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鳥集徹(ジャーナリスト)

鳥集徹

#91回 医薬品分野を「成長産業」に位置づけるべきではない ~集中連載「新・医療亡国論──医療が人を不幸にする」その5~

我が国の国力は明らかに衰退している。日本はGDP(国内総生産)で2009年まで米国に次ぐ世界第2位の経済大国だった。しかし、2010年に中国に抜かれ第3位となり、23年にドイツに抜かれて第4位となった。そして、25年には、経済成長率の高いインドに抜かれ、第5位に転落する見込みだ。

 

世界時価総額ランキングを見ると、バブル崩壊前後の1989年には、TOP50に日本の企業が32社も入っていた。1位がNTTの1,639億ドルで、以下、日本興業銀行、住友銀行、富士銀行、第一勧業銀行と、5位までを日本企業が独占していた。そして、銀行、証券会社など金融機関に交じり、トヨタ自動車、日立製作所、松下電器、日産自動車、三菱重工といった名だたるメーカーがランクインしていた。

 

ところが、2025年、日本企業でランクインしているのはトヨタ自動車1社になった。それもギリギリの49位だ。代わってランキングを席捲しているのが米国企業で、33社も入っている。アップル、NVIDIA、マイクロソフト、アマゾン、アルファベットと、5位までを米国企業が独占。NVIDIAは人工知能用CPUなどの設計、アルファベットはGoogleやYouTubeの広告などが主な収益源の会社だ。アップル、マイクロソフト、アマゾンは解説不要だろう。これについて、ランキングを掲載している経済系のサイトでは、次のように解説されている。

 

「(日本の)凋落の要因の一つとして挙げられるのが、デジタル革命への対応の遅れだ。インターネット、AI、半導体といった分野で世界の競争が激化する中、日本企業はグローバル市場を意識した競争力強化よりも、内需に依存した経営スタイルを維持し続けた」(STARTUPS JOURNAL「【最新】2025年世界時価総額ランキング。日本企業の「栄光」と「現在」— 時価総額ランキングに見る36年の変遷」2025年3月12日https://journal.startup-db.com/articles/marketcap-global-2025

 

この解説を見てもわかる通り、日本の凋落の大きな要因は、内需への依存度を高めていった一方で、デジタル革命に乗り遅れたことなのだ。その結果日本は、デジタルプラットフォームやデジタルコンテンツを通じて、一方的に米国から収奪される国に落ちぶれてしまった。世界経済で繁栄を誇った日本の国際的な地位が下がり、衰退していく現実を見せたくないのか、ネットには「いかに日本の食文化やサービスが外国に比べて優れているか」といったニュースや動画ばかりが流れてくる。だが、現状のままではますます「稼げない国」になり、庶民の生活は一層苦しさを増すだろう。2回目の連載で言及した通り、人々の健康度や幸福度は経済状況と密接に関連している。だからこそ、医学部ばかりに英才が取られていてはダメなのだ。

 

もちろん医薬品医療機器分野をテコ入れすることで、経済を成長させられる可能性もゼロではない。2025年の世界時価総額ランキングTOP50には、医薬医療機器関連企業も入っている。12位のイーライリリー(米)、25位のジョンソンエンドジョンソン(米)、28位のアッヴィ(米)、39位ロシュ(スイス)、50位のアボットラボラトリーズ(米)の5社だ。1989年のランキングで、トップ50に入っていた医薬医療機器関連企業は25位のメルク1社だけだった。それを考えると、医薬医療機器を成長産業と捉え、そこに人材を投入するという戦略もあり得ないとは言えない。

 

実際に日本政府は、近年、医薬品医療機器分野を成長産業と位置づけ、テコ入れを続けてきた。2022年6月、厚生労働省が「医薬産業振興・医薬情報企画課」を新設。その説明資料の冒頭にも、次のように書かれている。「医薬品・医療機器産業は、国民の保健医療水準の向上に資するだけでなく、高付加価値・知識集約型産業であり、資源の乏しい日本にとって、経済成長を担う重要な産業として大きく期待されている」(https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/001223419.pdf

 

そして、その成長戦略の大きな武器の一つとされたのが「ワクチン」だった。この新しい課を指揮する審議官の新設を伝えるニュースには、次のように書かれている。

「厚生労働省は、2022年夏を目途に、『医薬産業振興・医療情報審議官』を新設し、医政局に特定医薬品開発支援・医療情報担当の参事官を配置する。新型コロナワクチンの開発が海外に比べて遅れたことを踏まえ、厚労省の体制を強化することで、ワクチンや治療薬など医薬品開発の支援を行う。このほか、健康局参事官(予防接種担当)を設置し、感染症対策を行うほか、予防接種を推進する体制を強化する」(ミクスonline「厚労省「医薬産業振興・医療情報審議官」を22年夏新設 経済課は医薬産業振興・医療情報企画課に名称変更」2021年12月27日)。

 

感染症対策としてだけでなく、医薬品医療機器産業の支援策として、巨額の助成金がワクチンの開発製造に注ぎ込まれてきた。経済産業省は2021年度の補正予算で「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」に2273.8億円、2022年度に同じく1000億円を計上している。これによって福島県南相馬市にアルカリス社、神奈川県藤沢市にモデルナ社のmRNAワクチン工場が建てられた。また、製剤化・重点拠点の整備事業費として、Meiji Seikaファルマにもこの予算から補助金が流れている。

 

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