかるべきだ、こうした部門は24時間365日対応が必要なため、勤務が過酷で給料も割に合わないことが多い。そのため常に人手不足となっている。これを解消するためにも人件費を十分に出して、中堅および若手医師、看護師をたくさん集められる対策を打つべきだろう。スタッフが増えれば労働環境も改善される。美容外科医になるよりも待遇面で有利となり、将来性もあり、社会から尊敬される仕事にしていかなくてはならない。
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