Foomii(フーミー)

蓮池透の正論/曲論

蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)

蓮池透

やはり東電はもとより「原子力ムラ」は解体すべき

「廃炉に向けた重要な一歩」。福島第一原発2号機でデブリが回収されたことで、メディアは大騒ぎした。回収したのは、約5ミリメートル大、重さはたったの約0.7グラムである。表面線量率が低いことから、溶融核燃料成分が含まれていない可能性もある。経産相は「一部の作業に遅れが生じているが、全体の工程に現時点で影響はない」と述べた。何とも能天気なものである。こんな状況を見ていると、6年前に書いた東京電力及び「原子力ムラ」解体論を再び語りたくなる。

 

●東京電力は政府が守る

福島第一原発事故直後、東京電力の破綻処理を主張した専門家もいたが、結局、日本政府はそれをしなかった。政府自らが矢面に立ちたくない、原発推進をしてきた責任の回避、東京電力に絡む利権の維持など、様々な理由があるのだろう。実質国有化されているにもかかわらず、東京電力という看板は下ろさない。そして経営が行き詰りそうになると、政府に救済を求める。その金額は青天井と言っても過言ではない。そこまでして、東京電力を存続させる必要があるのだろうか。

 

●東京電力社長から届いた書簡

福島第一原発事故直後、東京電力社長名で書留郵便が届いた。日ごろから原発批判をしている私への抗議文か、いやそんなはずはない。開封すると「企業年金引き下げのお願い」と題する依頼状だった。その文面には「先輩の皆さまが築きあげた東京電力を再生・存続させるため」との文言があった。「別に再生・存続してもらわなくとも一向にかまわない」と、年金引き下げとは別の意味で気分が悪くなった。

 

●リストラは不完全

当の東京電力は、財産処分、リストラなど「身を切る」施策を徹底的に行ったと言われている。当然のことだ。しかし、それらは完璧に行われたのだろうか。不動産など目に見える処分は実行されたと考えられるが、社員の数が大規模に削減された様子はない。また、それなりの賃金カットは行われたが、現在は事故前のレベルの戻ったとされる。

 

そもそも、技術部門で考えた場合、東京電力社員が自ら工事等に当たる例はほとんどない。すべて、委託・請負で済まされているのが実態だ。予算計上、工事の設計・見積もり、工事業者が提出する見積もり数量の査定、工事管理など事務的作業に特化されていると言ってよい。そこに約3万8千人もの社員が必要なのか。事故以降、相当数の社員が自主退職したと言われるが、もっと合理化が可能なはずである。だが、ここ数年は逆に増加傾向にある。

 

 

●原子力部門が足かせ

2017年、東京電力は業務改善を目的に「東京電力フュエル&パワー(FP)」と中部電力が共同出資する火力発電会社「JERA(ジェラ)」を本格稼働させた。また、国内を含めて火力発電社債発行を再開するなど、東京電力は再建に向けて躍起になっていた。自立しているとのアピールとも受け取れた。しかし、福島第二原発の廃炉決定など、原子力部門が相変わらず経営に災いをもたらしている状況は変わらない。

 

●東京電力は解体 国策会社を設立

東京電力が解体されたとしても、電力供給は必須のものであるのは言うまでもない。原子力を除いて水力、火力、送配電の業績は良好であることに鑑みれば、いったんすべての資産を売却して東京電力を解体・破綻処理し、事故処理費に当てる。東京電力株は紙きれになり、融資返済は焦げ付き、株主や金融機関に損失が発生するが、彼らの責任も問わざるを得ないことからあきらめてもらおう。その後、水力、火力、送配電の独立した会社を新設する。現状の「形」だけではない真の完全分社化で、もちろん独立採算制を採用する。それぞれ採算は取れるであろう。ダラダラと税金を投入するよりもこちらの方が合理的である。

 

政府は原子力を推進してきた責任を明確に認めたうえで、国策会社を設立し、賠償、廃炉、廃棄物処分などの責任を担う。それが、ベストの方策ではないか。

 

国営会社であるから、国民の税金を使い、利潤を追求することはしない。そういう意味で、事故処理費用を、原発を持たない新電力とその契約者にも負担させるとしたシステムは論外、もってのほかである。さまざまな理由から電力会社を選択できるといった電力自由化の本来の目的から外れるからである。

 

●真の電力自由化

問題の原子力利用であるが、現存する原発からすべて撤退することが大前提である。東京電力に限らず、他の電力会社についても革新的な改組をしてはどうか。人口密集地である都市部では不可能かもしれないが。それ以外の地域では電力の「地産地消」モデルを導入できる見込みは十分にある。原発の特徴である、「大規模生産・大規模要否」の時代はもはや終焉しており、再生可能エネルギーへの大規模な転換を強力に推進していくべきである。

 

電力自由化が導入されたものの、昨今の原材料の高騰などにより、電力会社の切り替えは伸び悩み、旧一般電気事業者の10電力会社が主体となっている現状がある。新電力会社についても、供給する電気が何を起源に作られたのか明確ではない。原発由来の電力を忌避し、再生可能エネルギーを希望する消費者の選択肢が限られてしまっている。まず、中立・公正な送配電会社を設立しなければならない。そうでなければ、本当の意味での電力自由化は実現しない。よって、健全な競争原理の働く市場は誕生しない。

 

●未だに暗躍する「原子力ムラ」

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