… … …(記事全文5,260文字)長い間、私は文藝春秋社にお世話になってきた。2010年頃から「週刊文春」を皮切りに医療記事を書き始め、月刊「文藝春秋」にも医療現場のルポや論考を何本も寄稿させてもらった。そして、何年か医療ムック本の執筆編集に関わり、単行本『新薬の罠 子宮頸がん、認知症…10兆円の闇』、新書『医学部』も出してもらった。2015年には『新薬の罠』で医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞することもできた。
現在も「週刊文春」が発行部数ナンバーワンの週刊誌であり、月刊「文藝春秋」が日本を代表するオピニオン誌であるのは間違いない。そんな社会的影響力の大きな雑誌に、フリージャーナリストとして実名で、10年以上にもわたって記事を書かせてもらったことには感謝の気持ちしかない。いま、多少でも私の名前を知る人がいて、本を出すことができるのは、文藝春秋社の人たちが目をかけてくれたおかげが大きい。
それだけに、文藝春秋のことを偉そうに悪く言うのは、本当に忍びないという気持ちがある。ある仕事で不義理をしてしまった申し訳なさもあって、自分にその資格があるのかとも思う。だが、今回は少しだけ言わせていただきたい。
2024年4月号の月刊「文藝春秋」に、京都大学名誉教授・福島雅典氏の論考「帯状疱疹、リウマチ、血管系障害、心筋炎……『コロナワクチン後遺症』驚愕の調査結果を京大名誉教授が発表」が掲載される。その抜粋記事が「文春オンライン」で公表されると、Yahoo!ニュースにも転載され、X(旧ツイッター)上で大きな反響を呼んだ。コロナワクチン接種後の有害事象に関する国内の学会での症例報告や、世界中で3000以上も出されている論文をめぐっての論考だ。
社会に大きな影響力を持つ文藝春秋が、コロナワクチンの負の側面を取り上げたことは大いに評価したい。だが、コロナ騒ぎの最中、文藝春秋は政府のコロナ対策の責任者を務めた尾身茂氏や、「8割おじさん」の異名を持つ京都大学教授の西浦博氏、政府やファイザー社のワクチン広告に協力した大阪大学教授の忽那賢志氏などを重用し、過剰な感染対策やワクチン接種を正当化する論調を展開してきた。そして、コロナワクチンの安全性や有効性について疑問視する声を、ほとんど伝えなかった。
私自身、お世話になってきた文藝春秋の編集者や週刊文春の記者に自分の本を送り、コロナワクチンの問題点について話したこともあった。しかし、「文藝春秋」も「週刊文春」も「文春オンライン」も、コロナワクチンを厳しく批判する記事を掲載しようとはしなかった。それどころか、そうした指摘のすべてが「トンデモ」であり、あたかも安全性が担保されているかのように誤認させる記事を掲載した。そうした姿勢に失望したことが、文藝春秋社と疎遠になった大きな一因となったのは否めない。
とくに問題だと思ったのが、忽那賢志氏による「読んではいけない『反ワクチン本』」(文藝春秋digital2021年9月30日)という記事だ。彼はいくつかの反ワクチン本を取り上げて、「医学的に誤った情報があふれている」と嘲笑った。確かに一部には、あやふやな根拠に基づいて、断定的かつセンセーショナルに書きすぎている本があったかもしれない。だが、忽那氏の安全性軽視の姿勢も、負けず劣らず酷かった。
たとえば忽那氏は、「『遺伝子改変が起こる』『不妊になる』など、医学的に誤った情報があふれています」と書いている。確かに、そういうことが起こると断言はできない。だが、現時点で、遺伝子改変や不妊のリスクがあり得ないと科学的に証明されているわけではない。体内にmRNAという遺伝情報を送り込む以上、逆転写されて遺伝子が改変される可能性は、絶対にゼロと言い切れない。不妊にしても接種後の不正出血や生理不順が報告されているのは事実だ。それが将来、不妊につながる恐れはないかと警戒するのは当然ではないか。にもかかわらず、「医学的に誤った情報」と断罪するのは間違っている。
X(ツイッター)では言えない本音
鳥集徹(ジャーナリスト)