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やっぱり地理が好き
~現代世界を地理学的視点で探求するメルマガ~
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第265号(2026年8月9日発行)、今回のラインアップです。
①世界各国の地理情報
~新・要衝を押さえる② 支配が制度になるとき、ホルムズ海峡~
②今週の気になるニュース
~セウタに殺到した6万人、飛地という圧力装置~
③大地が決める通貨
~第2回 貝 採れない場所ほど価値が上がる~
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こんにちは。
地理講師&コラムニストの宮路秀作です。
日頃、周りの人たちからは「みやじまん」と呼ばれています。
今回で265回目のメルマガ配信となります。
8月となりました。
本メルマガのご購読を継続していただいたみなさま、大変感謝いたします。
ありがとうございます。
突然ですが、みなさんは高速道路の料金所を通るとき、何を考えていますか?
おそらく、何も考えていないと思います。
挑発的なことを申して、すみません!
きっとETCのバーが上がり、そのまま通り過ぎる。
ただそれだけでなのではないでしょうか。
ところが、あの料金所は、なかなか意味深い場所に建っています。
例えば、東名高速道路の東京料金所は、多摩川を渡ってすぐの場所にあります。首都高速道路との境目です。中央自動車道の八王子料金所も、山あいへ入る手前に置かれています。どちらも、そこを通らないと先へ進めない場所です。
料金所は、どこにでも建てられるわけではありません。道が広がってしまえば、脇道から抜けられてしまいます。逆に、道が1本に絞られる場所であれば、そこに立つだけで、通るすべての車を捕まえられます。
つまり料金所とは、道がいちばん細くなった場所に置かれた装置といえます。
そして、細くなった場所を押さえた者には、2つの力が手に入ります。
1つは、通行料を取る力。
もう1つは、通さないという力です。
当コラムで、「要衝を押さえる」をテーマにした回があります。
要衝がなぜ要衝なのかというと、結局はここに尽きます。回り道が利かないほど道が細く、そこを通るしかない。だから、そこを押さえた者に力が集まるわけです。
「要衝を押さえる」とは実に大きな影響力を手にすることであることを、もっと理解する必要があります。
今週は、その細くなった場所を3つ見ていきます。
1つめは、ペルシア湾の出口ホルムズ海峡です。
半年間、船を撃って閉じてきた国が、いま、その通り方を決める協定を結ぼうとしています。
2つめは、ジブラルタル海峡の南岸、スペイン領セウタです。
7月30日、およそ6万人が国境へ殺到しました。多くは泳いで渡りました。
3つめは、貝です。
海で採れる貝が、海から数千キロメートル離れた内陸で、通貨として使われました。運ばれる道の長さこそが、その価値を決めていたのです。
海の道、人の道、貝の道。
それでは、今週も知識をアップデートして参りましょう。
よろしくお願いします!
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①世界各国の地理情報
~新・要衝を押さえる② 支配が制度になるとき、ホルムズ海峡~
「要衝を押さえる」とは、何を意味するのでしょうか?
それは、政治的、経済的に重要な意味を持つ場所を通れなくすることではありません。誰を、どこに、どう通すかを決める立場に立つことです。
例えば、モントルー条約です。
トルコが建国してから13年経った1936年、ローザンヌ条約(トルコの独立と国境を確定した講和条約)の締約国に条約改正を通告し、スイスのモントルーで新しい通航制度を定める国際会議が開かれました。1923年のローザンヌ条約では、トルコに海峡の主権は承認されたものの、すべての海軍の自由航行権が認められ、海峡は非武装とされていました。それがモントルー条約で、海峡の再武装が承認され、軍艦の艦種、トン数、時期などに制限が付されたわけです。
つまりトルコは、いったん奪われた海峡の管理権を、戦争ではなく条約によって取り戻したということです。ここが重要です。
武力で押さえたのではなく、国際会議で正当性を得たということです。
その中身は、商船の通航は自由で、トルコは安全上の理由がない限り止められない。軍艦の通航は厳格に制限され、黒海沿岸国の軍艦は事前通告のみで通れるが、それ以外の国の軍艦にはトン数と滞在日数の制限がある、というものです。軍艦は8日前の予告で通航でき、黒海に面していない国の軍艦には15日前の予告が求められます。商船は自由に通し、軍艦だけを選別する。
まさに、誰をどう通すかを決められる立場です。
この条約は過去のものではありません。2022年2月、トルコはロシアによるウクライナ侵攻を戦争だと認定し、モントルー条約にもとづいて両海峡の軍艦の通過を制限すると表明しました。戦時に脅威がある場合、軍艦の通航を阻止する権利がトルコに認められているためです。
90年前の条約が、いまも黒海の戦争の形を左右しています。これが、制度になった支配の強さです。
ホルムズとの比較で見えるもの。ここが最も面白い点といえます。
第二次世界大戦後の国際法では、自然にできた海峡を航行する艦船に対し、海峡に面する国は制限を加えられないという考え方が成立し、国連海洋法条約に条文化されました。ボスポラス海峡とダーダネルス海峡もまた、この条約上の国際海峡にあたるため、「軍艦を含めた自由航行ができてしかるべきだ!」という理屈です。
ところがトルコ政府は、同条約の規定によって通過通航権の対象外だと主張し、一貫してモントルー条約の緩和には否定的です。
要衝を押さえるとはこういうことです。
国際法の潮流は自由航行へ向かっているのに、トルコは90年前の条約を盾に、管理権を手放さない。
▼#56:ロシアの穀物輸出②
https://foomii.com/00223/2022032721000092648
▼#61:今、世界市場では小麦の奪い合いが起きている
https://foomii.com/00223/2022050821000094291
▼#66:シリア内戦とトルコ憲法、エルドアン大統領が見ている未来
https://foomii.com/00223/2022061300200095625
ホルムズ海峡でイランがやろうとしているのは、これと同じ構図です。ただし、イランには条約という正当性がまだありません。だからこそ、オマーンとの取り決めという形で、それを作ろうとしているわけです。
2026年の夏、ペルシア湾の出口で起きているのは、まさにその移り変わりでした。半年にわたって船を攻撃し、海峡を閉じてきた国が、いま、その海峡の通り方を決める協定を結ぼうとしています。力ずくで閉じる段階から、取り決めによって通し方を決める段階へ。要衝の支配が、制度の衣をまとおうとしているわけです。
■閉じられた要衝
ホルムズ海峡は、ペルシア湾とオマーン湾を結ぶ細い水路です。平時には、世界で消費される石油のおよそ5分の1が、ここを通って世界へ出ていきます。サウジアラビアやイラク、アラブ首長国連邦、クウェート、カタール、これらの産油国にとって、ここはインド洋への、ひいては「世界経済」への唯一の出口といえます。
