… … …(記事全文4,003文字)●極秘会議の開催
2002年の小泉訪朝、5人の拉致被害者帰国の後、事態がなかなか動かない状況の中で、ある夜極秘の会議が開かれた。場所は、東京・永田町のキャピトル東急ホテルの会議室。出席者は、拉致議連の中川昭一氏、安倍晋三氏(オブザーバー)、家族会の横田滋・早紀江夫妻、私、救う会の佐藤勝巳氏、西岡力氏、そしてなぜかマイケル・グリーン氏(NSC:アメリカ国家安全保障会議日本・朝鮮担当部長)だった。
会議は、北朝鮮が死亡したとする拉致被害者、特に横田めぐみさんについて、それを覆す物的証拠を得ることが出来ないかという論点で進められた。そのためには、北朝鮮にいる内通者に証拠を掴ませる、あるいは誰かが侵入し被害者の写真を撮ってくるか、最低限でも肉声を録音してくるしかない。前者に該当する者は現在のところいないし、これからそういう人物を育成するには時間がかかり過ぎる。したがって、後者しかない、が一体誰がそれを実行するのか。
●安明進氏が侵入する
「韓国に亡命した元北朝鮮工作員にはできないか」と切り出したのは中川氏だった。その人の名前は安明進(アン・ミョンジン)氏である。安氏が来日した時に面倒を見ている救う会側は「彼はやると言っている」と回答した。私は「亡命したのだから、日本にいても暗殺の危険がある。それを、自ら北朝鮮へ向かうほど危険なことはないだろう」と俄かに信じ難かった。救う会は「やるからにはそれなりの対価が必要だ」とも付け加えた。中川氏が「いくらだ」と問うと、「5、6百万円は必要としている」と回答。どう捻出するかについて議論した。
中川氏が、「議連が200万円出す。家族会200万円、救う会100万円でどうだ」と割って入った。誰も異議を唱えなかったため、それで決定となった。「具体的にどうやって、写真を撮って来るのか」と中川氏が尋ねた。救う会は、「陸路は難しい。船で接近し上陸する。あとは、地理に明るく、めぐみさんがどこにいるかも安氏なら知っている。そこで写真を撮って速やかに引き返してくればいい。元工作員ならできるはずだ」と説明した。すると、中川氏は早紀江さんのもとへ行き、「これでめぐみさんを助けることができるよ。良かったね。早紀江さん」と涙ながらに話しかけた。中川氏は、もともと情熱的で、とりわけめぐみさんのことになると涙もろいところがあった。
資金は、救う会経由で安氏に渡し、人や船など資機材の手配を行い、天候や情勢を見ながら実行に移すこととなった。最後に、この計画は、日本政府は一切かかわっていない民間レベルで行うもので、決して口外してはならないことを確認して会議は終了した。