… … …(記事全文4,815文字)2024年5月31日(金)、東京日比谷で「WHOから命をまもる国民運動大決起集会」が開かれた。これを報じた夕刊フジのネットメディアzakzakによると、主催者発表で1万2000を超える人が参加したという(「WHOが採択を目指す『パンデミック条約』などへの反対デモ、1万2000人超 主催者発表 決起集会には田母神俊雄氏の姿も」zakzak 2024年6月1日)。
残念ながら私は週刊誌記事の締め切りなどがあり、現地を取材することできなかった。X(旧ツイッター)などから流れて来た現地報告や動画等によると、日比谷公園大音楽堂(通称、野音)での決起集会には、会場に入り切れない人がたくさんいた。その後に行われたパレードデモも熱気に包まれていたようだ。多くの人がのぼりを掲げ、日の丸を打ち振りながら歩き、厚生労働省に向かってシュプレヒコールを上げていた。その中には、私の知り合いの医師たちや政治家、活動家、論客等々もたくさんいた。
決起集会に集まった政治家や活動家、論客たちの顔ぶれから、Xでは「特定の政治的思惑に誘導されるのではないか」という懸念や、日の丸を打ち振る人たちの光景を軍国主義の時代と重ね合わせ、「ナショナリズム(国家主義、愛国主義、国粋主義、民族主義など)の高揚や改憲に利用されるのではないか」と心配する声もあった。こうした指摘があることは、デモに参加した多くの人も、意識しておくべきだと思う。
ただ、そうした懸念はあったとしても、実際に行動を起こして、これだけの人を動員したことは、素直にすごいことだと思う。多くの人は「ワクチン接種の強制を許さない」「コロナワクチンの薬害を訴えたい」といった純粋な気持ちでデモに参加したに違いない。1万2000人超も集まったのだ。厚労省の役人たちにも、怒りの声は届いたはずだ。
その一方で、この決起集会とデモのあり方を見て、私はもう一つ別の道(オルタナティブな運動)を模索すべきだとあらためて思った。なぜなら、今回のような運動のあり方だと、ただでさえ「反ワクチン」を「陰謀論」の色眼鏡で見ている大手メディアはまともに取り上げないし、一般の人たちにコロナワクチンの薬害に対しての認知と共感を広げることは難しいと感じたからだ。
実際、ネットを検索したところ、今回のデモを報道した大手メディアはzakzakと毎日新聞だけだった(他にあれば教えてほしい)。しかも、後でも触れる通り、毎日新聞が掲載したのは、デモに潜入した記者による「反ワクチン」に対する偏見に満ちた記事だった(パンデミック条約に反対する理由=國枝すみれ(デジタル報道グループ)2024年6月2日)。
Xでは、「なぜこんなに大規模なデモが行われたのに、マスコミは取り上げないのか」「やはりマスコミは情報統制されている」という声が散見された。しかし、申し訳ないけれど、マスコミの端くれにいる私からすると、彼らが取り上げないのは不思議なことではない。日の丸が打ち振られた今回のデモは、彼らからすると特定の政治勢力に扇動されたものに見えたはずだからだ。
今回、zakzakだけが唯一中立的な記事を掲載したが、もともと夕刊フジは保守思想の論客を重用する産経新聞系列だ。だから、取り上げるのは不思議ではない。一方、朝日新聞、毎日新聞は代表的なリベラルメディアだ。日の丸を打ち振るようなナショナリズムの強い保守思想を、彼らは端から嫌っている。読売新聞や日経新聞は保守よりだが、左右のバランスは取ろうとする。そうしたメディアからすると、今回のデモを記事にするのは、自分たちが嫌いなナショナリズムの政治的思惑に利用されることになるので、「無視する」という判断になるわけだ。
それに加えて「パンデミック条約に反対」「WHOを脱退せよ」という主張は、メディア──とくにリベラルメディア──の多くの連中には、理解できなかっただろう。パンデミック条約や国際保健規約(IHR)改訂が決議されると、次のパンデミックが起こった時にWHO主導でワクチンの接種強要や言論統制が行われ、人権を奪われるのではないかという懸念は、私自身も共有している。
ただし、そうした主張が大手メディアにどれだけ通じるのかということも考えておく必要がある。日本のメディアの連中の、世界の保健当局としてのWHOへの信仰は、とても強いものがある。それは、この決起集会を「陰謀論者」の集まりであるかのように書いた毎日新聞の記事を読めばわかる。デモに潜入した國枝記者はこう書いている。
「WHOは『ワクチン接種を強制することはない』と否定している。また、国際保健規則が改正されても、加盟国は自国の保健政策に基づいて立法し、政策を実施するため、主権を失うわけではない。」
X(ツイッター)では言えない本音
鳥集徹(ジャーナリスト)