… … …(記事全文5,189文字)◆安全保障政策の大転換
一年前の2022年12月16日、政府は防衛三文書(国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画)を改訂しました。国家安全保障戦略は外交・防衛の基本方針をうたうものですが、ここで中国の外交姿勢や軍事活動が「深刻な懸念事項」、日本の平和を確保する上で「最大の戦略的な挑戦」と強い表現で書かれました。今後10年間の防衛方針を定める国家防衛戦略では「周辺国のミサイル技術が進化する中で迎撃能力だけでは対応が難しくなりつつある」とし、「有効な反撃を加える能力を持つことにより、武力攻撃そのものを抑止する」としました。しかし反撃能力は「必要最小限度の自衛の措置であって専守防衛の方針に変わりはない」と説明しています。自衛隊と米軍の役割分担にも変更はなく、日米が協力して反撃能力を使用する、としました。
国家安全保障戦略で中国の軍拡や北朝鮮のミサイルが脅威だという認識を示しながら、相手のミサイル発射拠点をたたく反撃能力は「自衛の措置であって専守防衛の方針に変わりがない」って矛盾していませんか。専守防衛というのは相手に先手を撃たれてからようやく反撃できるってことです。相手は準備万端、整えたうえでいつでもミサイルを発射できます。その分、有利で余裕がありますが日本は被害が出てからでなければ反撃できません。これで「武力攻撃を抑止できる」のでしょうか。
今後5年間の防衛費の総額や主要装備の数量など、具体的な数字が防衛力整備計画に記載されますが、ここが今回の改訂の目玉なのでしょう。何といっても防衛費の総額です。日本の防衛費は1976年に三木武夫政権が国民総生産(GNP)比1%という上限を設けて以来、ほとんど1%を超えることはありませんでした。ところが今回の改訂では日米の役割分担に変更はないとしながら防衛費は公共インフラや科学技術研究費などを含めてGDP比2%に近づける、としています。一挙に二倍です。これは驚くべき変更です。防衛費が前年よりわずかに上がっただけで「日本は軍事大国になるのか!」とか「戦争ができる国になるのか!」とかこれまで大騒ぎしていた左派メディアがこれに沈黙しているのが不思議で仕方がありません。