Foomii(フーミー)

蓮池透の正論/曲論

蓮池透(元東京電力原子力エンジニア)

蓮池透

女川原発2号機 前倒しで再稼働もあっけなく停止


●前倒しで再稼働も5日後に原子炉停止

東北電力女川原発2号機は、当初予定より4日間前倒しで10月29日に再稼働した。しかし、わずか5日後の11月3日にトラブルが発生し、あっけなく原子炉を停止した。報道によれば、トラブルがあったのは原子炉内の状況を示す「中性子検出器」の補助計器。電動での出し入れができなくなり、手動で回収した。原子炉に異常はなく、東北電力は計器本体や出し入れする装置など何らかの問題があるとみて原因究明を進めるという。


地元報道の中には、原因究明には格納容器内へ立ち入らなければならず、原子炉を停止したと解説するテレビがあったが、それは違う。報道では何が起きているのか、まったくわからないので、本稿において詳細について解説したい。


●「補助計器」はミスリード

「中性子検出器」の補助計器とするのはミスリードである。原子炉内の中性子束(中性子の数=原子炉出力)を計測する計器は、起動時から100%出力運転時まで、非常に大きなレンジをカバーしなければならない。このため、複数の計器により役割分担している。今回のケースは、原子炉を起動し臨界に達した後、出力を上げて行く段階であるので、LPRM(Local Power Renge Monitor:局部出力領域モニタ)、APRM(Average Power Range Monitor:平均出力領域モニタ)が対象になる。前者は局所的な出力、後者は何個かの検出器の信号を平均化した出力を指示する。


今回のトラブルで対象になるのは、TIP(Traversing in Core Probe:移動式炉心内計装である。TIPの役割は、リアルタイムで原子炉内の軸方向の中性子束を測定する。測定値は、プロセス計算機へ送られ炉心性能計算機能によって原子炉の出力分布が算出される。この出力分布を元にLPRMのゲイン校正が行われる。簡単に言うと、実際の中性子束を測定し、制御室にある指示計が正確な値になるよう調整するのである。TIP自体は安全系ではないものの、その測定値を元に安全系が調整されるのであるから、非常に重要なシステムと言える。したがって、格納容器に入る必要があるという簡単な理由ではなく、TIPの出し入れができない、つまり原子炉の出力分布を把握できない状態では、その時点で即刻原子炉を停止するのは当然のことである。


●TIPのシステム

言い遅れたが、原子炉内には様々な中性子束検出器が備わっている。これらとは別に、以下の機器が格納容器内外に設置されている。

・TIP検出器

先端に中性子束検出器を備えたケーブルであり、これが格納容器外から炉心内へ挿入され、軸方向の中性子束を測定する。

・案内管

TIP検出器が格納容器外から、炉心内へ移動するための直径約25ミリメートル~の管である。内側には乾燥潤滑剤(二硫化モリブデン)粉が塗布されている。

・駆動装置

TIP検出器を炉心内まで挿入、引き抜きを行う電動の装置。ケーブル巻き取り用のリールを備え格納容器外に設置される。

・遮へい容器

炉心から引き抜いたTIP検出器を収納する容器。(一度中性子照射を受けた検出器は強い放射線を出すようになるため)

・隔離弁、爆発弁

格納容器バウンダリーを維持するための弁で通常は閉じている。爆発弁は異常時、強制的に爆発により閉状態にする。

・索引装置

TIP案内管を挿入する炉心内位置を選択する。

・TIP計測制御装置

TIP検出器の駆動制御と検出器信号の処理を行う。


これら一連の設備が、女川2号機クラスの原子炉では4系統ある。原子炉内にTIP検出器を挿入する管は31カ所(うち1カ所は共通校正管)あるが、これらの4系統で分担している。TIPシステムの概要図を以下に示す。



●TIPトラブルはよくあることだった

今回の女川原発2号機のTIPトラブルに触れて、まだ手動で引き抜くようなことが行われているのかと驚いた。同機は1995年の運転開始から約30年が経過しようとしている。おまけに、13年間停止というブランクもある。乾燥潤滑剤(二硫化モリブデン)粉の劣化や剥離、あるいは塊となってTIP検出器の行く手を阻むことは十分に考えられる。どのようなメインテナンスを行ってきたのか、しっかりとした検証が必要である。

 

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