… … …(記事全文5,801文字)昨年3月、政府は「マスクをするかどうかは個人の判断」とし、5月には新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけを季節性インフルエンザ並みの5類に引き下げた。事実上、コロナ前の暮らしに戻ったと言える。
しかし、巷を見渡すと、いまだにマスク着用を続けている人が多い。とくに、医療機関や介護施設ではマスク着用を求めるところがほとんどで、厳しい面会制限も続いている。このままだと、いつまでも過剰な感染対策が続いてしまうかもしれない。
実は、コロナ騒ぎ当初から厳しすぎる感染対策に異を唱え、マスクも面会制限も求めなかった医師がいる。静岡市立静岡病院緩和ケア内科主任科長・血液内科科長で感染管理室室長の岩井一也医師だ。どうすれば、この閉塞した状況を変えることができるのか。岩井医師と語り合った。
鳥集 2020年初頭、国内で新型コロナウイルスの市中感染が明らかになった当初は未知のウイルスという怖さがあり、多くの人がマスクに飛びつきました。早くからマスクは不要と訴えてきた岩井さんも、さすがに最初はマスクをしていたのですか。
岩井 いいえ。当初から日常的にマスクは着けていませんでした。マスクをしたのは患者さんを診察するときだけでした。
鳥集 どうしてマスクをしなかったんですか。コロナを怖いとは思わなかったのですか。
岩井 私はそもそもマスクが体に合わないんです。私は感覚が過敏で、マスクをすると口の周りが気になって仕方がない。それに、マスクしている人は顔が見えないので、のっぺらぼうみたいに見えて、怖いと感じてしまうんです。コロナは怖いと感じたことはほとんどないですね。
鳥集 マスクしている人を怖いと感じてしまうのは、岩井先生の特性みたいなものですね。
岩井 そうです。理屈ではなくて、頭が勝手にそんなふうに感じるんです。最初からユニバーサルマスク(いつでもどこでもマスク)にも反対で、病院の中でもずっとつけていませんでした。「マスクは健康な人がするものではない」と思っていましたから。でも、私以外の病院のスタッフは100%マスクしている。そのため、私に対する苦情が絶えませんでした。「感染管理のトップがマスクしてないのはどういうことや」って。
鳥集 岩井さんは静岡病院の感染管理室室長も兼任されているんですね。
岩井 はい、そうです。地元では新聞にもテレビにも出て、顔も知られていました。なので仕方なく、病院内では半年か1年くらいはマスクをしていました。
鳥集 そもそもコロナ騒ぎが始まる前から、マスクの効果を検証する臨床試験が複数行われていましたが、インフルエンザのような呼吸器感染症の感染を防ぐという信頼できるエビデンスは出ていませんでした。岩井先生もそれはご存じだったんですね。
岩井 もちろん知っていました。だからユニバーサルマスクも意味ないと思っていたんです。PPE(つなぎのスーツ、フェイスシールド、足カバー、ゴーグルなどを着込む使い捨ての個人防護服)についても、不要であることを示す資料を集めて、「もうやめよう」と院内で話したんです。そして、静岡新聞にも記事にしてもらいました(静岡新聞「医療従事者消耗の一因 防護服『フル装備』は本当に必要か リスクに応じ軽装実践、静岡市立静岡病院が提起【新型コロナ】」2021年5月5日)。
X(ツイッター)では言えない本音
鳥集徹(ジャーナリスト)