… … …(記事全文5,622文字)7月の参院選をめぐって発信をしたいことがあったため、「新・医療亡国論」の連載を一時休止していたが、再開させていただきたい。
さて、参院選では「社会保険料」の引き下げが大きな争点の一つとなった。それは当然のことで、庶民にとってその負担感は、もはや無視できないものとなっている。「租税負担率」と「社会保障負担率」を合わせた指標を「国民負担率」というが、財務省の資料によると、30年前(95年度)の国民負担率は35.7%だった。それが令和7(25年)度には46.2%と10%以上増えている。一向に所得が伸びない中で、稼ぎの半分近くも持っていかれる。「働けどはたらけどなお、わがくらし楽にならざり」(石川啄木)。庶民が頭に来るのも当たり前だ。
なかでも目に見えてもっとも負担感があるのが「健康保険料」だ。国民健康保険に入っている現役世代の私の場合、8月~翌年2月までの8ヵ月間、毎月8万円前後もの保険料を支払わねばならない。もちろん国民年金や市民税の支払いもあるが、これらに比べると段違いに高いのだ。サラリーマンをやめて国保に入った30年ほど前の1回の支払額は3万円台だったと記憶している。もちろん、それから家族が増えたこともあるが、それにしても8万円は痛すぎる。給与所得者の場合には半分を会社が負担しているが、それも労働者の稼ぎから出ていることを忘れるべきではないだろう。
健康保険料が高くなってしまったのは、国民医療費の膨張が止まらないからに他ならない。平成4(92)年度の国民医療費は23.5兆円だった。それが令和4(22)年度には46.7兆円となった。つまり、30年で倍近くに膨らんだのだ。その間、国内総生産(GDP)は約20%しか伸びていないのに、国民医療費がGDPに占める割合は4.86%から8.24%になった。ちなみに、令和7(25)年度の防衛費の対GDP比は1.8%だ。いかに国民医療費が大きいか分かるだろう。
それによって、医療体制が改善されて国民の安心感が増したなら、まだ許す余地がある。しかし、いまだに地方病院や大学病院は「経営難」を訴えている。たとえば、今年3月13日、NHKが「〝全国6割以上の病院が赤字〟調査団体『地域医療は崩壊寸前』」というニュースを報じた。それによると、全国の病院でつくる6つの団体が、全国1700あまりの病院の去年6月から11月までの経営状況を調べた結果、経常利益が赤字となった病院は全体の61.2%にのぼり、2023年の同じ時期に比べて10.4ポイント増加したという(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250313/k10014747931000.html)。
また、大学病院も窮状を訴えている。同じくNHKが25年7月9日に「国立大学病院の赤字 過去最大の285億円 全体の7割近くが赤字に」というニュースを報じた(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250709/k10014858321000.html)。これに関連してテレビ朝日「報道ステーション」が翌7月10日に、「『診療報酬引き上げを』老朽化した院内の修繕できず…国立大学病院“過去最大の赤字”」というニュースを報じているが、それによると筑波大学附属病院は昨年度過去最悪の28億円の赤字を計上し、古い医療機器を使い続けねばならず、建屋の修繕もままならない状況だという(https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/900168748.html)。
コロナ騒ぎの間には補助金で潤い、黒字転換した病院が多かった。しかし、今になってなぜ経営悪化に苦しんでいるのか。その要因として病院側が訴えているのが、物価や人件費の高騰だ。先の国立大学の赤字をめぐるNHKのニュースでは、次のように報じられている。「前の年度に比べ、収益は547億円増加した一方、医薬品や材料の費用といった診療経費や人件費などが、合わせて772億円増えたということで、物価や人件費の上昇に、診療報酬などの収入が追いついていないとしています」。
しかし、この引用部分にも書かれている通り、収益自体はトータルで547億円も増加しているのだ。国民の稼ぎをあれだけ注ぎ込んでも病院の経営が好転しないのだから、物価高や人件費以外の構造的な問題が別にあると考えなければならないはずだ。その一つとして指摘されているのが、大学病院の経営効率の悪さだ。医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏が東大病院を例に上げて、赤字といっても大学病院が多額の運営交付金・補助金(東大病院は23年度55億円)を受け取っていると指摘している。
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