… … …(記事全文3,029文字)●有本明弘さん死去 享年96
拉致被害者有本恵子さんの父明弘さんが老衰により亡くなった。96歳。「これで未帰国の政府認定拉致被害者の親世代で健在なのは横田早紀江さん(89)だけになった」。各メディアはこう報じた。余談だが「未帰国の」と断っているのは拉致被害者蓮池薫の親世代は、父97歳、母92歳と両親とも存命だからだ。旧稿で述べたとおり、帰国した拉致被害者の親世代は何度もメディアに「殺された」。そしてその都度私は抗議してきたため、特にメディア側は注意を払っているのだろう。
親世代にこだわる理由も分からなくはないが、もともとそういう人が存在しない被害者もいることを考えると複雑な思いがする。また、相も変わらず「恵子は生きていると信じ」「奔走40年再会かなわず」といったエモーショナルな見出しが並んでいる。「かなわず」ではなく、日本政府に「かなえよう」という強い気持ちがないからだろうと立腹するより鬱憤がたまるばかりだ。
●拉致対の啓発は「後継者育成」?
半世紀という長い年月が経過すれば、こういうことが起きるのは政府や拉致問題対策本部事務局の人たちにも想像できるはずである。それを拉致問題対策本部は、小学生や中学生などを対象に拉致問題の啓発活動に精力を傾注している。親世代がすべていなくなった時のために「後継者を育成」しているのかと穿った見方をしてしまう。
いつまでこんなことをしているのだろうか。考えてみれば、拉致被害者で最年少者は、横田めぐみさん60歳、最年長者は久米裕(くめゆたか)さん100歳である。いずれも生存していればの話だ。これ以上時間が過ぎれば、「救出運動」は成り立たなくなるのは自明である。ある時点をもって「賠償請求運動」に切り替えるつもりなのだろうか。