… … …(記事全文5,155文字)2024年8月6日、漫才コンビ・オール阪神巨人のオール巨人師匠(72歳)が新型コロナウイルスに感染したことをX(旧ツイッター)で報告した。前日から喉の調子が悪く、吸入器やうがい薬、風邪薬などを服用していた。しかし、体調が思わしくなく、6日なって急に発熱。朝一番で受診したところ、「コロナ」だったという。
巨人師匠はみずからXに、「少しの間休む事に成り 祇園花月、博多劇場.御来場のお客様には本当に申し訳なく思っております…(原文ママ)」と謝罪をつづっている(Yahoo! Japanニュース/ENCOUNT「不調を訴えていたオール巨人、コロナ感染を発表『急に熱が出てきて』『少しの間休む事に』」2024年8月6日およびご本人のXの投稿より)。
また、翌7日にはシンガーソングライターの山下達郎さんも、風邪による発熱と喉の炎症で名古屋でのコンサート開催を見送った。そして、公式サイトでこう謝罪した。「直前でのご案内となり、公演を楽しみにお待ちくださっていた皆様、ならびに関係者の皆様には、大変なご迷惑とご心配をおかけいたしますことを、心よりお詫び申し上げます」(Yahoo! Japanニュース/ねとらぼ「山下達郎71歳、ライブの当日中止を発表 発熱&喉の炎症のため『直前でのご案内となり、心よりお詫び申し上げます』」2024年8月7日)。
舞台に穴をあけることになって、謝りたくなる気持ちは理解できる。日本では親や年長者から「人様にご迷惑をおかけしてはいけない」と言われて育ってきた人が多いからだ。しかし、長い芸歴を誇る大師匠や数々の名曲を世に送り出した偉大なミューシャンに申し上げるのは忍びないが、やはりわたしはこう言わせていただきたい。「風邪をひいたくらいで、謝らないでください」と。
誰だって、生きていれば繰り返し風邪をひく。年に1度くらいは、くしゃみ、はなみず、鼻づまりに加え、喉が痛くなって、声が出にくくなることがあるはずだ。たまには熱を出して寝込むことだってある。そんな状態なのに、声を商売とする芸人やボーカリストに「舞台に立て」と言うほうがおかしい。
どんなに感染対策をしたところで、風邪をひくときはひくのだ。風邪をひいて迷惑をかけるのも、かけられるのもお互いさまだ。それはコロナであったとしても同じ。そもそもコロナだって、実質的には風邪ではないか。実際、巨人師匠も翌日には「体調はもぅ普通に元気です!」とXに投稿している。コロナだけ特別視するほうが間違っている。
コロナであろうが風邪であろうが、「風邪をひいて声がでません。残念ですがステージはキャンセルさせていただきます」くらいのアナウンスで構わないはずだ。謝る必要などない。そして、調子がよくなってから、振り替え公演を行えばいい。
お客さんも、風邪やその他の病気でキャンセルになり得ることを織り込んだうえで、チケットを買うべきだ。芸人やミュージシャンだって生身の人間なのだから、それくらい受け入れるのが当然だ。そして、「お大事に。早い回復をお祈りしています。またステージで元気な姿を見せてください」とXに投稿するくらいの余裕を持ちたい。
「迷惑かけたのだから、謝るくらいいいではないか」と言われるかもしれない。だが、なぜわたしは「謝るべきではない」と言うのか。それは、「感染して迷惑をかけたら申し訳ない」と思わせるような社会的圧力が、「感染してはならない」という強迫観念を生み、多くの人に過度な感染対策をさせる大きな要因の一つになっていると思うからだ。
くり返し言うが、どんなに感染対策をしたところで、風邪にかかるときにはかかる。実際、多くの人がマスクをし続けて、何度もワクチンを打ったのに、いまだ新型コロナは流行り続けており、もう第11波だ。いまだに「感染対策をすればかからない」と思っているほうがおかしいではないか。
風邪にかかったのは、その人の感染対策に穴があったからではない。手洗い、消毒、マスク、ワクチンといった感染予防策に、ほとんど「効果がない」からなのだ。にもかかわらず、「感染してはならない」という強迫観念に囚われ続けると、無益な感染対策をやめられなくなる。
一般の人も感染したら「風邪をひいたので休みます」くらいで、謝る必要はない。そして職場の人たちも「お大事に」と返せばいい。そうやって軽く受け流すことで、感染したことに負い目を持ったり、咎めたりするような風潮を払拭したい。
そもそも感染することを「悪い」と捉えること自体が間違っている。感染したとしても、それで何事もなく回復したのなら、むしろ免疫がついて喜ばしいことではないか。なぜ感染して「ごめんなさい」などと言わねばならないのか。
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