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やっぱり地理が好き
~現代世界を地理学的視点で探求するメルマガ~
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第206号(2025年5月11日発行)、今回のラインアップです。
①世界各国の地理情報
~米が買えない! 「令和の米騒動」の舞台裏~
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こんにちは。
地理講師&コラムニストの宮路秀作です。
日頃、周りの人たちからは「みやじまん」と呼ばれています。
今回で206回目のメルマガ配信となります。
先日、銀座にあります「ろくさん亭」に行ってきました。「ろくさん亭」といえば、ご存じ道場六三郎のお店。
道場六三郎といえば、かつてフジテレビで放送されていた「料理の鉄人」(1993.10~1999.9)にて、初代「和の鉄人」として厨房で腕を振るった方。六人兄弟の三男ということで「六三郎」と名付けられ、番組放送時に63歳を迎えるなど、「63」という数字に何かとご縁のある方。
これまで名を轟かせ、あれだけの勲章を持った方のお店ですから、そりゃお値段も相当します。とはいえ、ろくさん亭の「懐コース」は一人14850円ですので、個人的な感覚からすればそれほど高いとは思えない値段です。もちろん絶対的に高い価格とは思いますが、道場六三郎のお店であり、銀座という立地を考えれば、この価格で楽しめるならば高いとは思わないということです。
この「絶対性」と「相対性」を別にして考えることは非常に重要です。
相対的に「これくらいなら妥当だろう」と思って付けた値段であったとしても、客は自分の主観で絶対的に「高い!」と文句を付けることは多々あります。値付けというのは本当に難しいものです。
お金を出せば美味しい物が食べられるのは当たり前。問題は、食後の多幸感と値段が釣り合っているかどうかの問題です。今回訪れたろくさん亭は、店員さんがお店の出入り口まで付き添ってくださり、声をかけていただき、最後まで「おもてなし」を味わうことのできる時間を演出していただきました。
当メルマガは、毎月770円(税込み)で発行しておりますが、「みやじまんのコラムをこの値段で読めるなら妥当!」と思ってくださる方もいれば、「770円の価値はねぇよな……」とメルマガ購読を解約される方もいらっしゃることでしょう。もちろん、前者のような感想を持ってもらえるように何ができるかを日々考えますが、驚異的なスピードで成長できるものではありません。
購読者の心理は、わたくしには支配できない領域です。
とはいえ、もっとメルマガの読者が増えてほしいなという気持ちはありますので、何か良い手立てを思いつく方は、文末のURLからご一報ください!!!
さて、最近米の値段がとにかく急騰しています。この値付けは本当に正しいのか? それとも異常なことなのか? 今回は「令和の米騒動」について、まとめていきたいと思います。
ポイントは以下の4つです。
1.2023年の猛暑と少雨に伴う「隠れた米の不作」が米価格高騰を招いた主因
2.肥料価格高騰や燃料費上昇が農家の生産縮小に拍車をかけ、供給力が低下
3.備蓄米を迅速に放出しなかった政府の危機管理能力の欠如が価格高騰を悪化
4.米の備蓄制度や減反政策、流通改革など、日本農政の根本的改革の必要性
それでは、今週も知識をアップデートして参りましょう。
よろしくお願いします!
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①世界各国の地理情報
~米が買えない! 「令和の米騒動」の舞台裏~
最近では、米の値段が急騰していることもあって、市中から悲鳴が聞こえてきます。
わたくしは基本的に家では玄米しか食べないのですが、白米同様に玄米の値段も急騰しています。Amazonで米を買った記録を見返してみると、2023年10月22日に購入した「あきたこまち5kg」の値段が2265円でした。同じ商品を、本日5月11日に確認してみると、なんと5621円! なんと2.5倍にまで膨れ上がっています。しかも、2kgが3680円となっており、2年前の5kgよりも高い値段です。
これは市中から悲鳴が聞こえてくるのも無理がありません。
巷では、「政府の責任である!」という論が支配的のようになっていますが、実際のところ何が原因なのかと考えたときに、短絡的に「これが原因である!」と「俺が考えた最強の理論」を振りかざすのではなく、やはり複線的に考えることに意味があります。
今回は、なぜここまで米の値段が急騰したのかについてまとめてみたいと思います。
■猛暑と少雨が生んだ「隠れ不作」
実は2023年の時点で、日本の米事情に異変が起きていました。
記録的猛暑と少雨により、お米の生育と品質が深刻な打撃を受けていました。そもそも、2023年夏といえば、同年の春に発生していたエルニーニョ(2024年春まで継続)の最中でした。
本来であればエルニーニョが発生すると、太平洋赤道域東部の海面水温が上昇し、太平洋高気圧(夏の猛暑の主因)の勢力が弱まること、また日本付近では偏西風が南下し、オホーツク海高気圧が強まって冷涼な空気が入りやすいことなどから、夏の昇温が抑制される傾向があります。これが1993年の「平成の米騒動」の要因の一つでもありました。
▼エルニーニョ現象及びラニーニャ現象の発生期間(季節単位)
https://www.data.jma.go.jp/cpd/data/elnino/learning/faq/elnino_table.html
しかし、2023年夏は、インド洋でのダイポールモード現象(太平洋高気圧の勢力を強める)が発生したこと、チベット高気圧が例年よりも日本列島付近にまで張りだしたこと、日本近海での極端な海洋熱波が発生したことなど、複合的な異常気象となっていました。
「エルニーニョ=冷夏」という、「とりあえず、わかりやすさを求めようとする姿勢」は真実に迫れないのだということです。
日本一の米どころ新潟県では、コシヒカリの1等米比率が例年80%前後であるにもかかわらず、わずか4.9%に激減しました(うるち米全体でも15.7%)。業界関係者にとって衝撃的なこの数字は、猛暑による高温障害で米粒が白濁・亀裂し、等級落ちした結果です。追い打ちをかけるように、新潟では8月の降水量が極端に少なく水不足に陥りました。
政府統計上は作況指数101と“平年並み”でしたが、実際には精米時の歩留まり低下(米を精米するとき割れてロスが増える)が深刻で、体感的な収量は平年を下回っていました。まさに令和5年産米は「隠れた米の不作の年」だったといえます。
▼令和の米不足~店頭から米が消えた理由と今後~
この品質低下は市場にじわじわと影響を及ぼし、翌2024年の夏には「令和の米騒動」と呼ばれる事態に発展しました。例年であれば新米登場直前の8月に店頭から米が消えることはありません。しかし令和6年(2024年)8月、一部スーパーの米売り場は空っぽになり「入荷未定」の札が下がりました。
前年産(2023年産)米の在庫消化期とはいえ、異例の品薄です。実際、2023年産米の供給不足分を埋めるため平年より40万トン以上少ない在庫で新米シーズンを迎える羽目になりました。1993年の「平成の米騒動」では冷夏凶作でタイ米の緊急輸入に追われましたが、幸い令和の今回はそこまでではないにせよ、市場の緊張感は高まりました。
▼令和の米騒動 農水省が招く飢饉
https://cigs.canon/article/20250425_8830.html
「夕方に行っても棚に米がない。国は前からわかっていたはずなのに、なぜ手を打たないのか不思議」
消費者からはそんな不満の声が漏れ始めます。
▼国「在庫は十分」とするも『店頭はスカスカ』…流通に何が起きてる?
https://www.uhb.jp/news/single.html?id=45032
実際、2024年10月以降も民間在庫は回復せず前年を43~44万トン下回った状態が続いていました。米がこれほど市場から消える光景に、人々は嫌でも1918年(大正7年)の米騒動や1993年(平成5年)の米不足を思い出すわけです。
■生産者に追い打ち ~肥料高騰と作付け縮小~
需給逼迫の背景には、気候だけでなく生産コストの問題もありました。